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アニメから時代の価値観を読み取ろう!(3) 〜 授業中の雑談 これがホントの教養だ!19 〜

《80年代②》

 さて、そういう80年代の中で大ブレイクしたアニメと言えば、なんといっても

『タッチ』(野球)

でしょう。あの主人公のたっちゃんは、努力が嫌いで怠け者で冷めていて、軽薄で、スケベで、一所懸命やるのはたぶんダサいと思っていて、必要以上に人と関わろうとしないで、無責任な人物です。

 でも、なんかモテるオレ(サマ)です。

 でも、なぜか野球がうまいオレ(サマ)です。

 非現実的なまでに都合のいい設定です。「努力も何もしないけど、はじめから何もかも持っている人物像」これが80年代に圧倒的に支持を得た人物像です。

 ちなみに、兄貴のかっちゃんはひたむきに努力する、70年代型の人物像です。でも彼は交通事故で物語の世界から退場しました。80年代型の世界では不要だと言わんばかりに、です。

 バレーボールは知りませんが、ボクシングの方は

『がんばれ元気』(ボクシング)

というマンガがありました。この主人公、堀口元気くんは、70年代的な立身出世と艱難辛苦、その背景にある貧しさを初発の生い立ちの背景にしながらも、実は母方の実家が無類のお金持ちなんです。世界チャンピオンになった元気くんは、『あしたのジョー』の矢吹丈みたく白くなったりしません。チャンイオンベルトを取ったまさにその直後、いともあっさり(?)その座を棄てます。な、な、な、なんと、引退します。自己中の極み。周りは大迷惑。のはずですが、ジムの親方はそんな元気くんの何かを都合よく理解し、受け容れます。
 で、当の元気くんは「ホッ ホッ ホッ」とリズミカルな呼吸を保ちながら朝もやの中を走って、大金持ちの実家に帰ります。彼にとって幼少期以来の努力の世界は20年限りで、その努力による報酬さえ不要とし、全く関係のない富の世界へとステージアップするのです。彼にとってチャンピオンベルト獲得までの道のりは若いころのすばらしい思い出に過ぎないのです。おいおい、本気で命賭けてチャンピオン目指してる無数で無名の4回戦ボウイはどうすればいいんだい?

 そしてそこに、山口百恵の潔い引退劇を重ねてしまうのは私だけでしょうか?歌手として人気の絶頂にいた山口百恵は、まさにピークのど真ん中で軽く?引退しました。その生き様が圧倒的な支持を得たのがちょうど1980年なのは、今からすればとても暗示的です。しかも百恵ちゃんの最後の言葉は

「幸せになります」

でした。選手生命が絶たれるわけでもなく、白くなるわけでもなく、堀口元気くんのように鮮やかにしなやかに軽やかに「第2の幸せ人生」に突入します。その後、ポスト山口百恵と言われた明菜ちゃんとは対照的ですね。

 さて、アニメ・マンガに戻します。堀口元気くんもまた、たっちゃん同様「全てを持っている人物像」です。70年代さながらの必死の努力で栄誉を獲得した彼は、達成後にはもう執着せず、予め用意されている富を取りにいきます。そこには元気くんのことを愛してやまないおじいちゃんとおばあちゃんが大豪邸の中で待っています。この富は、元気くんの努力と全く関係ありません。

 みんなたっちゃんや堀口元気くんの向こう側に、自分のありたい姿を重ねていたんですね。

以上、はい、じゃあ、号令! 
あざしたあっ!

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