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💎小話 『Parallel Method』
「幽霊には倫理がないし人の法なんぞで裁けないが、境界の侵犯には敏感。そんな世界でにやにやしつつ悪さをしたところで誰にも気付いてもらえない何者かと、気付いてしまった誰かさんのお話。」
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幽霊の影は白い。ちょうどこんな白さだ。ほら。忙しない朝、子どもが親に振り向いてほしくてミルクの入ったコップを倒した。花柄のテーブルクロスには透明なビニールシートがぴっちりと重ねてあって、ミルクは滑らかに表
『Parallel Method』の読者のための補足
『Parallel Method』(以下:本作)はフィクションである。 本作は、独自の時流から現実世界へと接続したとして〈自らをノンフィクションと主張する物語〉である。作中、読者にそれについて肯定あるいは否定を要求する言及がなされるが、無視しても応じてもかまわない。
〈灰色の街〉の文化の発展は、定常な時間経過の法則を無視している。
〈核暦〉という暦で、10年ごとに年頭を区切る。幻子時核の発見
EP. working memory〈GHOST with HUMAN 8910〉の結成、あるいは出現に関するポートレート
EP. working memory
〈GHOST with HUMAN 8910〉の結成、あるいは出現に関するポートレート。
(GwH、自創作バンド1周年記念)
1.雲の上 往来に見果てぬほど高い梯子がかかっていた。子どもは、青年は、老人は、そして狼人は、それぞれに上り、雲の上を見た。
〈灰色の街〉では見たこともない明るい青空だ。もちろんそこは死者の国ではない。かれらは梯子を降り、また街に戻
「火の輪」(2013.9)
過去作掌編「火の輪」を当時使っていたPCからサルベージしました。画像お借りしました、有難うございます。
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薄野原には風だけがある。なにかが焦げるにおいがかすかに運ばれてくる。
走ったせいで、息が切れている。腕にも脚にも、薄に擦れてできた浅い切り傷が無数にある。薄皮を切っただけらしく、血は出ていない。上気した膝小僧がほのかに赤い。
狐はどこまで走っても目の前に居た。
唯一絶対なる存在の確信にいたるまでのキソ的展望 【EVYシリーズ2】
添付ファイル - 『イビくんの認識相乗実験に関する結果報告と個人的なポートレート』
キソ。
私の名だ。本稿に添付した兄の研究報告レポート──正確には、兄の旧友であり、我が師でもあるナガラさんが兄に宛てて書いたポートレート……これも今のところ正確な表現ではない……──の内容と混同する恐れがあるので、確認のために記す。
キソという音は、基礎とも書き表せる。私は自分の名前と、私自身のことをまず
イビくんの認識相乗実験に関する結果報告と個人的なポートレート 【EVYシリーズ】
1.経緯
イビくん。
これは呼びかけではなく確認である。
イビくんは、自らの実体の存在を疑っていた。
たとえば、林檎を手にして、齧る。林檎を齧った形跡は残るが、「林檎を齧った自分」はもうそこには存在しない。林檎を齧っている様子を写真や動画で撮影したものを見せられたとしても、それは「写真や動画を見ているイビくん」と同一ではない。
あるいは、鏡を見つめながら林檎を齧ったとしても、「鏡を見てい