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読後感想「脳とクオリア なぜ脳に心が生まれるのか」 (著)茂木健一郎

 私たちはなぜ意識を持っているのか、死んだらどうなってしまうのかという問いは理系文系の学問を問わず、ずっと人類が考え続けていた問題だと思います。本書はその問題の解決まではいかなくとも、なんとかして解決への糸口を掴むため奮闘する脳科学者の考察がまとめられています。
 
 筆者の茂木健一郎さんは今までの脳科学の生理学的に一つ一つの部位を分けてその働きを記録していく様な方法では決して脳と意識の本質には辿りつけないと考えます。なぜなら脳の働きを数理で表そうとすると、脳には無限にパラメータが存在するので上手くいかないからです。そこでニューロンの発火のみに着目し「反応選択性」や「認識におけるマッハの原理」と言う概念を導入することで狙うべき標準を確定させる事によってその問題を解決しようと試みています。ここら辺の解説は本に詳しく書かれているので是非実際に目を通してみて下さい。
 
 この本の面白い所は茂木さんの博識が炸裂している所ですね。ただの理系的な解説に終始しているだけでなく、脳科学がどの様に哲学的な問いと関わっているかについても触れられていてその博識具合が分かります。まさか脳科学の本でニーチェやベルクソンの名前が出てくるとは思わなかった…特に後半は「死んだ後に生前と同じ状態脳を用意出来ればその人は生き返ったと言えるのか」など思考実験も多く書かれています。

 昨今のAIや脳科学の議論は計算機的な議論に終始していて、それがどう人間の社会に影響を及ぼすかなどをあんまり深く考えていない様に見えます。もちろん理系学問の理論の中でそれらを語るのは当たり前の事なのですが、人間の社会に関してもその延長線上で考えるのは馬鹿げていると思います。ある説ではAIが発達していくとシンギュラリティが起こって最終的に全ての人類とAIは一体化しその区別はなくなるとか言っている人がいますが、そんなに単純な事かなと疑問に思います。
 
 昔の学者と呼ばれる人は哲学者と数学者を兼業している事が多かったのですが、現代は学問の専門化と分業が進み分野がはっきりと分かれてしまっていますね。やっぱり面白い発想って異なる考え方がぶつかり合った時に出来るので文理の壁を越える様な人達がたくさん出てくると、より面白い発見が生まれるのではないかと思います。

そういう意味では本書は文理を超え、様々な視点から「脳」を徹底的に観察し考察している良書だと言えます。



 
 
 


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