#毒舌系主人公
47.もうひとつの青春。/朱に交われば紅くなる2
本編 墓参り、という行為には時として様々な意味が込められる。
彼岸には先祖がこの世に帰ってくるともいい、その供養のために墓参りをするという風習もある。
ただ、墓参りはなにも、彼岸だけのものではない。
今は四月。
お彼岸を墓参りのシーズンであるとするのであれば、オフシーズン。もしかしたら死者の魂はこの世にいないのかもしれない。
いや、むしろいない方がいいのかもしれない。
もし
44.逃げ出した2人。/朱に交われば紅くなる2
本編「勝負……って、誰と?」
まず反応したのは明日香(あすか)先輩だった。続けて葉月(はづき)先輩が、
「もしかして…………佐藤(さとう)さん、ですか?」
「……!(こくこく)」
無言で頷く月見里(やまなし)。
挑戦を受けた陽菜(ひな)はというと、
「え、なんでですの?」
当たり前である、
そもそも陽菜が敵視しているのは紅音であり、月見里ではない。事の発端となったのが彼女
43.悪い偶然ってあるもんだ。/朱に交われば紅くなる2
本編 陽菜(ひな)は言った。
行きたいところがある。
そして紅音(くおん)はそれに反論しなかった。
だから、どこに連れていかれても文句はない。それこそ法に触れるような場所や、身の危険を感じるような場所でもなければ。
それに関しては全く、嘘偽りのない本音である。
ただ、
「どういうことなの……」
困惑はする。
そりゃそうだ。
まさか陽菜の行きたい場所が公園。それもキ
42.計算されていた俺たちのこと。/朱に交われば紅くなる2
本編 朝霞文五郎(あさか・ぶんごろう)という人間の基本姿勢は「観測者」である。
一年次から新聞部に所属し、様々な情報をどこからともなく収集し、新聞を作成する。
ただ、その中で一貫しているのは「観測者」という立場なのだ。
「マスコミっていうのはもっと観測者であるべきだと思うんだよね」という本人の言葉通り、ある意味で無思想、無感情な紙面を作成する彼は、どうしたことか、私生活でもまた、そのス
41.俺たちにデートプランはない。/朱に交われば紅くなる2
本編 翌日。
「なんでこんなことになってるのよ……」
「それは俺が今一番聞きたかったことだ」
紅音(くおん)と陽菜(ひな)は二人揃って池袋に来ていた。
今日は祝日ということもあって、それなりの人手があり、そのバリエーションは様々だ。
ソロでぶらり買い物の旅。家族と一緒にお出かけ。そして、それらよりも目立つのは若い男女二人連れ……つまりはカップルだ。
あらかじめ補足しておくと、紅
40.奥底を覗いて。/朱に交われば紅くなる2
本編「はぁ~…………」
大方の片づけを終え、紅音(くおん)は一人、窓辺で夜風にあたっていた。
なにも紅音は酒を飲んだわけでもなければ、どんちゃん騒ぎをしたわけでもない。
それでもなぜか紅音はここに吸い寄せられていた。
外は既に真っ暗で、町の灯もややまばらになってきている。夜空は相も変わらず曇り空で、天体観測をするにはあまりにも不向きなロケーションだったが、それでも先ほどよりは薄くな
39.ちょっと気分が良くなるだけの炭酸ジュース。/朱に交われば紅くなる2
本編「ごめんなさいね~狭い上に散らかってて~ほら、陽菜(ひな)ったらあんな感じだから、彼氏なんか連れてきたことなくって~」
「だから彼氏じゃないって言ってるでしょ!いいから手伝ってよ、夕飯の準備」
「え~だって~……せっかく陽菜がこんないい男連れ込んだのよ?この機会を逃すわけにはいかないじゃない~?」
「つっ……!違うわよ!そいつが行く当てが無いっていうから仕方なく」
「と、いいつつもどこ
38.再び動き出した時計の針。/朱に交われば紅くなる2
本編 ピリリリリリ。
着信音が鳴り響く。プリセットのうちの一つだ。本当はもっと華やかな着信音やメロディーにするという選択肢もあったのかもしれない。
けれど茜(あかね)は何故かこの、簡素な着信音を好んで使っていた。これはガラケー時代からずっと変わらないもっとも、ガラケーなんて使っていたのは本当に数年のことだけど。
ピリリリリリ。
スマートフォンが無機質に着信を告げ続ける。どうやら電話
37.澱みきった世界の片隅で。/朱に交われば紅くなる2
本編 どれくらいの時が経っただろう。
お互いがお互いを見つめあい、相手の出方を探る、居合のような状態を打破したのはいろはだった。
「なんでって……近くに来たから、寄っただけよ」
恐らく、その言葉に嘘はない。
彼女は別に何も、紅音(くおん)を驚かせようと思っていたわけでもなければ、嫌がらせをしようと思っていたわけでもない。
ただ、単純に「実家の近くに来たから寄っただけ」なのだ。その
36.静かなる異変。/朱に交われば紅くなる2
本編 帰り道。
葵(あおい)が唐突に、
「ねえ、紅音(くおん)」
「ん?」
「朱灯(あかり)ちゃん……月見里(やまなし)さんはさ、なんで先輩たちの方についていったと思う?」
疑問を投げかけてきた。
それはさっきまで紅音が考えても分からなかったことだ。
だから、
「正直に言っていいか?」
「いいよ」
「分からん」
それを聞いた葵がぽつりと、
「これだからヘタレボッチ
35.最近はいい国作ろう鎌倉幕府じゃないらしい。/朱に交われば紅くなる2
本編「んん~いい運動になったにゃ~」
豊満な胸をこれでもかと言わんばかりにつきだして、大きく背伸びをする葵(あおい)。多分、男子が周りに大勢いる場合でも同じノリなのだろう。そのくせして誰かと付き合うことは一切ないのだから大概罪作りな女である。
「ん?何か言った?」
「何も言ってないから大丈夫だ」
危ない。
こういう時の葵はミョーに勘が優れている。紅音はすぐに明日香(あすか)先輩へと
34.??「投げようと思った何でも投げられる」/朱に交われば紅くなる2
本編「いつでもいいよー」
紅音(くおん)から18.44m先、防具に身を固めた明日香(あすか)先輩が手を振っている。
つくづく思うのだが、あの野球道具は一体どこから出現したのだろうか。恐らくどちらかの私物なのだろうが、少なくとも紅音は青春部室内で見たことが無い。
もちろん、ある程度片付いた現在と違って、ほんの数週間前の部室内部は、遠目から見ればゴミ屋敷や物置きにも見えなくないほどの散らか
33.グローブとボールは先輩たちに借りた。/朱に交われば紅くなる2
本編 翌日。
「いやぁ~……ここ、一回使ってみたかったんだよね」
「楽しそうですね。一応言っておきますけど、今日の目的は西園寺(さいおんじ)さんの特訓ですよ?」
「分かってる分かってる」
「分かってませんね……これは」
なんだろう。
なんだとおもいます?(再びの疑問形)
一面に広がるのは人工芝。隣にはバッティングセンターが併設されている。平日の昼間ではあるが、楽しそうな声と、軽