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超現実エッセイ #4 夏の魔物編

残暑に熱せられた川崎の埋立地。あの夜、あの場所で大量の鰹節が踊っているのを、僕は目撃した。

何ヶ月か前、友人が僕に言った。
今年の夏、あの地に魔物が集まる。
それも言葉と音を巧みに操る、恐ろしい魔物たちだ、と。

例えば、鬼、般若。奇妙な歌うたい。人間が取り憑いた椅子の三脚組や、ドラムを叩く猫と林檎のミクスチャー生物。

なるほど、わかった友人。だがなんだ。この鰹節の群れは。聞いていないぞ。

知らない、知らない。

我々はもしかしたら、魔物巡りを経て、深淵に辿り着いてしまったのかもしれない。

踊る鰹節の群れを目の前にして、僕ははたと気づく。

「ああ、彼らは踊っているのではなく、何者かに踊らされているのだ。」


彼らが白い目で見上げる先には、座禅を組んだ4人の男たち。鞭を打つような鋭い音を発しながら我々を殺す勢いで睨みつけていた。

同じ音を聞いているのにも関わらず、鰹節の群れはバラバラに揺れ動いていたのだ。


突如、夜空が眩しく光った。一筋の雷が僕に落ちる。手足が痺れ、脳みそが膨張し、心臓が跳ね上がるのを感じる。

「貴様に伝えたい。」

マイクを握った男が言った。その瞬間、僕の足元はぬかるんで、あっという間にズボズボっと。泥沼にハマっていく。僕は抗わなかった。彼らが発する音に身を任せ、ただひたすらに体を揺らした。もはや鰹節の一部じゃないか。

こうして、座禅を組んだ男たちは、僕に、10年殺しの呪いをかけたのだった。


2017年9月10日、川崎東扇島東公園。

僕は確かにこの日、夏の魔物を、目撃した。
あれから7年。
僕は今日、あの魔物と対峙したのだ。

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