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生きていく上で譲れないもの

課題図書)サラバ!/西加奈子(小学館文庫)

 ふとしたきっかけで、「令和」という時代をまたぐタイミングで本棚から引っ張り出し再読してみた。そんな節目で読んで良かったなあ、と実感した一冊。歩という主人公の生き方に自分を重ねてしまった。


 歩は、自由奔放な生き方をする姉と事あるごとに身辺を振り回される。そして、不条理にもそんな姉の方が結婚をし、将来の伴侶の男と共に生きる。そんな奴が幸せを勝ち取ってしまう。一方、歩がは、年齢を重ねるに連れて、社会の中で落ちぶれていく。彼女も失い、心からの親友もうしない、仕事もうしない、持ち金も失う。そして、3.11を契機にとうとう人間として崩壊してしまう。


 彼の落ちぶれていく姿に、私は、自己投影をしてしまう。歩のように、自分は生きる上でこれと言った「核」(コア)となるモノが果たしてあるのだろうか?生きる上で信じるモノ。彼の姉は、宗派を変えつつ、常に宗教を心のよりどころにしている。そんな宗教でも、そうじゃない何かでも良いのだろうか?。何かしら、誰のもこれは譲ることができないモノ。仕事や遊びのスタンス、趣味に取り組む姿勢、お金についての価値観など何でも良いんだと。貫くモノがある人間が強い。と、この本を再読してみて、そう言うメッセージを感じ取ることができた。


 彼は、コミュニティーから孤立されていく、というより、自分が殻に籠もっていく。でも、決して一人ではないんだよ。「俺って、やっぱり一人なんだ」と思っても、必ず貴方のことを思っている人はいる。エンディングで彼の心をジーンとさせる、二人の人間が、大きな行動をしてくれる(ネタバレのため触れない)そうクールで冷酷なモノではないよ。意外に殻に籠もっている自分って、そう言う寄り添ってくれる人が、自分を変えてくれるのかも知れないよ。


 元号が変わる中、生きていく上でバイブルになったと実感した一冊。

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