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コンサルがその会社を選ぶわけ

社長から「日次報告」が義務付けられ驚愕するヒルズ氏たち。報告方法を決定すべく社内オールスターが集結、そしてついに副社長と接することに。(前回

ねぇムーミン、こっち向いて♪マグを回してっと....こっち向いた!ムーミンがこっち向い、、、おや?私はもしかして疲れているのか?

◆普通というプレミアム

副社長との初ミーティング。
それは自プロジェクトではなく日次報告方法の決定であった。一体私は何をやっているのか?と思うが、、1ついいこともあった。

副社長、「普通」だったのだ。

中肉中背、短髪、グレーのスーツに青ネクタイ、柔和な人相、、、普通を極めすぎて空気のようだ。しかし大切なのは外見ではない。

「全社員が日次報告は無理があるよな」
オールスターからの厳しい視線にわかるわかる、と頷く副社長。でもまぁ、社長は言い出したら止まらないからなぁ、、、少し考えこみ指示を出す。

「できるだけ時間取らないフォーマットで」
「そう、一週間やってみて納得してもらおう」

副社長なんだから止めてくれよとも思うが、エッチ画像閲覧に怒り狂う社長の姿を思い出す。あれを説得する労力と、一週間で適当にお茶を濁す労力、どう考えても後者の方が低コストだ。普通の会社員らしい判断だ。

ヒルズで出会う普通の人、プライスレスーー。

「じゃ、後でフォーマット共有しておいて」

元ATカニカニのコンサルタントがフォーマットを作ることになり、会議は10分強で終了した。

◆コーヒーブレイク

会議室を出る。笑いをかみ殺すお嬢氏と新人Boy氏の姿が見えるが無視だ無視!

一息つくか。

ムーミンマグカップを握りしめ、コーヒーカウンター(*)に向かう。同じく疲れたのだろう、カニカニ氏が紅茶に砂糖を入れている。「お疲れ様」と声をかけると苦笑いが返ってきた。

「もう慣れたよ、さっさと終わらせよう」

彼は入社3年目。つまりこの高濃度マルチハラスメント環境で3年も生き抜くツワモノだ。彼ほど優秀な方が何故ここに居続けるのだろうか?

「案件だね」

カウンターにもたれかかり、紅茶を片手にぽつりと答える。

「経験は何にも代えがたいからね」

確かに。イカレた会社ではあるが他にはない魅力的な案件にも出会える。対応する業界が多岐にわたること、少人数だからこそ様々な挑戦ができる環境であることも魅力ではある(**)。とはいえ、、、

「ねぇ、これ誰のか知ってる?」

◆ホタルイカブレイク

突然の割り込みに我に返る。見ると冷蔵庫の前でギャル氏が小箱を手にしている。

ホタルイカの沖漬けらしいけど」

なぜにホタルイカ!?誰か酒でも飲んだのか?社長にばれたら日次どころか分次報告になりかねない。焦る私の横で「へぇ、うちの嫁の好物だわ」とカニカニ氏が目を輝かせる。

「あ、そなの?持って帰る?」
賞味期限ぎりぎりだしさ。誰のか知らないけど先週から放置されてるし。ギャル氏が小箱を手渡す。嬉しそうなカニカニ氏。本来の目的だったと思われるティラミスを取り出し満足げに立ち去るギャル氏。

、、、なんだこのほっこりワールドは?

コーヒー片手にほっこり便乗していた私にカニカニ氏が質問する。

「で、ヒルズ君はなぜここにいるの?」


◆ここにいる理由

言葉がつまる。

入社した日、この会社に感じた「居場所を自ら作る余地」という魅力、それを私は今も感じ続けているだろうか。それとも、、、

「ここで得ているもの、もっと意識するといいよ」
考え込む私にカニカニ氏が語り掛ける。経験、人脈、報酬ーー。ここで得ているものと君が払っているコスト、そのバランスを常に意識するといい。惰性で居るには毒気の強い場所だからね。

爽やかなカニカニ氏の語り掛けに考え込む、いや感動する。そう、私は感動しているのだ。

私は今、意識高い系、、、いや系じゃない、意識が完全に高い高いしている会話を楽しんでいるーー。


読者諸君、こんなにまともな時間がかつてヒルズにあっただろうか?


遅い、遅すぎる春。なんてこった意外といい会社じゃないかよ?感無量な私を現実に引き戻す声が聞こえる。

「ヒルズ君、ちょっと」

副社長だ。

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(*) 私が知る限りどこのファームもコーヒーカウンターの充実には金をかけている。各種新聞・雑誌が並べられ、無駄におしゃれな紅茶・珈琲が並ぶ。まさに意識高い高いのたまり場だ。

(**)どのファームも様々な業界を相手にしているのでは、って?いや、中堅ファームは得意業界以外の案件を受けないことが多く、大手だと専門分野が固定されやすい。専門分野を持つことは強みにもなるが、キャリア初期に色が付きすぎるのを嫌うコンサルも多い。

Twitter: @soremaide

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