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会計士の仕事は無くなるか?

あなたは最近、小学校の卒業アルバムを読み返したことはあるだろうか? 卒業アルバムには、12歳の自分が語る将来の夢が書かれている。女の子であればケーキ職人や看護婦さん、男ならスポーツ選手や医者が多いのだろうか? 夢があって、とてもいい。社会人になって読み返すと、新鮮な驚きがある。

ちなみに僕の卒業アルバムには、公認会計士と書いてあった。あまり可愛げのない現実的な夢だ。おそらく公認会計士になりたかったのは、学年で僕だけだろう。僕のお父さんは、公認会計士だ。小学生の時は、公認会計士がどんな職業か知らなかったはずだが、何となくカッコいいものだと思っていた。

あれから約30年。僕の職業は、公認会計士だ。

会計士なんて将来無くなるんだぜ

小学校の時の友達に、鐘崎というやつがいた。僕よりも少し頭が良くて、将棋もうまかった。彼の将来の夢は、お医者さんだった。たぶんお父さんがお医者さんだったからだろう。彼も今は、立派なお医者さんになっている。

鐘崎と僕はお互いの将来の夢を知っていたし、医者・弁護士・会計士が所得の高い職業の代表例であることを知っていた。所得の多寡で将来の夢を語るなんて、可愛げのない小学生だ。

鐘崎は、ある日僕にこう言った。

「公認会計士の仕事なんて、将来コンピューターが発達して無くなるって、お父さんが言っていたぞ。」

僕が何と言い返したかはもう覚えていないが、鐘崎の言葉は今でも覚えている。当時の僕にとっては、衝撃の一言だった。

会計士の仕事は、今も昔も10年後に無くなる職業

あれから30年経ったが、僕はあいかわらず会計士をやっている。会社がつぶれることはあっても、会計士として路頭に迷うことはなさそうだ。会計士という職業は、30年前からずっと「10年後に無くなる職業リスト」に載り続けている。今も載っているに違いない。ホリエモンも、会計士の仕事はAIにとってかわられると言っている。それが大方の予想なのだろう。

もちろん30年前から変わったことはたくさんある。電卓と紙のレポートは、エクセルに置き換えられた。仕分け伝票は会計ソフトに置き換えられた。エクセルや会計ソフトといったツールは、ここ20年やそこらで登場したものばかりだ。登場した当時は、いよいよ会計士の仕事が無くなると思われたが、会計業界は未だに超絶ブラック業界だ。仕事が無くなる実感はまだ無い。

10年前に、仙台のある会計事務所を見学した時のことだ。パートのおばさんが左手で仕訳伝票をめくりながら、右手で電卓をバシバシ叩いていた。あまりの超絶スピードに圧倒されてしまったが、冷静に考えてこの人の仕事は10年どころか5年後には無いなと思った。

一口に会計士の仕事と言っても、実は色々ある。代表的なものを挙げれば、経理、財務、監査、税務、経営企画、コンサルティング、内部統制、バリュエーション、M&Aデューデリジェンスなどだろうか。これ以外にも会計士のスキルを活かした仕事はたくさんある。

ではこの中に、今後10年でなくなる仕事はあるだろうか?

僕はこれらの仕事が無くなることは絶対ないと言い切れる。AIや機械学習が発達することによって、仕事が効率化することはあると思う。しかし、これらの仕事には、AIや機械学習では置き換えられない部分が必ず含まれている。

会計士の仕事の無くなる部分

もちろん会計士の仕事で無くなる部分があるのは間違いない。高速で仕訳け伝票を切るパートのおばさんは、仕分け伝票そのものが無くなった時に、やることがなくなってしまうだろう。会計業界でも、単純作業はどんどん自動化が進んでいる。

僕が監査をやっていた時の経験でも、10年やそこらの間に色々な変化があった。例えば銀行残高の確認などは、僕が会計事務所に就職した当時は手書きの注釈が入った紙が郵送で送られてきていたが、今はオンラインで銀行と直接確認ができる。

会計仕分けの分析も、以前はデータの整理にかなりの時間をとられていたが、今は機械学習でだいぶ効率化が進んでいるはずだ。

税務申告も、今は税務申告ソフトが優秀になっているので、単純な個人の申告書なら人と話さなくても質の高いものができてしまう。

会計士の仕事の中でも、単純作業は今後も自動化や機械化の流れは止まらないだろう。これは大方の見方と同じだ。

会計士の仕事の無くならない部分

僕が会計士の仕事が無くならないと確信する理由は二つある。ひとつは判断力。もうひとつはコミュニケーション力だ。

会計士の仕事には、高度な判断力が要求される。基礎的な数字は誰が作っても同じだが、その数字をもとにどのような判断を下すかには、判断を下す個人の資質が問われる。

会計士は、毎日様々な判断を要求される。費用なのか資産なのか、売上なのか負債なのか、といった単純なものから、リストラをするべきか、起業買収をするべきか、といった高度な判断までその内容は様々だ。AIや機械学習では、こういった判断の補助はできても完全に人の判断を置き換えることは難しいはずだ。少なくても今後10年の間に置き換わることはないだろう。

僕は特に「会計士の良心」に、会計士としての存在価値があると思っている。会計士の仕事には、道徳的な判断を迫られる場面がけっこうある。会計士が有名になる時は、たいてい不祥事をやらかして新聞に載る時と相場が決まっている。不名誉な理由で有名にならないためには、「会計士の良心」にもとづいた判断が必要なのだ。

コミュニケーションも、会計士の仕事の無くならない部分だろう。会計士は、常に数字の後ろにいる人たちを意識しながら仕事をしている。いくらAIや自動化が進んでも、会社から人が完全に居なくなることはない。少なくても今後10年の間にそんなことにはならない。

会計士は、数字の後ろにいる人たちとコミュニケーションをとりながら仕事をしている。経理に必要な数字を担当者と確認したり、分析結果をわかりやすく経営者に伝えるにも、高度なコミュニケーション能力が要求される。AIや機械学習がこういった側面を置き換えるのは、だいぶ先に未来の話だろう。

コモディティ化する会計業界で生き残る術

会計士としての仕事が完全に無くなることはしばらくなさそうだが、公認会計士がコモディティ化しているのは確かだ。公認会計士の資格を持っていれば失業しない時代は、もう過去の話だ。僕たちの親の代と比べて公認会計士の希少性はもうないし、会計士の給料は今後もどんどん下がっていくだろう。公認会計士として価値を高めていくには、資格だけでは不十分だ。

公認会計士の資格で資格貧乏にならないためには、自分なりの付加価値を獲得する必要がある。専門的な分野に進んで希少性を高めていくのも、一つの選択肢だ。僕は会計+保険+英語で、希少性を高めることができた。

でもこのアプローチは、ちょっとリスクが高いとも思う。今の世の中は凄いスピードで変化していて、専門知識があっという間に陳腐化してしまうことがよくある。会計士として付加価値を高めたいのであれば、判断力とコミュニケーション力を高めるのがおススメだ。

この二つは、絶対にテクノロジーに置き換えられることはない。判断力とコミュニケーション力を高めるには、幅広い視野と圧倒的な経験が必要だ。本を読んで勉強したり、新しいことにチャレンジして良質な経験をすることが重要だ。数字に人間らしさを付加できる能力。これからの会計士に求められているのは、そんな能力だと思う。


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