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コンサルは状況把握と素早い判断で生き抜け

カリフォルニアでとんでも営業を繰り広げる社長、その横で疲労困憊のお嬢&私ことヒルズ氏ーー。そして一行は、某投資会社の薄塩CEOからディナーの誘いをうける。(前回


なぁ、なぜアメリカのパスタはこんなにのびきってるんだ? というのはさておき会食が終わればようやく休める。穏便に終わらせるぞ!

◆軍事オタクども

「いやいや素晴らしい経歴です!」

薄塩CEOの案内で、イタリアンレストランに到着した我々。
社長は相変わらずオーパスワンを片手にご機嫌だ。横で静かにディナーを処理する我々。少しでも消化のよいものを頼んだつもりだが、オリーブオイルが寝不足の胃に響く。ステーキを平らげているお嬢のタフさが羨ましい。

「以前は軍にいたもので、まさか投資会社を始めるとは思ってもみなかったんですが」
薄塩CEOが白ワインを傾けながら思い出話を始める。

「米国国防省の技術投資への積極性には羨ましく感じることもあります」
お嬢氏が合いの手をはさむ。

なぜだろうか。

コンサルタントは軍事産業に詳しい者が多い。そもそも「戦略」が戦争におけるはかりごとからきているのだから当然ともいえるが、孫氏、クラウゼヴィッツあたりを基礎(*) として最新の軍事トレンドまでのめりこむ者がいる。

かういう私も、一般人にしては戦艦と戦時のロジスティクスについて割と詳しい。一方のお嬢はサイバー関連に強いようだ。薄塩CEOも満足げ。

そんな我々の横で押し黙る社長。
なんというか、色々な意味で期待を裏切らない方だ。Sタンフォード大学院パーティー野郎時代の自慢話でもさせてやった方がいいのだろうか。


◆状況把握の大切さ

夜11時、ようやく会食が終わった。

長かった。
長かったが、これで終わりではない。

仕事は情報戦だ。

コンサルは24時間起きているのか?と聞かれることがあるが、常に最新の状況に反応できるのは大切な能力だ。日本からは新人Boy氏より某飲料メーカーのプレゼンがうまくいったようだと報告が届いている。

「相手が恩を感じている間に提案書を持っていけ、来週にはアポをいれるように」(**) 

社長からありがたいご指示をいただく。
お嬢氏も仕事の状況報告を終え、と同時にホテルが見えてきた。

「これで時差ボケは一発解消だね」
笑顔の社長。

いやいや、明日の視察が終わればすぐ日本。
時差ボケなど解消しないほうが楽なのだが?

ひきつる私の横でお嬢氏は無反応、いや何か切羽詰まった顔でスマホを見ている。プロジェクトに異変があったのだろうか。


ロビーに入る。

と同時にお嬢氏、

「パスポートとクレジットカードを」
妙な圧力にすごすごと渡す社長&私。ではここでお待ちください、と告げチェックインに向かうお嬢氏。

各自チェックインでいいのだが?
お嬢、一体どうした?

流ちょうな英語で何かを話している。
3分ほど待っただろうか。

「お待たせしました」

にこりと微笑みながらお嬢が振り返る。

社長は西側の5階、海が綺麗にみえる広い部屋だそうですよ。私たちは東側3階ですね。

カードを配布する。

「では明日8時にロビーで!」


◆お嬢の防衛&攻撃能力

お疲れ様でしたー

にこやかに手をふり3階で降りる。
私は今、胸騒ぎを感じている。

「あの、お嬢、もしかし、、」


「あっのやろぉおおおおおおお!!!」

エレベーターホール前の壁に強烈なキックを決めるお嬢氏ぃぃぃ!

どごっ!

という鈍い音とともに少し我に返ったのか

「あら、ごめんあそばせ」

髪をさらりとはねのける。

い、いえ、、、
は、話を、聞きましょうか?

エレベーター前に都合よく置かれたソファに腰掛ける。
そして不都合な真実を知る。


簡単に言おう。

お嬢氏と社長の部屋を隣にするよう、社長からホテルに指示が入っていた。

オンライン予約のメモ欄でこの異常事態に気が付いた我らが爆乳・超絶有能・総務がお嬢氏に連絡、ホテルと掛け合い部屋を変更したのだ。


震える。
そして確信する。
社長は戦略に疎い。

相手はお嬢氏ーー。カリフォルニアに自分のワイナリーを持ち、シンガポールで合コンし、深夜のホテルで回し蹴りをキメる女だぞ?

大体、隣の部屋にしてどうするつもりだったのか? ここでセクハラでもしたら、いやすでにセクハラ事案ではあるが、社長の社会的地位はどん底、どころか物理的に抹消されかねない。

金に対する嗅覚は強いが、
女、、、というか性欲に関するリスク感覚はかなり低いな、、、

「では、ごきげんよう」

「よ、よく休んで、、、」

抜群の状況把握能力と防衛能力、そして恐るべき攻撃能力を見せつけ、部屋に消えるお嬢氏。


私も部屋に入る。

どっと疲れがやってくる。
提案書は帰りの飛行機か。お嬢は訴訟でも起こしかねない空気だったな。明日の視察はどうしたものか。

ベッドから天井を眺める。無駄に豪華なシャンデリア風ライティングが眩しい。少し眩暈がする。

一体、私は何をしているのかーー。


翌日、ロビーに社長は現れなかった。

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(*) コンサル界隈の一般常識本。ただ、これを読んでいないからって通常業務が回らないかと言われたらそんなことはない。

(**)アポ入れはコンサルの大切な仕事。提案書の完成が見えてからアポ入れをするなど愚の骨頂。 予定が埋まり、締め切りが見えてこそ業務は計画できる。能力がまだ高くないのにこれを徹底しすぎ、結局クオリティの低いドキュメントを持っていくコンサルも多い。これもまた愚の骨頂だ。

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