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【小説】朱に交われば紅くなる

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自作「朱に交われば紅くなる」のnote版マガジンです。掲載分以外の連載はカクヨム版(URL:https://kakuyomu.jp/works/11773540555733860… もっと読む
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目次/朱に交われば紅くなる

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 小説『朱に交われば紅くなる』の目次です。ご活用ください。

基本情報・概要

あらすじ※ネタバレ注意

・朱に交われば紅くなる

本編【chapter.0】0.物語は突然に。

【chapter.1】1.カップ麺、2分で作るか?4分で作るか?

2.辛いってのは生きてる証拠だよ。

3.AまたはB。あるいはそれ以上。

4.青い春と書いて青春と読むんだよ、少年。

5.幼馴染は名アシスト。

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47.もうひとつの青春。/朱に交われば紅くなる2

47.もうひとつの青春。/朱に交われば紅くなる2

本編 墓参り、という行為には時として様々な意味が込められる。

 彼岸には先祖がこの世に帰ってくるともいい、その供養のために墓参りをするという風習もある。

 ただ、墓参りはなにも、彼岸だけのものではない。

 今は四月。

 お彼岸を墓参りのシーズンであるとするのであれば、オフシーズン。もしかしたら死者の魂はこの世にいないのかもしれない。

 いや、むしろいない方がいいのかもしれない。

 もし

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46.すれ違う心。/朱に交われば紅くなる2

46.すれ違う心。/朱に交われば紅くなる2

本編 会社の社長。

 借金を抱えた。

 ある日突然いなくなった。

 それが、文(ふみ)の夫にして、陽菜(ひな)の父親だ。

「どう……して?」

 陽菜から最初に出た言葉は、再開の喜びでもなければ、今までどこにいっていたのかという失跡でもない。ただただ純粋な疑問だった。借金を背負い、突然姿を消した、自らの父親。それが突然目の前に姿を現した。思考が追い付かないのだろう。

 陽菜の父親と思しき

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45.隣の芝生は青く見えるもんだ。/朱に交われば紅くなる2

45.隣の芝生は青く見えるもんだ。/朱に交われば紅くなる2

本編 「はぁ……」

 紅音(くおん)は一つ、ため息をつく。

 場所はマンションの一階エントランス。

 この建物の一角には、佐藤(さとう)家の部屋がある。

 結局、あの後紅音は、陽菜(ひな)を見つけることは出来なかった。

 反応が遅れた、というのもある。

 自らの荷物を回収してからのスタートだったため、最初からハンディキャップのある状態だったというのも大きい。

 ただ、それらよりももっ

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44.逃げ出した2人。/朱に交われば紅くなる2

44.逃げ出した2人。/朱に交われば紅くなる2

本編「勝負……って、誰と?」

 まず反応したのは明日香(あすか)先輩だった。続けて葉月(はづき)先輩が、

「もしかして…………佐藤(さとう)さん、ですか?」

「……!(こくこく)」

 無言で頷く月見里(やまなし)。

 挑戦を受けた陽菜(ひな)はというと、

「え、なんでですの?」

 当たり前である、

 そもそも陽菜が敵視しているのは紅音であり、月見里ではない。事の発端となったのが彼女

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43.悪い偶然ってあるもんだ。/朱に交われば紅くなる2

43.悪い偶然ってあるもんだ。/朱に交われば紅くなる2

本編 陽菜(ひな)は言った。

 行きたいところがある。

 そして紅音(くおん)はそれに反論しなかった。

 だから、どこに連れていかれても文句はない。それこそ法に触れるような場所や、身の危険を感じるような場所でもなければ。

 それに関しては全く、嘘偽りのない本音である。

 ただ、

「どういうことなの……」

 困惑はする。

 そりゃそうだ。

 まさか陽菜の行きたい場所が公園。それもキ

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42.計算されていた俺たちのこと。/朱に交われば紅くなる2

42.計算されていた俺たちのこと。/朱に交われば紅くなる2

本編 朝霞文五郎(あさか・ぶんごろう)という人間の基本姿勢は「観測者」である。

 一年次から新聞部に所属し、様々な情報をどこからともなく収集し、新聞を作成する。

 ただ、その中で一貫しているのは「観測者」という立場なのだ。

 「マスコミっていうのはもっと観測者であるべきだと思うんだよね」という本人の言葉通り、ある意味で無思想、無感情な紙面を作成する彼は、どうしたことか、私生活でもまた、そのス

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41.俺たちにデートプランはない。/朱に交われば紅くなる2

41.俺たちにデートプランはない。/朱に交われば紅くなる2

本編 翌日。

「なんでこんなことになってるのよ……」

「それは俺が今一番聞きたかったことだ」

 紅音(くおん)と陽菜(ひな)は二人揃って池袋に来ていた。

 今日は祝日ということもあって、それなりの人手があり、そのバリエーションは様々だ。

 ソロでぶらり買い物の旅。家族と一緒にお出かけ。そして、それらよりも目立つのは若い男女二人連れ……つまりはカップルだ。

 あらかじめ補足しておくと、紅

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40.奥底を覗いて。/朱に交われば紅くなる2

40.奥底を覗いて。/朱に交われば紅くなる2

本編「はぁ~…………」

 大方の片づけを終え、紅音(くおん)は一人、窓辺で夜風にあたっていた。

 なにも紅音は酒を飲んだわけでもなければ、どんちゃん騒ぎをしたわけでもない。

 それでもなぜか紅音はここに吸い寄せられていた。

 外は既に真っ暗で、町の灯もややまばらになってきている。夜空は相も変わらず曇り空で、天体観測をするにはあまりにも不向きなロケーションだったが、それでも先ほどよりは薄くな

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39.ちょっと気分が良くなるだけの炭酸ジュース。/朱に交われば紅くなる2

39.ちょっと気分が良くなるだけの炭酸ジュース。/朱に交われば紅くなる2

本編「ごめんなさいね~狭い上に散らかってて~ほら、陽菜(ひな)ったらあんな感じだから、彼氏なんか連れてきたことなくって~」

「だから彼氏じゃないって言ってるでしょ!いいから手伝ってよ、夕飯の準備」

「え~だって~……せっかく陽菜がこんないい男連れ込んだのよ?この機会を逃すわけにはいかないじゃない~?」

「つっ……!違うわよ!そいつが行く当てが無いっていうから仕方なく」

「と、いいつつもどこ

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38.再び動き出した時計の針。/朱に交われば紅くなる2

38.再び動き出した時計の針。/朱に交われば紅くなる2

本編 ピリリリリリ。

 着信音が鳴り響く。プリセットのうちの一つだ。本当はもっと華やかな着信音やメロディーにするという選択肢もあったのかもしれない。

 けれど茜(あかね)は何故かこの、簡素な着信音を好んで使っていた。これはガラケー時代からずっと変わらないもっとも、ガラケーなんて使っていたのは本当に数年のことだけど。

 ピリリリリリ。

 スマートフォンが無機質に着信を告げ続ける。どうやら電話

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37.澱みきった世界の片隅で。/朱に交われば紅くなる2

37.澱みきった世界の片隅で。/朱に交われば紅くなる2

本編 どれくらいの時が経っただろう。

 お互いがお互いを見つめあい、相手の出方を探る、居合のような状態を打破したのはいろはだった。

「なんでって……近くに来たから、寄っただけよ」

 恐らく、その言葉に嘘はない。

 彼女は別に何も、紅音(くおん)を驚かせようと思っていたわけでもなければ、嫌がらせをしようと思っていたわけでもない。

 ただ、単純に「実家の近くに来たから寄っただけ」なのだ。その

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36.静かなる異変。/朱に交われば紅くなる2

36.静かなる異変。/朱に交われば紅くなる2

本編 帰り道。

 葵(あおい)が唐突に、

「ねえ、紅音(くおん)」

「ん?」

「朱灯(あかり)ちゃん……月見里(やまなし)さんはさ、なんで先輩たちの方についていったと思う?」

 疑問を投げかけてきた。

 それはさっきまで紅音が考えても分からなかったことだ。

 だから、

「正直に言っていいか?」

「いいよ」

「分からん」

 それを聞いた葵がぽつりと、

「これだからヘタレボッチ

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35.最近はいい国作ろう鎌倉幕府じゃないらしい。/朱に交われば紅くなる2

35.最近はいい国作ろう鎌倉幕府じゃないらしい。/朱に交われば紅くなる2

本編「んん~いい運動になったにゃ~」

 豊満な胸をこれでもかと言わんばかりにつきだして、大きく背伸びをする葵(あおい)。多分、男子が周りに大勢いる場合でも同じノリなのだろう。そのくせして誰かと付き合うことは一切ないのだから大概罪作りな女である。

「ん?何か言った?」

「何も言ってないから大丈夫だ」

 危ない。

 こういう時の葵はミョーに勘が優れている。紅音はすぐに明日香(あすか)先輩へと

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