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スーパーエンプラ向けSaaSのカスタマーサクセスのオペレーション、組織づくりで考えたこと(前編)

こんにちは!
テックタッチ株式会社でVP of Customer Successをしている垣畑です。

2023年1月、テックタッチはシリーズBとして17.8億円の資金調達を発表させて頂きました。
これを機に、当社のCS組織の現状についてご紹介させて頂きたいと思います。当社のCSのユニークさは、「スーパーエンタープライズ企業に対応できる組織」であることで、スタートアップとしては珍しい数万人規模の大企業のお客様に、テックタッチの価値をうまくお届けできるような組織・運用を整備してきました。

同じく日本の大企業の支援に取り組まれるエンプラ向けCSの方々に、少しでも参考にして頂ければ幸いです!

前提

テックタッチはどんなプロダクトを、
どのようなお客様に提供しているのか

どんなウェブシステムの、どの画面上のどこにでも操作案内を設置し、ユーザを導きます

テックタッチは上記画像の通り、ノーコードであらゆるシステムの画面上に操作案内を表示することで、システム導入の"ラストワンマイル"を埋め、すべてのユーザがシステムを使いこなせるよう支援するプロダクトです。
あらゆるシステムの、あらゆる「分からない」に応えるため、「いつ、どこにどんな案内を出すべきか」の選択肢が無限にある、非常に自由度の高いプロダクトです。

現在、大企業向け(お客様企業の従業員ユーザ向け)と、システムベンダー向け(お客様企業のお客様ユーザ向け)の2つの市場で事業を展開しており、私は前者の、大企業=スーパーエンプラ向け(10,000人規模がボリュームゾーン)事業のCSを管掌しています。

スーパーエンプラ向け事業 x 実装の自由度無限大
=お客様のお隣1mmで伴走するガチDXコンサル型CS

カスタマーサクセスは一般的に、顧客規模が大きくなると支援のカスタマイズ化、ハイタッチ化が起こると言われています(個別事情に対応し大きな効果を出すことの投資対効果が成立するのと、CS活動の原資も確保されているためと理解しています)。
加えてテックタッチはあらゆるシステムに自由に実装できるプロダクトです。営業システム、基幹システム、経費精算システム、人事システムで全く違う画面、全く違う課題があるのは当然で、「どんな課題を解決したいのか」「どんなUI/UX設計にすれば、その課題は解決できるのか」といった課題の特定や詳細設計の幅が非常に広いのが特徴です(当社CSの醍醐味でもあります)。
例えばパワーポイントが、自由度が高いからこそ、インストールするだけで最高のプレゼンができるというわけではなく、伝えたいことやページ構成、色調に至るまで様々な検討(とそのためのトレーニング)が必要であるのと似ていると考えています。

テックタッチ社なのに、自分たちは超ハイタッチCS

また、お客様のDXはどんどんレベルアップしていきます(ここもとても面白いところ)。最初は「基本操作が分からない」と仰っておられても、徐々に「このデータの入力フォーマットを正規化して…」「ここのデータ入力率xx%を達成するためxxの画面にユーザを誘導しよう」「自動化してダイレクトに生産性を上げたい」といった高度な課題に取り組まれ始め、またお応えできるプロダクトになっています。
その結果、最も顧客の課題解決に長期的に伴走し続けることが求められるプロダクトのひとつだと考えており、お客様を渾身のスーパーハイタッチで支援させて頂いてます。これを踏まえ職種名も"カスタマーサクセスチーム コンサルタント"職としました。

なお一般的には"CSのハイタッチコンサル化は避けるべき"と言われています。エコノミクスが成立しなくなる、組織のスケーラビリティの足かせになりかねない、などが理由と理解しています。
実際のところ当社は現在、スーパーエンプラ(10,000人以上)、エンプラ(3,000-10,000人)企業のユーザ様に大きな価値創出をお届けして頂戴するライセンス料で、エコノミクスと良好な契約継続率を維持できています。しかし今後は、より多くのお客様に価値を届けるため1,000-3,000名様程度のMM企業(Mid-Market)に向けたロータッチ化も必要であり、バランスを取るため、プロダクトのチューニング、実装テンプレの確立などを進めています。

オペレーション/組織づくりで考えたこと

ここまでが検討の前提で、ここから、当社のスーパーエンプラ企業向けSaaSとして特徴的と思われるプロセス・チーム構成について、いくつかご紹介させていただきます。

オペレーションの設計事例

そもそもスーパーエンプラ向けCSの特徴は、当然ですがお客様組織が大きいことから生じています。必然的にニーズも、実務知識や意思決定権限も分散しており、これをひとつの目的(システム導入による変革)のため、いかに隙間なく繋ぎ合わせられるかを常に考えています。

①同じシステムでも、
 部門ごとに異なるお客様のニーズを理解する

テックタッチに興味を持って下さった直接の導入部門様のニーズを詳しく理解することは大前提ですが、大企業の場合は導入部門の要件が、テックタッチが価値を発揮できる領域全体を網羅しているとは限りません。

例えば経費精算システムに関して「数百件の問合せを受けて、困っている」というお客様(経理部門、シェアドサービス部門など)がおられるとします。そのとき、背後では「問合せはしていなくとも操作に迷い、生産性の低下に直面している従業員の皆様がおられるはずです。しかし実際は、そちらのペインポイントはご契約頂く導入部門様(問合せ対応部門)の直接の管轄ではない(=対応の優先度が下がる)といったことがしばしば生じます。
他にも例えば、営業システムを迷いなく、スムーズに導入させたいニーズをお持ちの情シス部門とは別に、営業システム導入によるオペレーション変革そのものを推進する事業部様(データ入力率やデータ精度こそが重要)がおられる、といった状況が多く見られます。

どれも"デジタルアダプションプラットフォーム"であるテックタッチでぜひ、解決を支援させて頂きたい領域ですが、注意深くヒアリングしないとそもそも気づけない(お客様自身が明確に意識しているとは限らない)情報でもあります。そのため契約前から社内のセールス担当と連携し、目の前のお客様のニーズと同時に、お客様の組織図、また対象システム自体の創出効果や関係部、導入時の想定される問題の全体像を念頭において「テックタッチで達成したいこと」を合意していきます。

②お付き合いも組織対組織で

このように多部門に散在するステークホルダに加え、直接、対面する部門でもガイド実装担当者様から役員様まで、広くコンタクトできる当社側の体制が必要になります。
例えばエグゼクティブ層とは、当社の代表としてCEOの井無田に挨拶の場に出てもらう、あるいはセールスVPの西野が契約前から接点を持ってもらう中で、当社のビジョンや最新機能で解決できる経営イシューについて共有させて頂いています。またGM層の皆様ともVP陣を中心にセールス/CSともにQBR(当社では"実績報告会"と呼んでいます)の場などで接点を確保します。
このようにしてお客様全体に当社の全容を知って頂き、特に大きな課題が生じた際にご相談できるよう備えるとともに、プロジェクトの方向性に違和感がないかなどを確認できる関係を構築します。他のシステムに課題がないか(=アップセルの機会がないか)も当然、重要なアジェンダとなります。

なお、こうした方々とはテックタッチの投資対効果などの細かな議論は行わないケースが多いです。論点整理・評価を含め、実質的な意思決定は現場のリーダに任されており、契約更新そのものは定例会などの場でほぼ決着がついているという認識です。
一方、そもそも上層部と方針だけを握ったからと言って大企業の組織がやる気になる、動いてくださるとは限らないのは、私の前職のコンサル時代に学んだ通りで、現場ではプロジェクトを回すためのより詳細な体制を構築頂けるよう提案しています。

③プロジェクト推進の現場ではさらに細かく、
 お客様ひとりひとりの役割を踏まえ体制づくり

テックタッチの実装には様々な検討や意思決定が必要となるため、適材適所でお客様の負担を最小化し、スムーズにテックタッチを導入頂くべく、CS活動の開始前にひとつひとつの役割についてお客様と決めていきます。
このとき、様々な役割をお持ちの多数の部門・幅広い役職から各領域のエキスパートを見つけ出し、アサイン頂くのがエンプラCSの腕の見せ所で、誰か一人でも欠けると、プロジェクトが停滞するリスクが生じます。

  • 体制の変更まで含めた決定ができ、他部門との折衝でも現場の後ろで睨みを効かせられる上層の"プロジェクトオーナー"(DX部門など)

  • 実際の導入までのプロセスをリードする現場の"プロジェクトマネージャー"(DX部門など)

  • 業務と実際のシステム課題を知悉した"課題特定担当"(事業部、システム利用部門、問合せ担当部門など)

  • 実際に手を動かしてガイドを作る、現場の"ガイドデザイナ"(DX部門など)

  • テックタッチ実装までのテクニカルな準備を行う"セキュリティ/インフラ担当"(情シスのインフラ部門様)

体制は特に時間をかけて議論する

また中長期的に、お客様に"テックタッチがあれば全従業員がDXに参加できる"状態を作るプラットフォームとして活用いただくべく、最初の上記の体制を決める際、長期的にCoE(Center of Excellence)=システム横断的にテックタッチを使い、システム導入を支援するチームとして構築頂いています。

CoEを組織して頂き、効率的に&最速でDX支援


④実装の現場も多人数。抜かりなく横串を通す

より現場に関する重要なポイントとして、「実装者(ガイドデザイナ)も複数名いる」のもエンプラCSの特徴です。そのため、皆が自由に設定すると、バラバラの見た目、使用感になったり、設定にムラが生まれて最悪、ユーザの皆様のPCのパフォーマンスに影響さえ出かねません。
そこで一連の操作方法のレクチャプログラムである"テックタッチアカデミー"(全5回)に加え、各実装者のクオリティを揃えるためのデザインガイドラインの決定(細かな設計の仕方、トンマナルールなど)や、サポートチームによる、お客様の各ガイドデザイナの設定内容のチェックなどを行っています。

細かいが後々効いてくるデザインガイドライン


CS組織の設計事例

次に、組織づくりで考えたことも一部ご紹介します(こちらの各検討はエンプラ向けであること以外に起因するものも含まれています)。

当社のカスタマーサクセスチームは2023年1月現在、前段で説明させて頂いたような大企業との折衝やプロジェクトマネジメントに長けた人材を中心に、コンサルタント職(いわゆるCSM)10名、CS Ops職 1名、カスタマーサポート職 2名の13名体制をとっています。組織づくりの特徴として:

  1. オンボチームとサクセスチームを分けていません。言うまでもなく、エンプラのお客様にとって継続的な支援のほうが馴染みやすいのと、実装の個別性が非常に高いテックタッチでは特に、オンボが終わった後、それまでの深い議論を把握していない別のサクセス担当者に引き継いでしまうと、提供価値が減衰してしまうと考えるためです。

  2. マネージャーはプレイングマネージャ方式で、4名程度の少人数チームを作っています。ハイタッチな業務ほどSoC(Span of Control=部下の人数)を下げるべきというセオリーを守り、またプロダクトの実装自由度が高く最前線で常に新しいUI/UX改善アイデアが生まれ続けるため、実装内容の現場勘を担保するのが目的です

  3. CS Opsの規模は最小限にとどめています。1.、2.で触れた通り、個別性が高く、現場で新しいアイデアが生まれ続ける当社プロダクトのCSチームでは、オペレーションの改善も現場メンバがリードする体制にすべきと考えるためです。それらアイデアを、ものごとを抽象化し整理することが大大好きなOpsメンバーが型化して、皆に共有するフローにしています。

  4. サポートチームはCS Opsと一体となっています。CS活動のすぐ傍で、操作方法のレクチャや受動的なQ&A対応に加え、上記④で触れた通り、顧客の設定値のチェックやUI改善アイデアの提案に至るまで能動的に支援する(要するにサポートチームまでハイタッチ)ためで、このオペレーションをOpsメンバが整備しています。



いかがでしたでしょうか。まだまだ発展途上のチームではあり、今後、ウェビナーや別のnoteでも随時、更新してご紹介させて頂ければと考えています。
なお、私自身まだCS 2年生ではあり、不勉強な部分が多く残っています(私自身については よかったらこちらをご覧ください!)。もし記述の不明点や私の理解の及んでいないポイントがありましたら、ぜひぜひディスカッションさせて下さい!

また別途、今の形に至るまでに起きていたこと、難しかったポイントなどを、後編としてまとめてご紹介させて頂ければと考えています。そちらもぜひご覧ください。


最後になりましたが、当社CSのオペレーションづくり、組織づくりは(個人名は控えさせて頂きますが)CS業界の若き先輩方や、Joinしてくれた頼もしいチームメンバーたちの知見をはじめ、社内外の多くの方々にアドバイスを頂きながら進めてきました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。これから日本におけるカスタマーサクセスの浸透に、少しでも貢献していくことができれば幸いです。

後編にて実際にはチームがどんな状況だったのか、時系列にどのように乗り越えてきたのかまとめておりますので、こちらもご興味持って頂けた方は是非ご参照ください!,
【後編:これまでの歩み】


ご紹介:当社チームの投稿もぜひご覧ください!
CEO井無田:シリーズB資金調達に寄せて:
 前編:これまでのキーとなった意思決定を振り返る
 後編:テックタッチの現在地と4つの新たな挑戦
CFO中出:
シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか?


長文を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!



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