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「人は身近な人の死をもって、優しく強くなれる~『夏の庭~The Friends~』」【YA⑮】

『夏の庭~The Friends~』 湯本 香樹実 作 (徳間書店)
                                                                                                   2004.6.9読了
小学校の高学年から中学生くらいの子どもたちにぜひ読んで欲しい一冊です。
夏休みの読書にも持って来いですよ。

主人公・木山と“デブの山下”と“めがねの河辺”の三人組の、忘れられない六年生の夏休みの出来事。
普段お葬式などに出たことのない彼らは、妙に本当に死んだ人を一度見てみたいと思うようになります。
 
大人たちのうわさでは、近所のある一人暮らしのおじいさんがどうやらもうすぐ死にそうだ、ということを聞きつけて、三人は夏休みに庭先からずっと見守り続けることをはじめます。
そのおじいさんの死ぬ所を確認したくて。
完全に興味本位からくるものです。
 
おじいさんの家はお世辞にも綺麗とはいえなくて、庭も草がぼうぼうと生い茂り、手入れもせずじまいの状態。玄関の近くにはゴミの袋が散らかり放題。
 
次第に見張っていることがおじいさんにもばれてきて、とうとうそのおじいさんにばったり玄関先で出くわし見つかってしまいます。
ところが、その時からおじいさんと三人の奇妙な付き合いが始まり、ついには友情らしきものにまで発展していきます。
これにはみんなが最初予想だにしないことだったでしょう。
 
まず、ゴミを出してしまって庭の草取り、家の修理から洗濯、草がなくなった庭にコスモスを植えたりと、三人は塾やサッカーの練習もそっちのけでおじいさんとの会話が楽しみになっていきます。
 
おじいさんが話してくれたつらい過去。その過去の重石を軽減させてあげようと、一か八か打った芝居。
突然おじいさんが夜の川べりに連れ出して、昔花火職人だった腕前を披露してくれたこと。
たまたまその時出くわした見知らぬカップルと入ったお好み焼き屋でのひとコマ…。

おじいさんとの思い出が少しずつ増えていきます。
 
三人は三者三様の家庭環境を持ちながら、ただなんとなく生きていた自分たちから、おじいさんと関わるにつれて次第に成長していきます。
前向きに生きること、ぼんやりとしか映し出されなかった将来の自分。
そして“生きていること”って、“死ぬということ”ってどういうものかをしっかり自分の頭の中で認識できるようになります。
最後は結局、おじいさんは彼らが合宿で四日間いない間に亡くなっていました。
 
人が、親しい人が死ぬってこういうことなんだ。
とにかく涙が出てしょうがない。
 
私もこのラストのほうでは、かなりぐっときました。
でも彼らは、おじいさんの死を通してすごく大事な物を手に入れました。
もうどんなにくじけるようなことがあっても、「あの世に知り合いがいる」ってことだけで、彼らは強くなれるのです。

 

私がこの本を読んだ当時、佐世保市で小学六年生の子が同級生を殺害し大ニュースになりました。
事件の当事者たちが、この本を読んでいればもっと別の解決方法を見つけることができたでしょうに…。
人を傷つけるとか死ぬとかの実感を持てない子どもたちが増えているような気がします。
 
我が息子たちは二人とも年中さんくらいの時から、彼らにとっての曽ばあちゃん、じいちゃん・ばあちゃんと、けっこう短期間にその死を身近に見て、葬式も経験することが立て続けにありました。
ですから、昨日まで存在していた人がいなくなるということも、身に染みて知っています。
 
長男などは私の実母(彼にとってはばあちゃん)の葬式で棺に花を手向ける時に、大泣きしたのをよく覚えています。

人の死は悲しいものですが、その悲しさを知っていれば、簡単に他人を殺めることなんてできないのではないでしょうか。

児童文学者協会新人賞・児童文芸新人賞・ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞他多くの文学賞を受賞。



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