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現実エッセイ #4 夏の魔物編

 僕は中学3年生の時、hiphopという音楽に出会った。最初に食らったのはRHYMESTERだった。K.U.F.UのMummy-D氏の渋い日本語に、15歳ながら痺れた学校の帰り道を今でも覚えている。
 RHYMESTERを入り口として、あっという間に日本語ラップにハマった。MSC、ソウスク、スチャダラ、ZORN、PUNPEE、Jin Dogg...…しかし、まだ当時は高校生だったこともあり、ライブには行ったことがなかった。そんな僕を見兼ねた友人に、あるフェスに誘われた。夏の魔物というフェスが9月にある、スチャダラと般若のライブを見に行ってみないか、と。
 そうして2017年9月10日(高校一年生の夏)、僕は川崎東扇島東公園に降り立った。枯草の野原が広がる広い公園だった。フェスに来ることさえ初体験の僕は、まずその仕組みに十分、興奮していた。一日でこんなにもたくさんのライブが見られるなんて!

 まだまだ屋台にワクワクできる年齢だった僕たちは、ケバブ丼や牛串を食べながら、様々なアーティストを見た。般若、DOTAMA、奇妙礼太郎、スチャダラ、MOROHA。あっという間に夜が訪れた。人生で浴びたことのない一日あたりの音楽量を摂取し、疲れ切った僕たちは少し小高い丘のようなところに腰を下ろした。
 残暑のカラッとした夜空をぼんやりと明るく照らすステージの光。人々が同じタオルを肩にかけ、Tシャツを着て、ともに体を揺らしにきている。各地で同時多発的に鳴り続ける純度の高い音楽。「けいおん!」でしか見たことのない「フェス」の姿が今、目の前にあり、そこはまるで夢の国のようだった。素晴らしい一日だった、と今日のまとめを心の中でしようとしていた瞬間、僕は異様な光景を目撃する。

 アーティストがライブをやっている……のだが、それを聴いている客の動きが皆、バラバラだ。同じ音を聞いているのにも関わらず、誰1人として同じタイミングでノっていない。何故だ。
 よく曲を聴いてみると、4分の4拍子ではない。17歳の高校生にとって、初めての変拍子だった。複雑なビートなのに、バンドの音は塊としてこちらに飛んでくる。まるで蜂の巣にされているかのように次々と僕の体を狙い撃ち、確実にぶち当ててくるこの音楽。雷に打たれて唖然としている僕に友人は言った。

「あれが向井秀徳率いるZAZEN BOYSだよ。」

人混みの遥か彼方にかすかに見える4人の男たちは、どうやらZAZEN BOYSというらしい。

夏の魔物をともに楽しんだ友人たちと別れ、川崎からのひとりの帰り道。僕はあの異様な光景を思い出す。あれはなんだったのだろう。

向井秀徳とは一体、何者なんだ。

いまから7年前の話である。

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