出雲の風景をレザーで描く~パッチワークトートバッグ~
この度、新作のバッグ「パッチワークトートバッグ」が仕上がりました。
このバッグは、捨てられるはずだったスクラップレザー(ハギレ・革廃材)を使い、パッチワーク技法を用いて美しい出雲の風景を描いた、今まで挑戦した事のないアートデザインバッグです。
パッチワーク技法の選択とその魅力
作業時にどうしても出てしまう革廃材に、新たな命を吹き込み、バッグとして蘇らせることで、サステナブルで唯一無二のバッグを作りたいという想いから作成しました。
ハギレをゴミとして捨てるのではなく、新たに命を吹き込むことができないかと考え、その時に、パッチワークの技法が最適だと思いつきました。
様々なハギレを組み合わせてアートデザインを施すことで、個性的で独自のデザインにすることができますし、バッグとしての価値だけでなく、アート作品としての価値も高めることができると考えました。
技法の難しさと工夫
今回の作品を製作するにあたり、最も時間と手間がかかったのは、やはりパッチワークのアートデザインです。
異なる大きさ、厚さ、質感の革を、隙間なくうまく組み合わせて、縫製することは簡単なことではありませんでした。
また、アートデザインのような遊び心のある作品は、特に細部の作りや仕上げが甘いと、全体的に安っぽい印象になってしまいますので、バッグとしての完成度を高くする必要があります。
バッグの両面で異なる出雲のイメージを反映
「パッチワークアートバッグ」の最大の特徴は、両面に施された異なるデザインのアートを楽しめることです。
私が住んでいる出雲は「雲出づる國」として知られており、私の作品において「雲」はデザインに欠かす事のできない重要な要素です。
今回はバッグの両面でそれぞれ異なる形の「雲」を表現しました。
また、出雲の山々の美しさも、私の作品に大きなインスピレーションを与えております。
片面には「日本海の波」「明るい日差し」「出雲に浮かぶ雲」をモチーフにデザインしました。
私の中で、出雲に面した日本海は、神秘的で、生命に溢れ、力強いイメージですので、日本海の高波をデザインに取り入れて、日本海の力強さと、出雲を象徴する雲と、その隙間から差し込む日差しをモチーフにして、出雲の海を表現しました。
もう片方の面には、「出雲の山並み」と「航跡雲」をモチーフにデザインしました。
出雲は、山々に囲まれた穏やかで美しい地域です。
いつも心を穏やかにしてくれる山並みの風景をデザインにして、このバッグを手にする方にも、心穏やかな気持ちになってほしいという想いを込めております。
私にとって「雲」は出雲を象徴する重要な要素で、一言で「雲」と言っても、その形は様々です。
山並みの面にデザインした「雲」は、「航跡雲」つまり「飛行機雲」をモチーフにしています。
ある日、私が実際に目にして心を奪われた、美しい出雲の風景を作品にしたいと以前から考えておりましたので、今回パッチワークアートで表現する事にしました。
山並みのアートは、質感と色が異なる5種類の革を使用して描いております。
山のデザインが面白いのではないかと感じたのは、その日の天気や、距離によって山の色や木々の見え方が異なる点に気づいたことがきっかけでした。
パッチワークアートでもそのイメージを表現したいと考え、手前の山には色の濃い、表面が凸凹しているシボ入りの「シュリンクレザー」を使用して、山に生い茂る木々を表現し、逆に奥の山は明るい色の表面がフラットな「スムースレザー」を使用して、手前の山との距離感の違いを表現しています。
大変細かい事ですが、私の拘りであり、こちらのアートの気に入っている部分でもあります。
持ち手、内ポケット、裏地の工夫
一般的なバッグの持ち手は、革を重ねて縫っているのですが、こちらのバッグの持ち手は、革を繋ぎ合わせるように縫うことで、出っ張りをなくし握りやすくしているところが特徴です。
内ポケットは、脱着可能なポケット(クラッチバッグ)が来ることを想定し、埋め込みタイプにして中を覗いた時にスッキリと見えるよう工夫しました。
内ポケットの配置やサイズは、前後で高さと横幅を揃えることで、視覚的に違和感を与えないように工夫しています。
バッグ全体のコンセプトに一貫性を持たせるため、内ポケットにも拘りがあります。
一つ目のポケットには、「日本海」を思わせる2色の青色系の生地を使い、前後で濃淡をつけることで海の浅瀬や深瀬を表現しました。
ファスナーポケットの裏地には、銀色の模様があしらわれた、和柄のピッグスエードを使用して、日本神話の息づく「出雲」の雰囲気を表現しております。
裏地を選択する際に大切にしているのは、手触りの良さです。私が良く使う生地は、起毛加工されたやわらかなピッグスエードです。
これにより手触りが心地よく、高級感が出ます。
取り外し可能な内ポケット
このバッグには取り外し可能な内ポケット(クラッチバッグ/サコッシュ)が付いています。
バッグ内側には4箇所にDカンという金具を付けて、内ポケットをシーンに合わせて取り外す事ができるように設計しました。
旅行で、移動の際には内ポケットとして使用して、目的地に着いたら内ポケットを外して、クラッチバッグや、ストラップを付けてサコッシュとしても使えるようにしました。
例えば、目的地の宿や観光地に到着したら、トートバッグは置いて、内ポケットをクラッチバッグにすることで、身軽に宿の散策や街歩き、観光を楽しむことができます。
旅先での行動に合わせてカスタマイズできることが、このバッグの最大の魅力であり、機能面で特に拘っている点です。
商業デザインとアートデザインの違い
今回の作品は、商業デザインとは異なるアートデザインのアプローチを取っています。
商業デザインは、販売を目的とし、多くの人々に受け入れられるような実用的なデザインを目指します。
一方で、アートデザインは鑑賞者に感動を与え、芸術作品としての価値を高めることを目的としています。
このため、個性的で独自のデザインを追求できる反面、ターゲットが限定されるというデメリットもあります。
しかし、その制約を超えて、作品としての深い感動や美しさを提供できるのがアートデザインの魅力と考え、今回はこの「パッチワークアートバッグ」を製作しました。
【souan style】というショップに対する思い
私が製作した作品や、私がセレクトした商品が並ぶ、草菴内のショップ「souan style 」は、単なる商品を売り買いする場所ではなく、職人達の作品や商品を鑑賞しても楽しんで頂ける、「ギャラリー」をコンセプトにしたセレクトショップです。
オールハンドメイドで1点モノの私の作品の値段は決して安くはありません。
しかし、すべて手縫いで、ひとつひとつ丁寧に作り上げた作品に対して、多くのお客様がその価値を理解し、納得してくださることは私にとって大変嬉しい事です。お客様からの「特別な一品」としての評価や感想をいただいた時、私の製作に対する情熱と努力が報われたと感じる瞬間です。
ショップの運営と製作活動を両立することは苦労もありますが、実際に店舗に立って接客することで、作品に対する感想を聞いたり、お買い求めいただく時の表情を直接見ることできるということは、モチベーションの上がる瞬間であり、次の作品づくりへのエネルギーになると考えています。
今後の展望と新しいアイデア
今後の作品へのアイデアとして、パッチワークアートで出雲神話に登場する「ヤマタノオロチ」を彷彿させる、出雲の清流「斐伊川」と、出雲を象徴する「八雲」をモチーフにしたショルダーバッグを考えています。
また、パッチワークの技法でボーダー、ストライプ、シェブロン、ギンガムチェックといった柄を作ることも計画中です。
さらに、ステッチ(縫い目)を使って柄やアートを描いたデザインも考えています。
このバッグを手にする方へ
このバッグを手にする方には、是非ご旅行をより楽しんでいただきたいと願っています。
作り手の想いやテーマを踏まえ、アートデザインを楽しんで、永く大切に使っていただければ幸いです。
単に物を入れる道具としてではなく、一緒に旅する大切な存在として大事に使ってもらえると嬉しいです。
最後に
私自身、このパッチワークアートバッグをとても楽しんで作成しました。
今後も、多くの方に私が手掛ける作品を知っていただけるよう、積極的に発信していきたいと考えています。
また、ガラス、デニム、木工など、地元で活躍されている作家さんともっとコラボレーションして、さまざまな素材と技法を取り入れた新しい作品を作り続けていきたいと考えています。
これからの作品も、どうぞお楽しみに。
souan style:yunokawa concept shop
―雲出づる国 出雲・湯の川― 湯宿 草菴内
◎営業時間/朝8:30~11:00、昼12:30~14:00、夕15:30~20:30
◎定休/月曜昼(月曜が祝日の場合は営業致します)・火曜昼・水曜昼・木曜昼
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