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どんな流れ、どんな状況、どんな物語になっていたら成立するだろう?~『行動を変えるデザイン』を読む〜「コンセプトデザイン」編

※この記事は「『行動を変えるデザイン』を読む」マガジンの一部です。

こんにちは。『行動を変えるデザイン』翻訳チームのsoyaです。今回は『行動を変えるデザイン』の第Ⅲ部について紹介します。

第Ⅰ部では前提知識についての解説、第Ⅱ部では実践にあたって、何を目指していくかについて触れました。次の第Ⅲ部のテーマはいよいよ、具体的に「どのように実践するか」です。

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図:『行動を変えるデザイン』、オライリー・ジャパン、2020年、p. 24より

理解、探索のフェーズを経て、いよいよ第Ⅲ部では実際にプロダクトをデザインしていく方法を解説します。第Ⅲ部は前半として「コンセプトをデザインする」というタイトルになっています。

原作のタイトル「Design for Behavior Change 」ですが、わたしたちはこれを「行動を変えるデザイン」と訳しました。この題名については数ヶ月くらい議論をしました。

実は、はじめは「行動が変わるデザイン」というタイトルにしようとしていました。なぜかというと、直接的にユーザーの行動を”変える”やり方だけでなく、ユーザーの行動が結果として”変わる”ためには、という考えで生まれてくる方法もこの本では取り扱っているからです。この第Ⅲ部はまさにその内容について触れられているパートといえるでしょう。

どんな流れでそれは成立するか?を整理しよう

前の部のおさらいですが、この段階では、すでにターゲットとなるアクション(行動)、アウトカム(成果)、ユーザーの3つが定められている状態が前提です。

はじめに、この「行動」を構造化していきます。「構造化?難しそう・・・。」と身構えてしまうかもしれませんが、言い換えれば、分けること、だと思ってください。

サービスが目指しているゴールの状態(例えば、ダイエットに成功する、口座を開設する、TOEICのスコアがいくつ以上になる、中古アイテムの取引が成立する、など)にたどりつくまでには、よく考えてみるといくつもの行動が含まれています。要素としてどのような行動があるか、また、どのような順序・プロセスを経て達成されるのか、ひとつひとつの難易度はどのようになっているか。こういった構造を明らかにする必要があります。まずはどんな流れで成立するのか、誰が見ても理解できるように、具体的に分解することからスタートします。

ここでポイントなのは、すぐに自身が提供するサービスやアプリケーションなどを想定して、その中で何をしてもらうか、に閉じて思考してしまいがちですが、その外側にある実世界も含めて列挙してみることが大切です。成果が達成されるためにはそれらは必要不可欠なものであり、考慮が漏れてはいけません。

建物を建てるときの設計図・工程管理表、と考えてもらうと良いかなと思います。なお、本書では、この過程で作る「ゴールにいたる行動計画」のことを「ビヘイビアプラン」と定義しています。

どんな状況で成り立つか?を想像してみよう

ゴールに至る流れが、「ビヘイビアプラン」としてはっきりしました。このプラン通りに行動が行われれば、ユーザーは成果に至ることができます。しかし、実際はうまくいかないことが多々あります。

では、次は何を考えていけばよいのでしょうか?この章では、流れが成立するためには、どのような状況であるべきか?そして、状況を作るために私たちには何ができるのか?が述べられています。

人はなぜその行動を取るのか、は心理学・行動経済学におけるど真ん中のテーマと言えます。金銭的インセンティブ、社会的立場、他者からの強制・支配、など、人が行動を取る背景には、実際には様々な理由が存在しています。

これらが複雑に絡む中で、結局なにが動機づけにつながるか?また、何が阻害をしているのか?この整理を通して、前の章で立てた「ビヘイビアプラン」はどのように更新できるのか?について、具体的に詳しく述べられています。

先ほどの建築物の例に照らし合わせると、必要な建材はなにか、それらは調達できているか、周囲の町並みがや気候は、建築にあたって障害となっていないかどうか、といったことを考えるパートといえるでしょう。

ユーザーにとってどんな物語なのか?を想像してみよう

3つ目はユーザー自身の準備です。プロダクト、環境が準備できたとして、実際に行動を変える主体はもちろんユーザーです。冒頭に述べたとおり、優れたプロダクトがあれば行動変容が達成できるわけではなく、ユーザー自身が実際に行動を取る状態に変わることが、この本、そして私たちが目指しているゴールです。

ユーザーの状態心理学的な内容にも触れながら、そもそもユーザーがどのようにこのゴールに向き合うことを認識しているのかを、どのように整理すればよいのか?その状況に応じてどのようにアプローチをすればよいのか?について述べられているのがこの章です。

ターゲットとしている行動は、ユーザーにとってどのような意味を持つものなのかを解釈しなおしてみてください。例えば学習塾の先生にとっては、勉強すれば合格できるという明確な道筋が見えていて、生徒に対して講義をしているかもしれませんが、勉強が苦手な学生にとっては、ネガティブな結果に対して日に日に近づいていく苦難の過程でしかないのかもしれません。

先程の建築物の例えでいうと、まさに建物を作る張本人が、必要な知識・技能・そして自信を持ってもらうことがこのパートで目指すことになります。

インプットされる情報に対してユーザーがどのように受容しているのかを捉え、物語に変化を生むためのアプローチを取ることで、いよいよ具体的なインターフェイスのデザインに進んでいきます。

一点お伝えしたいのですが、この章で扱われていることは、使いようによっては人をコントロールするための方法のように捉えることもできるかもしれませんが、著者は決してそういった情報操作を推奨しているわけではありません。「教育とは要するに、人に対し必要な情報を与え、行動すべきときがきたら、教えられた通り行動してくれるのを期待することである。(p.224)」とあるように、あくまで意思決定するのはユーザーであり、そのための情報設計をするのが私たちの所業なのです。

コンセプトデザインからインターフェイスデザインへ

具体的なユーザーの行動計画(ビヘイビアプラン)ができ、サービスに求められる要件が決まりました。次はいよいよ実際のインターフェイスをデザインしていきます。次回をお楽しみに!

書籍紹介ページ:

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~『行動を変えるデザイン』第Ⅲ部目次~
第Ⅲ部 コンセプトデザインをつくる
 第6章 行動を構造化する
  ビヘイビアプランを始める
  書き出して詳細化する
  プランを仕立てる
  シンプルにする
  実用最小限のアクションにまで切り詰めよう
  あわよくばチートする
  習慣にできそうな行動を探そう
  「簡単そう」にする
  なるべく大きくまとめる
  よくある失敗
  簡単でしょ!
  大変だからこそ頑張ってくれるようになる
  「小さな勝利」を
  まとめ

 第7章 環境を構築する
  使える戦術
  動機を高める
  まずは新しい動機よりも今ある動機を活かす
  ユーザーを罰しない
  さまざまなタイプの動機づけを試そう
  未来の動機を現在に引き込む
  行動のための他の前提条件を忘れずに
  行動をとるようにキューを出す
  フィードバックループを生み出す
  競合に打ち勝つ
  障害を取り除くか回避する
  ビヘイビアプランを更新する
  まとめ

 第8章 ユーザー自身を準備する
  とりうる戦術
  未来の行動を支えるために、過去を物語る
  ポジティブで馴染みがあることに関連づける
  ユーザーを教育する
  ユーザーがハマるように訓練する方法
  ビヘイビアプランを更新する
  行動変容のテクニックと思考の関係
  まとめ


ここまで読んでくださりありがとうございました。
続きはこちらです。


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