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シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか?

皆様、こんにちは!
テックタッチ株式会社のCFOの中出 昌哉(なかで まさや)です。(@masaya_nakade)(入社エントリーはこちら
テックタッチは、2023年1月11日にシリーズBのファイナンスとして、17.8億円の資金調達を発表しました。その後デットでの調達も合わせると、20億円強の資金調達になります。

スタートアップ冬の時代と呼ばれて久しい中で、しっかりしたバリュエーション・資金調達金額だった事もあり、色々な人から少し話を聞かせてほしいと言われる事も多く、大変恐縮かつ嬉しく思っています。
直接お会いできない方も沢山いるので、noteに裏側を書いて少しでもナレッジシェアができればと思って執筆しています。(もし直接会ってお話がしたいという方がいればいつでもご連絡ください!僕でよければいつでも時間を割きますので遠慮は不要です!)

また、テックタッチは、これからこの資金を使って事業を急拡大するフェーズなので、一番面白いフェーズに入ってくると思います。全方向で採用募集しておりますので、少しでも興味があれば是非お話しましょう!

それでは本編に入ります。

そもそもエクイティファイナンスで重要なこと

元々、僕の前職がカーライル・グループというPEファンドで、僕自身が投資家だったこともあり、投資家目線で会社を見る経験が多く、自分の経験値の幅を拡げてくれているのですが、
エクイティファイナンスで重要な事は、当たり前ですが、事業です。
あとは、それを実行するチームで、その二つで投資判断の80%ぐらいを占めると思います。
なので、CFOとしてエクイティファイナンスをうまく成立させようとすると、事業を整える事と、チームを整える事がダントツのレバーになるというのが僕の感覚です。テックタッチは事業が良いのと、チームもめちゃくちゃいいので、良いファイナンスができた。というのが正直なところで、僕の力量がどうこうは正直わかりません笑

よくいう「エクイティストーリー」は、誤解を恐れずいうと、事業にお化粧をするためのものなので、CFOの力量差は勿論出ますが、事業の良し悪しの方がダントツで重要な要素なので、巷でいう「エクイティストーリー」の力は盛られ過ぎかなという感じがします笑(重要なのですが、期待値が高すぎるなと、、)
ということで、エクイティファイナンスにとって事業が重要で、CFOのバリューの出しどころがエクイティファイナンスの場合、CFOが事業に突っ込まないとバリューを出せないと個人的には考えています。なので、僕は、普段時間の90%を事業に使っているのと、エクイティファイナンス中も70%ぐらいの時間は事業に割きながら資金調達をしました(これは使いすぎ感は逆にあって、もう少し違う事をするべきな気もしますが、、ここはバックオフィスを見てくれている飯沼(ぬまぴーさん)のお陰なので彼には本当に感謝です)。また、シリーズ後半になってくると、所謂CFO業務がより重くなってくる印象はあるので、上記はシリーズC~D前の事としてとらえてもらえると嬉しいです。

エクイティファイナンス実施2年前に準備すること

上記を踏まえて、エクイティファイナンスの二年前にCFOとして取り組む事は、投資家が突っ込みそうな事、気にしそうな事を先回りして、事業をドライブする事に尽きると思います。よくあるエクイティファイナンスの誤謬は、新規事業をやって●億円新しく作りますという事業計画を作ったり、今後はマーケティングを踏むので、●億円売上があがると思っています。というものだと思っていて、過去実験・立証されていない計画は、投資家は全てゼロ評価で見てくると思った方がいいと思います。逆に何回も失敗したけど、今少し成功しかかっている(PDCAを二周ぐらい回して結果が少しで始めている)ものは評価されるので、なるべく多く弾込めして芽が咲いている状態にする事がCFOとしては一番重要なことだと思います。(かならずしも自分でやる必要はないとは思いますが、先回りして事業を動かす意思決定はしておくべき)

よくあるエクイティストーリーの誤謬

二年前にテックタッチに入社した際、テックタッチでは、大企業の社内での利用実績がいくつか出始めていて、ここから大企業をどんどん取れそう!という強み・モーメンタムを感じる瞬間でした。僕もワクワクしましたし、これはうまくいきそうだなと思いました(実際今はその想定以上にうまくいっております)。
ただ、一方で、僕が投資家でテックタッチに投資するとしたら、市場の大きさ(TAM/SAM/SOM)がすごく気になるな。と思いました。様々な市場でもっともっと使える可能性があるけど、大企業の社内システムだけでの利用に留まっていると、市場も勿論限定的に「見えてしまう」し、そこで実績を作っておきたい。二年後のファイナンスに合わせる形で今弾を込めておいて、ファイナンスの前に華を開かせておきたいと思いました。
そこで、SaaSの事業者様へのテックタッチの拡販と、公共事業へのテックタッチの拡販をやろうと、井無田に相談し、快諾をしてもらい、そこの事業責任者をするようになりました。事業責任者といっても、最初は一人だったので(笑)、自分で営業してCSしてみたいな事をやっていたのが最初でしたが、人のチャレンジを後押ししてくれるテックタッチという会社の魅力を最大限に感じました。(また、自分でほぼ全ての現場に触れた事は今でも最高の宝になってます)また、勿論違うセクターに拡販していくことになるので、違う機能が求められる事になり、CTOの日比野をはじめとするプロダクトチームにも色々な開発をお願いしましたが、背景を説明すると、みんな乗り気でガンガン機能を作ってくれて、チームの良さと開発メンバーの力の高さを感じたのを今でも覚えています。
今では、SaaS事業者様向けの事業ドメインは全体の30%ぐらいの売上を占める程度まで成長し、公共セクターでは、官公庁様でのご利用実績がいくつか立ち上がり、その時にシリーズBを迎える事ができました。(※ちなみに、大企業の社内システム向けも当初想定していたサイズよりも全然大きくなっており、ここもチーム全体で細かくPDCAを回した結果だと思っています)

2年前の事業の種蒔きが功を奏した状態

エクイティファイナンス自体の成否はここでかなりの勝敗が決まっていたなと思っていて、大企業様でのご利用実績・成長性・市場の大きさに加え、二の矢として、SaaS事業者様向けの事業ドメインでの成長性・市場の大きさ、三の矢として、公共セクター向けの、時間はかかるものの、非常に大きい事業ドメインでの可能性を見せられたと思っており、やはり、投資家の皆さんの評価もそこに集まっていた気がします

なお、僕自身、今でも、SaaS事業者様向けのドメインや公共ドメインを管轄しているのと、最近はPMMの立ち上げも担当していたり、次の更なる大きなファイナンス/IPOに向けての、新規事業の弾込めも準備している最中です。興味がある方は是非ディスカッションをしましょう!
また、今後、事業ドメイン拡大方法や、PMMも垂直に立ち上がっており、当該記事も執筆予定ですので、興味ある方は是非ご覧ください。

プロセス前の準備

ピッチデック

ピッチデックは、構成自体はシンプルで以下の様な感じです。

ピッチデックの目次

上記に、二年前から準備してきた、事業の可能性をちりばめていくだけです!!
僕自身のピッチデックのコンセプトは、投資担当者様がIC(投資委員会)に上申する際に、僕が作ったピッチデックをそのまま使ってもらう。というものです。(実際に、「ほぼそのまま使いました!」という投資家様も、冗談かもしれませんがおりまして、目論見通りだったなと思っていますし、それぐらい重厚な資料になっています)
実際にできた資料は、サマリー15ページ、全100ページぐらいの資料で熱量を込めて作りました
デックには、投資家だったら気になるであろう事を全て盛り込んで作りました。市場の大きさ、競合との差別化、クライアントのペインと提供価値、今後の成長ストーリー(PDCAの結果と共に)、チームの強さ、様々な数値の背景、等々です。ここは中々お見せできないので、興味があれば是非ご連絡ください。
と思ったのですが、タイトルだけでも載せてほしいというご意見を頂戴したので、Appendix.に全てのページのタイトルだけ全部載せてます!気になる方は是非見てください!

フォーメーション

今回、DNX様に、シリーズAに引き続きシリーズBもリードして頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。また、DNX様としては初の連続リードという事も聞いていて、身が引き締まる思いです。なお、シリーズA以前からお世話になっているATV様からもプロラタ、DBJ様からはプロラタ以上を頂き、大変感謝しております。

DNX様にリードをお願いした背景は、マーケット環境の悪化もあったので、新規投資家がテックタッチの良さをゼロからキャッチアップして、しっかりしたバリューを付ける事はほぼ無理だろうと思っていたことでした。それもあり、比較的初期からDNX様にお願いしようと思っていました。普段からテックタッチの成長性・可能性を見て頂いていた事もあり、比較的すぐに意思決定してくださったのを覚えています
新規のフォロー投資家様として、誰もが知っているであろう、大企業様のCVCやVC・出資アームの皆様にご出資頂きました。
これは、1. テックタッチ自体が大企業様向けに非常にニーズがあるプロダクトという事もあり、シナジーを強く感じていたためです。また、2. 長期目線をお持ちである(短期的なバリュエーションで投資判断をされない)という二点につきます。実際、ご投資後色々な取り組みを既に実施しており、効果をひしひしと実感しております!!この場を借りて新規の投資家の皆様にも御礼申し上げます。

投資家の方々

なお、市況悪化の影響を一番もろにうけるのは海外投資家でもあるのと、上記の理由でCVC様にご投資頂きたかったので、一件あたりのチケットサイズが大きい海外投資家様とは話しませんでした。
資金調達後に、シンガポールまで(自費で(笑))行き、海外投資家と話をしましたが、意外と興味を持ってもらい、それならもっと前に話しておいてもよかったかなとも感じましたが、結果は大満足のファイナンスだったので、今後のファイナンスでご一緒できればと今は考えています。(海外投資家からの評価が良かったのも、足元で僕がテックタッチの将来性を感じている理由に繋がっています)

資金調達金額

資金調達金額は相当厚めにとりました。米国のリセッションは今年確実に来るのと、インフレ率の高騰、等様々な経済状況が不透明なので、ランウェイは長くという鉄則を踏襲したのと、今後の様々な施策(海外展開、新規事業、等次のGrowthを作れるもの)に十分な資金を投下できるようにしておきたかったので、相当量の資金を調達しました。バリュエーションも相当しっかりつけて頂いたので、希薄化の心配をしなくていい事も助かりました。

バリュエーション

最後にバリュエーションですが、ここは非常に難儀です。やる事はいくつかあると思っていて、以下の通りかなと個人的には考えています。(アプローチ沢山あると思いますので、あくまで一例としてですが)

1. バリュエーションの目線を持つ:

投資家に「いくらなら出してもらえますか?」という聞き方ではなく、(当たり前の様に聞こえるかも知れませんが)自分達で意思を持ったバリュエーションを決めて、そのバリュエーションを当てていく必要があります。たまに聞かれるので、念のため。そしてバリュエーションの目線をもつために、以下の事を実施する必要があります。

2. 徹底的に調べる:

調達した時期が近い銘柄、業界が近い銘柄、ラウンドが近い銘柄、投資家層が近い銘柄、海外の動向、等徹底的に情報を集める必要があります。
Initialを使って最初はスクリーニングをしてもいいと思います。ただ、Initialには評価額はのっていますが、PSR等のマルチプルはのっていないので、ここは地道に色々な人に聞くしかありません。
僕は比較的外部との接点を日々地道に増やしていて、CEO/CFOの知人も数多くいるので、こっそり色々と教えてもらったりもしました。
目線感をどこに置くかは相当難しいので、まず外を調べつくすのはオススメです。今回のラウンドの前は、30社以上の銘柄のPSR等は理解した上で調達に臨めたのは非常に良かったと思っています。

3. 投資家の考えを理解する:

投資家の考えを理解する事も重要です。投資家は、投資してリターンを出す事が仕事なので、どれぐらいのリターンを見込む種族なのか、等の基礎情報は非常にためになります。
例えば、ミドルステージだと、仮に平均3xぐらいのリターンを出したい投資家がいたとします。そうすると、今5億円出資してもらった場合、最低、15億円でIPOができないと判断すると投資はしないという意思決定になります。また、スタートアップは失敗する会社も多いので、ミドルステージで、半分の会社が失敗すると仮定すると、一案件の投資で5~6x程度のリターンが出ると思わないと投資しないという事が逆算されます。
その場合、テックタッチに今回5億円投資してもらった場合、IPO時に25億円になってないといけない。というのがわかります。
リターンを決めるファクターは三つしかなくて、1. 足元のバリュエーション、2. 将来の成長性、3. 株式市場のマルチプル(IPOの場合)となります。例えば、現在、スタートアップの評価金額が低くなっているのは、3の市況が悪いのが背景とわかります。ただ、3は自社ではどうする事もできないので、株式市場のマルチプルを自分でしっかりと見ながら、ある程度コンサバにつけるしかありません。
そして2は、冒頭紹介した事業で決まるので、資金調達のタイミングでは手遅れで、できる事は相当限られている様に思います。
そうすると、レバーは1しかないので、価格をどれぐらいにしようかというのが決まってきます。投資家の皆様にもリターンを出しつつ、発行体の希薄化も抑えつつ、かつ将来のラウンドも見据えながら、継続的に成長できる様なバリュエーションを考えるというのが鍵になってくると思います。
特に、足元のバリュエーションを欲張りすぎて、次のラウンドでダウンラウンドする、等は経営の足かせが相当きつくなってしまうので、慎重に検討が必要だと思います。今回はそのバランスのギリギリをうまく取りながらバリュエーションを設定しました。

プロセス自体

プロセス自体はすごく容易で、上記で準備したものを出していくだけです。DDの質問も大体どこかのページに書いている事が多いので、該当ページはここです。という感じでほぼ労力はかからなかったです。
唯一、PEや、昔いたM&Aの現場と違うなと思ったのは、交渉のパートです。昔の金融の場だと、既存株主のため・長期的な会社の成長のためにかなり長く・激しい交渉をする事が多いのと、僕自身もゴリゴリ交渉をする人なので(笑)、そのスタンスでいたのですが、スタートアップ界隈だともう少し阿吽の呼吸みたいなのが重視される事が多いなと感じており、そこは勉強になりました(笑)。とは言っても今後も立場上交渉はかなりすると思いますが(笑)。
ただ、同時にカーライルと野村の上司からみっちり鍛えられた交渉スキルは相当活かせたなと思っていて、何事も経験とアンラーニングだなと改めて感じています。

デット調達

また、エクイティだけではなく、最近では、ベンチャーデットが隆盛なので、デットでの調達も合わせて実施しました。
今回は、SDFさんと政策金融公庫さんからデットの調達を同時に実施し、エクイティと合わせて20億円近く調達できた事は今後の事業運営を支える大きな基盤になったと思います。
米国では当たり前のように、ベンチャーデットを活用しているので、日本もようやく事業運営がしやすくなった環境が揃ったなと思っていると共に、まだまだベンチャーデットは黎明期で、デット調達の判断の仕方、活用の仕方がわかっていないスタートアップ企業も多いと思いますので、こちらもいつでも相談になりますので、ご連絡ください!(今既に5~10社さんぐらいの壁打ちをさせて頂いていたりもしています。完全に趣味です笑)

SDFさんのリリース

最後に

テックタッチはこれからこの調達した資金をどう使っていくかという舵取りを試される重要な局面です!
一緒にどう資金を使っていくか、どう事業を伸ばしていくかを考えてくれるメンバーを大募集中です!少しでも興味があればお話ししましょう!(文中にある次のGrowthに向けて舵取りの方向性を考えている最中です)
また、ファイナンスバックグラウンドの方・今後資金調達を考えているCEO/CFOの方で、もう少し資金調達について詳細に話しを聞きたい!という方がいましたら、いつでも遠慮なくご連絡ください!僕自身も今回の調達の時に相当色々な方に相談・アドバイスももらいながら実施したので、少しでもGive something backをしたいと思っています!

ちなみに、後編はこちらなので、続きが気になる方は是非見てください:
シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか?(後編:銀行借入ver)

あ、最後の最後に宣伝ですが、、、
代表の井無田の記事も面白いので是非ご一読を!

シリーズB資金調達に寄せて:前編 これまでのキーとなった意思決定を振り返る
後編 テックタッチの現在地と4つの新たな挑戦

Appendix.

資金調達スライドのタイトルだけでも載せてほしいというご要望を頂いたので、、、一つの参考として以下に載せさせて頂きます。

表紙
 目次
1章:エグサマ
 会社概要
 テックタッチの主要機能
 主要KPI
 事業セグメント
 導入企業ロゴ
 経営陣の強さ
 売上推移
 DAP市場について
 競合環境について
 2021年度概要
 2022年度以降の事業計画 (2p)
 中期経営計画
 投資テーマ
 バリュエーション
2章:市場
 市場分析(6p)
 SaaS市場について
 DAP市場概要
 競合分析(2p)
3章:事業
 顧客課題と解決策
 テックタッチ導入による利用効果(2p)
 顧客セグメント(2p)
 ARPA推移(3p)
 解約率とNRR(3p)
 LTV, LTV/CAC
 案件パイプライン(2p)
 組織図
4章:セールス& マーケティング
 セールス& マーケティングの効率性
 2021年度の要約と2022年度の計画
 リードソースのタイプ別
 マーケティング戦略
 BDR戦略
 パートナー戦略
 SaaS事業戦略(2p)
 公共セクター事業戦略(3p)
5章:カスタマーサクセス
 カスタマーサクセス概要
 サクセス事例
 CSの効率性
 ヘルススコア
6章:プロダクト
 主要機能
 ロードマップ
 参入障壁
7章:事業計画
 2022年度計画数値(4p)
 CAC推移と計画
 資金計画
 株主リスト
 長期ファイナンス計画
 IPO計画
 コンプス
8章:Appendix
 価格表(2p)
 サポート対象ブラウザ
 テックタッチの実装方法(2p)
 セキュリティ
 競合比較
 分析機能の詳細

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