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ステマ規制が始まる~適切な広告の在り方を考える~

(※本記事は、2023年10月6日配信のスパークル法律事務所ニュースvol.13の内容です。) 


  令和5年10月1日より、景品表示法におけるステルスマーケティングに関する規制 (「ステマ規制」)が開始しました。

 ステルスマーケティングとは、広告主が広告であることを隠して宣伝を行うことをいいます。多くのフォロワーを持つSNSのインフルエンサーなどに金銭や商品を提供し、自社の製品を紹介してもらうという広告手法は最近よく目にしますが、その際、自社の製品の広告であることを隠し、あたかもインフルエンサーが自主的にその製品を評価しているかのように装うような場合が典型です。ステルスマーケティングは従来明確には規制されていませんでしたが、消費者を欺く広告手法として物議を醸しており、芸能人がステルスマーケティングに関わったことがスキャンダラスに報じられることもありました。

 今回、ステマ規制が開始され、景品表示法(「景表法」)の規制対象となることが明確化されたことにより、企業の広告宣伝活動にも一定の影響があることが予想されます。

【1】ステルスマーケティングを規制する必要性

 ステルスマーケティングの問題点は、実質的には事業者の表示(広告)というべきものについて、事業者以外の第三者の客観的な表示であると誤解するところにあります。消費者庁が今回のステマ規制の開始にあたって公表した『「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準』(「ステマ規制ガイドライン」)によると、一般消費者が事業者の表示である(=広告である)と認識すれば、表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考える一方、ステルスマーケティングの場合、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得るとは考えないため、「一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある」と指摘されています。

 今回のステマ規制の検討過程で消費者庁が設置した「ステルスマーケティングに関する検討会」が令和4年12月28日に公表した報告書では、「インターネット広告業界にステルスマーケティングが横行しているのが現状」、「インフルエンサーの投稿について…100件のうち、20件程度の割合でステルスマーケティングと思われるような投稿が存在した」など、実際にステルスマーケティングが行われている実態について報告されています。

【2】今回のステマ規制の構造

 ステルスマーケティングは、2023年3月28日付内閣府告示第19号において、景表法5条3号に基づく禁止される表示として指定され、同告示は2023年10月1日から効力が発生しました。なお、景表法5条は「事業者」を名宛人としており、例えば事業者の依頼を受けて表示を行ったインフルエンサー自体等は本規制の対象とはなりません。

 内閣府の告示は、①「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であって、②「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」を不当表示とするとしています。これらの要件について、ステマ規制ガイドラインにおいて運用基準が示されています。

(1) ①自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示について

 ステマ規制ガイドラインは、事業者が表示内容の決定に関与したと判断される場合がこれにあたるとし、これを「事業者が自ら行う表示」と「事業者が第三者をして行わせた表示」に分類しています。

 「事業者が自ら行う表示」については、事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員等が行った事業者の商品又は役務に関する表示であるとし、具体例として「販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員等…が、商品又は役務の画像や文章を投稿し一般消費者の当該商品又は役務の認知を向上させようとする表示、自社製品と競合する他社の製品を誹謗中傷し、自社製品の品質・性能の優良さについて言及する表示…を行う場合」をあげています。端的に言えば、従業員等をサクラとして投稿させる行為等が念頭に置かれているものと考えられます。
 
 「事業者が第三者をして行わせた表示」については、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合であるとしたうえで、以下のような例が挙げられています。

  • 「事業者が第三者に対して当該第三者のSNS…上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合」

  • 「EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合」

  • 「事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合」

  • 「事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、低い評価を表示させる場合」

 こちらは従来ステルスマーケティングとして認識されていたものを含むものと考えられます。

(2) ②判別困難性について

 ステマ規制ガイドラインでは「第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになる」としています。この「誤認される場合」は、事業者の表示(広告)であることが記載されていない場合と、表示されているとしても不明瞭な方法で記載されている場合に分類されます。さらに、後者の例として「事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合」「文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合」「動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合」等があげられており、具体的な判断の際に役立つ形となっています。

【3】対策の例

 消費者庁は、事業者にも分かりやすい資料として「事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック」 も公表しています。これらの資料を参照し、まずは自社が広告主となっている広告等のマーケティングが今回の規制に違反していないか精査することが必要です。

 ステルスマーケティングと言えば、インフルエンサーや芸能人によるSNSでの投稿などが想起されますが、今回のステマ規制はそのような典型的な場面にとどまらず、ショッピングサイトでの口コミや、アフィリエイトサイトにおける表示なども規制対象としていることにも注意が必要です。

 その上で、広告主である事業者として、ステマ規制上の問題が生じることを避けるには、表示において明瞭に広告であることを明示することになります。そのためには、「PR」や「広告」という表示を設けるなどして、表示が事業者によるものであることを示すことが考えられます 。

【4】さいごに

 ステルスマーケティングが正式に規制されることとなりましたが、もともと消費者に対して背信的な要素のある広告手法であり、マーケティングに関する倫理観を問われるものでした。また、このような広告手法を駆使して短期的に売上が伸びたとしても、長期的には消費者からの信頼を失う危険性も大きいものでもあったと言えるでしょう。今回の経緯は、自社の宣伝・広告の在り方を見直す良い機会にもなるのではないでしょうか。


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