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テックタッチがエンタープライズセールスに成功した理由とノウハウを公開します

こんにちは!西野(@Soushi Nishino)です。
テックタッチ株式会社で営業責任者をしています。2023年1月に、シリーズBとして17.8億円の資金調達を発表しました。

<自己紹介>TIS、SAP Japan、Slack Japan、セールスフォース・ジャパンにて、エンタープライズ企業向けの人事SaaSやSlackの販売責任者に従事。テックタッチが実現を目指す「すべてのユーザーが、システムを使いこなせる世界」を多くの企業に広げて、テックタッチがグローバルの様々なテクノロジーと肩を並べるサービス、企業に成長させることをみんなと一緒に取り組みたいと思っています。

弊社採用Deckより

前回「全てのスタートアップの壁!?エンタープライズ企業への営業を要素分解する」からの続編で、弊社テックタッチでどのようにエンタープライズのビジネスを立ち上げてきたか、初期にやるべきこと、採用についてをまとめました。

#目次
エンプラ企業をいかに攻略するか
  1社目の実績をスタートアップがいかに作るか
    提案戦略の考え方
   案件管理・指標 
How To エンプラ獲得 
  人脈と土地勘
  BDR(アウトバウンドアプローチ)
 スタートアップSaaSが開拓しやすい業界
  エンプラ開拓における障壁
  受注
  CSへの引き継ぎ
エンプラセールス対応組織の作り方
エンプラセールスになりたい全ての人へ

エンプラ企業をいかに攻略するか

1社目の実績をスタートアップがいかに作るか

最初のスタートとして「提案できる実績・事例を作るのが難しい」と感じている方が多いのではないかと思います。
業界やターゲットを決め、実績を作りにいく。クライアントの同業他社が使っている安心感で横展開していくのが営業戦略上ではやりやすいので、場合によってはプロフィットを無視して実績を作りにいくことが重要です。また、その企業が業界を代表する企業であることも重要です。

テックタッチの場合は、業界やターゲット戦略・戦術をかためる前に損保会社大手が興味を持ってくださるという幸運があったのですが(そのおかげで他の大手にも広がりました)、先に取りたい業界の実績を作る、これがセオリーです。
これは、スタートアップだけでなく、これまで私が在籍した外資系企業の日本法人立ち上げなどでも、アメリカでの成功企業の事例を持って提案に行っていました。エンプラセールスをする際の定石だといえます。

スタートアップが最初の顧客開拓で、いきなりマーケティング・インサイドセールスでエンプラを攻めるのは難しいので、最初は顧問、調達でお世話になったVC紹介などネットワークをうまく使うのがおすすめです。
ベンチャー企業も何らか出資をしてもらっていることが多いですし、VCと大企業は繋がりがあるので、紹介してもらう手立てはあるはずです。このチャレンジができていない企業は結構あるかもしれないので、まだの方はぜひ試してみてください。

その他、新しいものに飛びつきやすいエンプラも一定数存在するので、その会社のCIOに会いにいくのも有効だと思います。ローハンギングフルーツをいかに取りにいくか?という視点で、持っているコネクションを最大限に活かすことをおすすめします。

提案戦略の考え方
エンプラセールスを始めた初期段階では、「アカウントプランはあまり作る必要がない」というのが私の考えです。特に単一ソリューションを提供するスタートアップで、ホワイトスペースが多い時は、広く売ることを優先した方がよいです。組織図を見ながらプランを練るのに時間を使うより、重要なアプローチ部門は固定し、案件が確実なものかどうかを確認する判断基準をSFAで管理していけば良いと思います。(むしろディールプランの方が重要ですがここでは割愛します)

案件管理・指標
テックタッチでは、セールスフォースで案件管理をしています。SFAの導入は営業組織が4、5人くらいになってきた時、インサイドセールスが立ち上がってきた時が目安で、最初はなくてもよいと思います。(最初から導入していれば資産にはなりますが、余裕があればでOK)
案件数の増加、インサイドセールスやCSとの連携など、営業を進めるうえでチーム内・部署間での情報共有が発生するタイミングでの導入は必要です。

案件の確度やリスクを見極める指標は、BANTとMEDDIC の複合で設計し、9つの項目を案件毎に管理しています。基幹システムのような意思決定が長く、ステイクホルダーが多い複雑なサービスでなければ、そこまで厳密に基準を詰めなくても問題なく進められます。

また、案件のフェーズ管理もマネージャーとメンバーの目線を合わせる上で重要な情報となります。

テックタッチの標準的な商談フェーズ管理とアクション。
フェーズごとにやるべきことが明確になり、
周りのメンバーも案件の状況を理解してサポートができるようになった

How To エンプラ獲得
リードジェネレーションついても記載しておきます。エンプラセールスでは、以下の方法が有効です。

人脈と土地勘
新規システム投資に積極的な会社やキーマンを知ることは、初期フェーズではとても重要です。
キーマンにあたるリソースや時間が効率化され、本来成約に1年かかるものがキーマンに直接アプローチすることで半年や数ヶ月に短縮されるケースは、多くあります。
営業チームの皆が人脈を持っている必要はありませんが、経営者としてはこのような人材を獲得することは、エンプラセールスの早期立ち上げには重要となります。

BDR(アウトバウンドアプローチ)
エンプラセールスでは、ターゲット企業に的確にアプローチするBDRが重要になってきます。テックタッチの場合は、インサイドセールス担当が、架電で新規大手企業にアプローチを行っています。
スタートアップでは、組織作ってBDRを行い、商談をしても「すぐにクロージングできない」ことが課題になることが多いと思います。
エンプラ企業相手にすぐ契約に向けて動きが生まれれば苦労しないのですが、普段会えない人にサービスを伝えて認知をしてもらって、「ああいう会社があったから相談してみよう」と1年後くらいに思い出してもらって検討してもらって、という世界です。
このため、エンプラ領域で数字を作る受注計画はしっかりやっておく必要があります。BDRは短期で商談がクローズされるものではなく、中長期的な目線で取り組むべきものだということを踏まえて進めることをおすすめします。

スタートアップSaaSが開拓しやすい業界
日本のベンチャーが初期につまづく壁は、グローバル企業へのアプローチだと思います。
前提として、グローバルで物事を決める会社には入り込みにくい。業界で言うと、製薬やハイテクの製造業ーーこのような業界では売上の半分以上が海外を占め、事業運営における判断や方針決定がグローバルでなされるため、開拓ハードルが高いです。
逆に、ドメスティックが強く開拓しやすい業界は、建設・金融・自動車です。事業の独立性が強く、資金力もあります。テックタッチもこれらの業界には強いです。
なお、サービスやリテールはあまり資金が潤沢でないケースがあるので、特化したバーティカル系サービスを展開している企業は良いかもしれませんが、開拓優先順位は低いというのが私の所感です。

エンプラ開拓における障壁
エンプラセールスで頭に入れておきたいのは、セキュリティの障壁です。特に、通信・金融は、ドメスティックな事業運営が多く資金に余裕もありますが、企業として個人情報を多く扱う金融や通信はセキュリティが厳しく、意思決定に時間がかかるケースも多いです。

ここまでを簡単にまとめます。

狙いたい業界を決める
その業界の名前が売れている企業を1、2社攻略する
まとめかた:会社四季報、業界地図など書籍やネット情報から整理する
開拓方法:この記事を参考にしてみてください

続いて、受注後の流れとエンプラセールスで気をつけるべきことについて説明します。

受注
エンプラSaaSでは海外でもLand & Expand(導入&拡大)戦略がトレンドですが、テックタッチでも、小さく受注して、大きく育てることに注力しています。
ただ、アップセル(拡大)だけに目を向けると長期的に事業がスケールしていかないので、新規受注については売上金額より数を意識して、新規受注企業数も大事なKPIとして意識することをお勧めします。

CSへの引き継ぎ
導入後のアップセルを重視していることもあり、CSとの連携はとても重要だと考えています。
テックタッチでは、受注確定前のクロージング時点からCSへの引き継ぎを始めます。お客様がある程度評価してくれた段階(意思決定者が「いいね」となった段階)から、「この案件来るかもしれません」も含めて情報共有しています。
具体的には、フェーズごとの情報はセールスフォースに入力し、引き継ぎミーティングをするときに、アカウントシートを作って詳細に共有し、営業担当とCS担当者ですり合わせをします。

導入部門、IT部門、DX推進部門など、1システムの導入でも多くの関係者が関わりますが、この状況は営業からCSにバトンタッチしても続いていきます。関係者の把握やコミュニケーションに工数がかかりすぎないように、プロジェクトオーナーとCSが会える関係を作り、自社から働きかけをして意思決定の誘導ができるように、CSとは密に情報連携をしています。
この辺りの引き継ぎの重要度が高いので、中堅中小企業よりもとても気を使う部分です。
(日々意識はしていますが、まだまだテックタッチでも正直課題が多い部分です)

少し脱線しますが、SaaSベンチャーの経営やマネジメントの方に伝えたいのは、「ベンダー選定されてから契約に結構時間がかかる」ということです。契約書のレビュー、稟議、押印などの手続きが発生し、押印だけで2週間かかることもあります。スケジュールや収益のタイミングを理解して、売上や受注の計画を立てるのが、現場の動きと会社の事業計画を齟齬なく連動させるポイントだと思います。

CSと営業の連携は、CSの責任者・垣畑がnoteの記事で説明してくれているので詳しくは下記をご覧ください。
参考:スーパーエンプラ向けSaaSのカスタマーサクセスのオペレーション、組織づくりで考えたこと

エンプラセールス対応組織の作り方

兎にも角にもセールス責任者が重要です。
エンプラ企業を開拓したい場合、おさえるべきポイント、マネジメント方法、トークなどが独特なので、エンプラセールスの経験や素養がある人がいないと厳しいと思います。「事業を作る」と「お客様を獲得する」という観点で必要なスキルも大きく異なりますので、よくあるスタートアップの社長が営業責任者兼務ですというエンプラ領域においてケースはあまりワークしない可能性が高いです。(もちろん社長が現場に出るというのは大事ですが)

とはいえ、エンプラセールス経験者をスタートアップ企業が採用するのは簡単ではありません。では、どこから採るか。
大企業しか経験していない人は、スタートアップ期のカオス期や、やることが多い状況に馴染みにくいため、大企業の中で新規事業に携わっていた方、外資の日本法人立ち上げなど0→1に近いことをやっている方などを採用した方がよいと思います。

例えば、昨今の日本でも有名な大手外資系企業から採用するのが正解かというと、必ずしもそうではありません。カオスや0→1経験を持っているとは限らないからです。エンプラセールスのスキルを自社に取り入れるために顧問や紹介という形で、サポートしてもらうのは有効だと思います。

これは私の個人的な感想ですが、SaaSスタートアップで専門の営業責任者が大事だと思っている人は意外に少ないと感じます。事業戦略とサービスがよければ売れる、と考えている人が多いですが、特にエンプラではお客様とのコミュニケーションは意思決定の際に重要なポイントになりますし、営業は事業を伸ばす際の要であり、採用も重要です。

その上で、どうやってリクルーティングするかですが、ベンチャーに行きたいと思っている人はまだ少ないのが現状です。エンプラセールス組織を立ち上げられそうな経験がある人は、数千万円プレイヤーです。
彼らの多くは外資系企業に所属していて、カントリーマネージャー(海外のビジネスのローカル国の責任者)のキャリアを求める方が多いですが、外資系にいる人は二極化していると感じています。ある程度収入を稼げるラインに入ればいいかな、という方も一定数いますし、チャレンジが足りないとウズウズしている方もいます。

ここまで書いていると、「基本は外資系企業からの採用すべきなのか」という疑問をもつ方もいるかもしれません。全員そうであるべきではありませんが、厳しい環境でいかに数字を作るか、短期で実績を上げることができるのかということに長けている人を組織に置く必要はあると思います。
マネジメントだけに外資出身者がいるのは担当者と乖離がありますし、横のつながりで刺激も作れるので、メンバー層にも外資系含めていろんな価値観を持ってメンバーを採った方が良いと思います。

相性の良い出身業界
同じエンプラセールス出身者でも、業務系アプリケーションやSaaSか、非業務系かで売り方に大きなギャップがあります。インフラ、セキュリティ系の出身者を業務系アプリケーションやSaaSの製品営業で採用する場合は、業務理解やセリングの進め方などより注意してギャップがないか確認する必要があります。

業務系SaaSを提供する会社では、中堅SIerなどは業務系を扱ってきていれば相性は悪くありません。代理店として、業務アプリケーションやSaaSを扱ってきた営業の方で即戦力となっているケースも見てきました。今、テックタッチの採用では、顧客を意識したセールスができるかを判断するために候補者が現職で扱っているサービスをどうセリングしているのか面談でプレゼンしてもらっています。

最終的に候補者をどう突き動かすかは、権限、ビジョン、給与など色々な要素があるので経営者の採用能力によりますが、私もテックタッチの営業責任者というポジションで働くようになって、「なぜ外資系を辞めて日本のベンチャーに?」と聞かれることが増えてきましたし、興味を持ってくれる人も出てきています。手っ取り早いのは、周りにいる外資系出身の人にベンチャーに興味を持っている人材がいないか聞いてみることなので、まずはそこから始めてみてください。

エンプラセールスになりたい全ての人へ

ここまでエンプラセールスに必要なスキル、獲得方法、組織の作り方などを伝えてきましたが、結局「どんな人がエンプラセールスに向いてるのか?」について。

いろいろな人と関わって、それぞれの特性を見極めた上でどう商談成立に持っていくかを見極め、組み立てられる人が向いていると思います。
難しい詰将棋をやっていくことに楽しさを感じられるか、と置き換えるとイメージしやすいかもしれません。
それから、「大きなビジネスを回してみたい」「日本を代表する大企業に関われている」ということにモチベーションを感じられる方

テックタッチでエンプラセールスを3〜5年経験すると、外資でも日本のエンプラ企業でも、どこでもセールスできる営業としてのキャリアはすごく広がると思います。それは私が保証します。「テックタッチで働いてみたい」と興味を持った方、ぜひお待ちしています!!

<前編はこちら>

テックタッチの採用情報はこちら

ご紹介:当社チームの投稿もぜひご覧ください。
CEO井無田:シリーズB資金調達に寄せて:
 前編:これまでのキーとなった意思決定を振り返る
 後編:テックタッチの現在地と4つの新たな挑戦
CFO中出:
シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか
VP of CS垣畑:
 前編:スーパーエンプラ向けSaaSのカスタマーサクセスのオペレーション、組織づくりで考えたこと
 後編:これまでの歩み
CTO 日比野:SaaSの真骨頂「プロダクトの継続的な改善」をエンプラ市場で回す為にやってきた事


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