石田想太朗超現実館

カラコルムの山々 石田想太朗超現実館が自宅で開催する記述イベント「オムニバスの夢」より…

石田想太朗超現実館

カラコルムの山々 石田想太朗超現実館が自宅で開催する記述イベント「オムニバスの夢」より掲載。だいたい月曜更新。

最近の記事

超現実エッセイ DAY1 #1 生田駅ロータリーから改札まで

バスを降りる頃には、もう雨は止んでいた。ここは生田駅ロータリー。とはいえど、駅から隔離された場所。昔はもっと駅に近かったはずだが、10年くらいの月日をかけて少しずつ追いやられ、移動し、今では人っ子一人見ることはできない。  今日もここでバスを降りたのは僕一人だけだった。駅の反対側に建物は何もなく、地平線までまっさらに見通すことができる。4秒に一回くらいのペースで、大きな空をスキージャンパーが流れ星のように横切っている。まるで砂漠のような生命を感じない大地には、着地に失敗したス

    • 現実エッセイ DAY1 #1 生田駅ロータリーから改札まで

       バスを降りる頃には、もう雨は止んでいた。5〜6人くらいの主婦と老人と共にバスを降りた。通勤ラッシュを終えた午前11時の小田急線生田駅ロータリー。春の陽が穏やかに差す。雨でできた水溜まりに反射する太陽が眩しく、ロータリーの真ん中に取ってつけたように生えている木は優しくざわめいていた。  つい3時間前まで会社員、学生が雨傘で凌ぎを削りあっていた場所。時間の経過によるこの極端な雰囲気の差に、なんだか不思議な気持ちになる。そんな時、僕はいつも何時間か前のこの場所の光景をリアルに想

      • 18歳の男がすきやばし次郎で見たもの。

        12時ぴったりに坊主ともショートとも言えない髪の若者が出てきて店に通してくれた。奥から数えて5番目の席に座った。次郎さんはいなくて、息子さんが寿司を握ってくれた。空気は張り詰めていて、高校の部活以来のヒリヒリした緊張感を感じたので、無闇に口を開けなかった。 席に着いて20秒くらいで1貫目のヒラメが出てきた。何よりうまかったのは、シマアジ、イカ、タコ、赤身、こばしら、くるまえび。縞鯵には本当に震えた、足の先まで幸福感で満たされてゆくのを感じた。『幸』とはこれか! 職人の仕事

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