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青空物語 第8話 言い伝え

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第8話 言い伝え


蒼は記憶の彼方にいた。
昔ながらの畳の懐かしい香りがした。


『あれ、私はどこにいるんだろう』


蒼が目を開けるとそこは幼い頃に育った祖母の家だった。


『そうか、ここはおばあちゃんの家だ』


台所からは美味しい香りが漂ってきていた。
蒼が台所に駆け寄ると祖母が台所で鍋から何かを出している。
「おばあちゃん、何作ってるの?」
「これ?じゃがいもがね、送られてきたから蒸したんだよ、食べるかい?」
「うん!!」

蒼の祖母は蒼用の小さいお皿に大きなじゃがいもをのせた。
蒼は落とさない様にそうっとお皿を机に運んだ。
黄色い綺麗な色が十字の切れ目から見える。

食べたいとはいったものの、蒼には熱くてうまく皮が剥けそうにない。
幼い蒼は熱々のゆげが上がるじゃがいもを指先で突きながら冷めるのを待っていた。


「これは<おお><おお>おじちゃんが作ったの?」
「うん、そうよ。おばあちゃんのおじいちゃんが作ったのよ」
「すごいねえ」
蒼は思わずため息が出る。

少し冷めたじゃがいもを美味しそうに食べる蒼に祖母は笑顔で訊ねた。
「蒼はじゃがいも好き?」
「うん!太陽の味がするの!」
蒼がそういうと祖母は目を丸くして
「太陽見たことないのに?」と蒼の顔を覗き込んだ。

「うん、でも絵本の太陽は温かいいい香りがすると思うの」
「・・そう」祖母は目を細めて蒼の頭を撫でた。
「おじいちゃんはなんでも作るのが上手でね・・渡すのをおばあちゃんは迷ってたんだけど、蒼にやっぱり渡そうね」
そう言いながら祖母は隣の部屋へ行った。

「なに?なに?」
蒼も祖母の後を追いかける。
蒼が、祖母が入っていった隣の部屋の入り口から中を眺めていると、祖母はなにやら大きな木の箱を持ってきた。

「開けてご覧?」
そう言われて祖母と一緒にその木の箱を開けると、中には蒼より少し小さいくらいの丸いものが入っていた。
「お人形さん?」
祖母は微笑んで首を振る。

「ちょっと待ってね」
祖母が何かを言うと人形のお腹が開いた。
中のボタンを押し閉じるとその人形からウィーンと音がして、人形の手が蒼の手を握る。
「動いた!」
蒼が驚いて祖母を見ると彼女は笑顔で答えた。

「そう、お友達ロボットよ」
「お友達?」
「おばあちゃんのお母さんがね、小さい頃に、もらったものよ」
「誰から?」
「お母さんのお父さんからもらったの」
「おばあちゃんのお母さんのお父さん・・・<おお><おお>じいちゃん?」
「ふふ・・そうね」
「おばあちゃんのお友達ではないの?」
祖母は蒼を撫でながら笑顔で答えた。

「おばあちゃんは少しだけお友達だったことはあるんだけど、おばあちゃんのお母さんの方が長いことお友達だったのよ」
「そうなんだー」
「今度は蒼の友達にって思って」
「蒼にくれるの?」
「ええ、あなたにあげるわ」
「蒼のお友達?」
「そうよ、大切にしてくれる?」
「うん!大切にするー!」
「よかったわ」」
「なんで蒼にくれるの?」
「なんでかしらね。<大><大>じいちゃんが蒼に持ってて欲しいって言ってたのよ」
「わーい、やった〜!」
蒼はその人形を抱きしめる。
すると人形が話し始めた。

「ワタシはクウ。アナタのオナマエハ?」
「あおいだよ!」
「アオイ。よろしくね」
蒼はクウを抱きしめたまま祖母に尋ねた。

「<大><大>じいちゃんに会えることはある?」
「うーんどうかしらねえ」
「私、お礼言いたい!」
「もし、会えることがあったらいってあげてね。きっと喜ぶわ」


『お礼言うの忘れてたな・・クウくれてありがとうって・・』




そこで蒼は目が覚めた。
「クウ!」そう言って飛び起きるとそこはユンの家で横にはクウが置いてあった。
「大丈夫か?」
ユンとおばあちゃんが心配そうに覗き込んでいた。

「・・・私よりクウが・・」
蒼は壊れてしまっているクウを見つめた。
それを見てユンが何やら段ボール箱を開けた。

「クウなんだけど、一応<ガワ>は持ってきたんだけどさ」
そう言って、ユンが段ボールから出したものはクウにそっくりな動かない子守AIだった。

「新しい子守AI・・なんで」
「元々音さんが子守AIの開発メンバーだったからさ。」
「・・そうなんだ」
「AIのピースはいくつか倉庫にあったの見たことがあったんだよ。で、探してきたんだ。これが最後の一個だけど」
「・・ありがとう」

蒼が新しい子守AIをそっと触るのを見てユンは申し訳なさそうに言った。
「ごめんな、嫌な思いさせて」
「ううん・・」
落ち着いてユンの後ろを見るとそこには先ほどクウに飛びかかった男性がうなだれていた。

「すみません、僕、音さんのお孫さんだとは知らなくて・・」
横にはユンに詰め寄っていた男性やそれ以外の人たちもいた。
皆、申し訳なさそうにうなだれていた。

蒼はそんな人たちに対して許せない気持ちがありながらも、ナブンで感じた様な気持ちにはなれなかった。
蒼は自分の中に変化を感じていた。



「これに中身を入れ替えれば多分大丈夫だと思うんだけどな」
「本当?」
蒼は泣きそうな声でユンを見た。
ユンは蒼のほっとした顔を見て頷いた。

「ああ。ただ、データー取り出すのにパスワードが必要で、わかんないんだよ。あんた覚えてる?」
「パスワード・・」
「AIの名前と持ち主の名前で構成されていると思うんだけど」
蒼は先ほどの夢を思い出した。


『おばあちゃんが言ってた言葉、幼い頃何度か、私とクウの秘密だと教わった言葉』


「・・・<空が青さを連れてくるもの、青空を広げる友と共にありなん>」
蒼がそう呟くとユンは驚いて
「・・それ、言い伝えの・・」
そう言った時だった。
クウのお腹が開き中から二つのデーターのディスクが出てきた。
一枚には空とかかれ、もう一枚には研究データーと書かれていた。

「二枚?」
ユンが研究データーと書かれたディスクを手に取る。
そして自分のAI機器に取り込んだ。
取り込まれたデーターを開くとユンは言葉を飲んだ。
「これ・・」


ユンが開いたデーターは2324年までのナルの気候や大地を回復させるためのものだった。
それはクウがナブンに来る前までの100年間だった。
蒼が欲しいと思っていた100年以上前の足りないデータもそこにあった。

そして蒼が研究のために集めたものと別にクウが自動で収集したナブンでのここ100年のデーターが全て入っていた。



「あんた、さっき、パスワード、<空が青さを連れてくるもの、青空を広げる友と共にありなん>って言ったよな」
ユンはこれらのデーターを見たまま蒼に尋ねた。
「うん」
ユンのおばあちゃんが口を開く。

「それは地球が普通に住めなくなった200年以上前からナルに伝わる言い伝えやね」
「え?」
「空が青くなくなっただろ。ドームを作り始めるだいぶ前。その頃からの言い伝えなんだよ、それ」
ユンの顔は少し強張っていた。

「そうなの?」
「・・ああ。パスワードは持ち主とAIの名前で構成されるんだけど、防犯上普段の呼び方は違うんだよね」
「クウは空ってこと?」
「そう・・で、あんたはあおいだろ?」
ユンは蒼をじっと見た。

「・・・・」
蒼は事態がよく飲み込めず、考えていた。

「私があおでクウがそら・・って」
ユンは蒼を見ながら手で口を覆い、すっげえ・・って言った後、笑い出した。
「はは・・すごいよ。音さんが生まれるもっと前だぜ。・・あの人はやっぱり神だよ」

そう言ってユンは後ろにいる人たちに向かい直し、言った。
「・・俺らはもう、音さんや彼女を止める権利はないですよね?俺らが止めていいと思いますか?言い伝えを」
「・・・」
「<空>が連れてきた<蒼>を」
男性たちは何も言葉が出なかった。

「彼女は、クウはデーターを持ってきた。ナルのドーム外の農場はこれでもっと広げられるでしょう?今度はこちらのデーターを持って帰ってもらう番だ」

その場の空気が止まったかのようだった。

             

                第9話 思い    へ


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新作のカケラからできた長編になります。
6日まで毎日更新予定です。
よろしくお願いいたします。

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