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全てのスタートアップの壁!?エンタープライズ企業への営業を要素分解する

こんにちは!西野(@Soushi Nishino)です。
テックタッチ株式会社で営業責任者をしています。2023年1月に、シリーズBとして17.8億円の資金調達を発表しました。

<自己紹介>TIS、SAP Japan、Slack Japan、セールスフォース・ジャパンにて、エンタープライズ企業向けの人事SaaSやSlackの販売責任者に従事。テックタッチが実現を目指す「すべてのユーザーが、システムを使いこなせる世界」を多くの企業に広げて、テックタッチがグローバルの様々なテクノロジーと肩を並べるサービス、企業に成長させることをみんなと一緒に取り組みたいと思っています。

弊社採用Deckより

私がテックタッチに入社したのは2022年3月。この1年で大手企業の契約は増え、利用ユーザー数は200万人を超えました。この節目に、スタートアップ企業がエンタープライズセールスを成功させるためのナレッジをまとめてシェアしたいと思います。
スタートアップで「エンタープライズセールスを成功させたい」と思っている方はもちろん、BtoBのSaaS事業を拡大させたいと思っている方、営業力を強化したいと思っている方の参考になれば幸いです!

#目次
そもそもスタートアップでなぜエンタープライズSaaSセールスが重要か
エンプラとSMBで求められる営業のスキルの違い
 案件戦略の重要性
 営業スキル
  ①事前リサーチ
  ②商談の進め方
  ③提案
  ④トークスキル

そもそもスタートアップでなぜエンタープライズSaaSセールスが重要か

そもそも、「スタートアップ企業がエンプラセールスに力を入れるべきか?」という疑問をもつ方もいるかもしれませんが、答えは「イエス」です。
企業規模でざっくりエンタープライズ・ミドル・SMBにカテゴライズした時に、エンプラは社数が少なく、日本企業における比率は0.3%しかありません。

企業数における比率は0.3%とかなり少ないですが、従業員数比率は31.2%を占め、ミドル以下と比べて利益率が高く、使える金額レンジが違います。
また、新しいサービスをあまり頻繁に導入しないため、一回受注すると長期契約が見込め、チャーンが低いのもSaaSとエンプラが相性がいい理由です。企業母体が大きく取引が安定する→ LTVやARPAも高くなるというわけです。

2021年版「中小企業白書」より。大企業は一社あたりの従業員数が多く、売上規模が高いhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf

ボクシルの記事「エンタープライズセールスとは?SaaS営業の新手法 | SMB戦略との違い」によれば、SaaS企業のエンタープライズ戦略が必要な理由は、数こそ少ないものの付加価値総額は大企業の方が高い点にあります。
SMBはターゲット顧客が多く、リードタイムも短いため、短期的に顧客数を広げるメリットがあるものの、中長期的にはトップラインの限界を決めてしまう可能性があります。

SaaSビジネスの成長曲線。SMBだけではStage3以降で伸び悩む(https://boxil.jp/mag/a6750/)

先行する米国のSaaS市場のデータを見ると、SaaS企業におけるエンプラ開拓の重要性は明白です。米ベンチャーキャピタル・Blossom Street Venturesの調査によると、上場SaaS企業はエンプラセールスに最も力を入れています。成長するために、スタートアップ企業であってもエンプラセールスは欠かせないのです。

上場SaaS企業81社のうち95%は顧客のメインターゲットをエンプラ企業としている(図出典:https://boxil.jp/mag/a6750/)

ただ、私は、エンプラだけに偏らずにミドルやSMBにも営業することは大切だと考えています。
テックタッチは今エンタープライズ企業の売上比率が高いですが、ミドル以下の企業にも使っていただけるよう、営業組織やCSをどう作っていくか、製品側で工夫できることがあるかは、SaaSビジネス全体を長期的に伸ばしていくために大事な観点だと思います。
企業規模によって業務がそう大きく変わるわけではないので、「SMBにしか売れない」「エンプラにしか売れない」はないと思っていて、売り方によって両方シェアはとれますし、これからテックタッチでもとりにいきたいと思っています。

では、どうやってエンプラ企業を開拓するか。
私たちが提供するテックタッチはWebシステムを使いやすくするナビゲーション・ガイドツールで、DAP(Digital Adoption Plartformの略。日本語ではデジタル定着支援の意味)領域でどうやって顧客を開拓したか、順を追って説明します。

エンプラ企業の特徴は、様々な大規模システムを契約していますが、その際にコンサルやSIerなど、戦略設計やシステム構築を担う様々な企業と既に付き合いがあります。つまり、完全にホワイトスペースな領域はありません。
既に導入しているものに付加価値をつけ、最大活用させる仕組みのため、今の仕組みを理解したうえで提案を持っていくのがお決まりのパターンです。

エンプラ企業のIT、業務部門は、自らサービスやソリューションを探して比較検討・導入する動きがミドル・SMBに比べると少ないです。この導入の流れを鑑みると、マーケティングでのターゲットへのリーチが難しい。
開発時にPMFを行い、お客様さまの課題解決をするのは大事ですが、エンプラセールスでは環境も含めて戦略を描いていくことーー具体的には、パートナーとの関係構築が重要です。
パートナーといってもリセールパートナーを増やして、販路を拡大するということではなく、お客様さまの意思決定を支援する様々な外部組織と価値を共有することが必要になります。

エンプラ企業が社内でひと通り検討しても、コンサルやSIerの意見に影響されるので、GTM(Go To Market)戦略をきちんと策定した方が良いと思います。もちろん営業のハイタッチな営業活動ももちろん重要ですが、それに加えてIT業界のエンプラ営業ではこの環境を考慮することがとても重要で、どこからどのように売っていくのかを詳細まで戦略・戦術に落とし込まないと、なかなか売れていかないと思います。

エンプラとSMBで求められる営業スキルの違い
エンプラとSMBの営業では、アプローチ方法も求められる営業スキルも違います。エンプラセールスで求められる戦略や営業スキルは、具体的に下記のように整理できます。

案件戦略の重要性
私は、商談相手の状況や検討経緯に応じて、案件の戦略を思い描くことが最も重要だと考えています。
お客様さんの課題にどうソリューションをフィットさせるか、周りのパートナーにもメリットがあることを実感させるようにコミュニケーションするのです。特に、ボトムアップとトップダウン両方の意思決定のシナリオをうまく使う必要があります。

SMBの場合は、部長などの決裁者や経営者がすぐ出てくることが多いですが、エンプラでは最初から決裁者が登場することは稀です。商談の担当者と決裁者が2、3階層違うことも多いので、間に入る人の利害関係も含めて、全関係者が納得するストーリーを作る想像力と、導入後の運用イメージも含めた組織・メンバーとの合意形成をする経験が営業スキルとして重要になります。
もう少し具体的に言うと、契約にはボトムアップとトップダウン両方のケースがありますが、経営層がDX推進などで導入したい場合は現場にも理解してもらえるようなストーリーを、現場から声が上がった場合には、経営層に乗り気になってもらうための材料とストーリーをつくり、営業活動を通して、顧客の組織の意思を一つにする合意形成をしていくのです。加えて、パートナーへの働きかけも含まれます。

営業スキル
①事前リサーチ
リサーチと提案が鍵を握ります。SMBでは、営業にかかる時間は初回商談からクローズまで約1、2カ月です。自社のソリューションを先にお客様に提案して、フィットするか否かを判断して見極めていきます。
一方エンプラは、お客様の課題を事前に想定しておきます。エンプラ企業の多くは上場していて、中期経営計画や記事など公開情報がネット上にあるので、「ここがフィットするのではないか」というポイントをリサーチして提案する事前の活動が要ります。

②商談の進め方
相手のレイヤーによってピッチの内容・デモの見せ方・話してもらう時間を変えます。エンプラの場合、商談相手が役員レイヤーか担当者レイヤーかで内容が全く異なります。

まず、相手が役員の場合はピッチの内容は経営課題にフォーカスします。
公開されている中計などで得た情報をベースに、「テックタッチがどの課題解決に役立つか」を導入で話します。商談中は数回キャッチボールを続け、経営課題にフォーカスし、理解を深めながら自社のソリューションの必要性を伝えます。役員レイヤーの方はお話し好きなので、相手に話してもらう時間を長めにします。話をしてもらうことで信頼関係を作るのです。営業側が喋るのは長くても30分。15分に抑えるのがベターです。

話すトーンについても少しお伝えしておくと、私の場合は相手が役員や経営者であっても、自分が勉強してきたことはいったん喋り、かしこまった話し方はしません。慣れていない方や若手の営業担当の場合、大企業の役員と話すときはネクタイをして、硬くなってしまいがちですが、経営者は人を見ていて、フラットに話すくらいの方が印象に残りますし、うまくいきます。かしこまり過ぎずにストレートに話をした方がいいと思います。もちろん、コミュニケーションの所作は意識します。

一方、相手が担当者の場合、中計の話ばかりだと「僕のアジェンダからは遠いな」と、その方の課題解決から離れてしまいかねません。中計からブレイクダウンし、その方の部門の中での役割や現場の課題、解決したいことを中心に話し、デモで解決イメージを明確に持っていただけるようにします。

ピッチの内容、デモの長さ、話してもらう時間を相手の立場によって変えることによって、それぞれのポジションの方に寄り添い、刺さるものになると思います。

③提案
次に、商談のフェーズを上げるためのポイントについてです。

まずは、商談のフェーズを上げるために必要なのは「プロダクトの強さ」が前提となります。何を価値提供できるかが大事で、役員に突っ込んでコンセプトで売れるものではありません。良いサービスを持っているうえで、検討度を上げてもらうためのポイントは以下です。
最初の突破口であり、最も重要なのは「信用、価値の説明」です。
お客様の業界での導入事例や具体的な効果がほぼ全てと言っても過言ではありません。

④チームプレイ
商談を進めるスキルはプレイヤーに依存しますが、エンプラ商談の場合は、お客様の多岐にわたる役割の方々が一度の打ち合わせに参加することが多くあります。その際に営業1名で説明→質問回答→状況に合わせたヒアリングをうまく行うのはかなり難易度が高いです。そのため、案件推進時にマネージャーや案件推進をサポートする役割(プリセールス、ソリューションコンサルタントなど)の役割を持ったメンバーと連携して商談を進めることも必要です。
また、営業の対応スキルを向上するために、エンプラセールスの経験者が、上記に記載したコミュニケーションでうまく行っている例を現場で見せて、担当営業が話す比率、役割を増やしていきます。エンプラセールスを任せられる人材の育成を行いつつ、トークスキルをチームで共有しています。

次回、テックタッチがエンタープライズセールスに成功した理由とノウハウを公開します。テックタッチがどのような提案戦略をたて、エンタープライズ企業を獲得してきたか、受注しやすい業界はどこかなど、具体的なノウハウをまとめてご紹介します。続編もぜひご覧ください。

<続編>

<西野のLinkedInはこちら>

https://www.linkedin.com/in/soshi-nishino-44091776/

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