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青空物語 第9話 思い

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第9話 思い


男たちが帰った後、ユンはクウから取り出した二枚のディスクを新しい子守AIに入れ、起動ボタンを押した。
蒼は緊張しながら新しい子守AIの入れ物を見つめる。
新しい子守AIからウィーンという音が1分ほどしたのち
「再起動、終わりました」
という文字がお腹に浮き上がり、新しい子守AIが起き上がった。


「クウ!よかった」
新しい子守AIは少し間を置いて、「アオイは大丈夫ですか」と言った。
蒼は子供のようにクウに抱きついてよかったーと泣いた。
ユンもその姿を見て安心していた。



夜になって、蒼は横になりながら窓から時折見える星空を眺めていた。
そしてクウと旅をする中でずっと思っていたことを考えていた。

『安全で、快適な生活だと思っていたナブンはなんだったんだろう・・。私は、私たち人類は何を過去から受け継がれたのだろう』


クウはそういう意味では蒼が曽祖母の前から引き継がれたものの一つだった。
子守AIと呼ばれるお世話型のお友達AIはナルででさえも、もう数はとても少なくなっており、ものをずっと大切に使ってきていた蒼の家だからこそ残っている様な珍しいものだった。
今のAIほど色々搭載されていないシンプルな作りだからこそ、壊れても引き継ぎがれ、知識が1つの媒体に蓄積され賢くなってきていた。

『間違えなく人間が多くを与えたAIよりもクウは多くのものを持っている。そんなクウをものとして、間違えなく私は引き継いでいる。でもそれは<もの>だ。でもクウは・・』


蒼はナルにきたら何かが得られると、何かが変わると思っていた。
確かに蒼の欲しかったデーターは揃った。しかし、自分は何か掛け違えているのではないか、そんなことを蒼が考えながら夜空を眺めているとクウの起動音が聞こえた。


「起きてますか?」
「うん、よくわかったね」
「脈拍数と脳波が・・」
「ごめん、いいや、その話」
クウが言葉を続ける前に蒼はクウの話を遮った。

「・・・悲しい」
「え?クウが?・・ごめん」
蒼が慌ててクウに謝ると
「違います。AIですよ、ワタシ。そこまでいけたら素敵ですが、感情はありません。蒼です、悲しいのは」
とクウは変わらず応えた。

「あー・・そうね。時々忘れるわ、あなたがAIであること」
「どうしましたか?」
「んー、私は地球とみんなと・・全てのものと幸せに暮らしたいんだよね」
「壮大ですね」
「そうね・・本当、難しいなあって思ってる。でも何かそれ以外に自分でも少し間違っていることがある気がして」
蒼はため息をつきながらクウを撫でた。

「スウコウですね」
「すうこう?」
「美的範疇であり、巨大なもの、勇壮なものに対したとき対象に対して抱く感情また心的イメージをいう美学上の概念です。計算、測定、模倣の不可能な、何にも比較できない偉大さを指し、自然やその広大さについていわれることが多いです」
「ああ、崇高ね・・」
私はクウの機械っぽい説明に少し冷たい目をして答えてしまった。

「アオイのいいところですが悪いところです」
「あ・・ごめんね、いつもいうけれどその長い説明、嫌いなのよ」
「その話ではありません、崇高な思いの話です」
「え?そっち?・・いいところで悪いところ?」

蒼が不思議そうに尋ねるとクウが答えた。
「はい。その思いは素晴らしいです。でもそれに振り回されてはいけません。思いは蒼のものですが蒼は思いのものではありません。」
「思いのものではない」
「目の前の人、目の前のことに振り回されるのも良くありませんが・・でもミニマムに物事を考えることも必要です。蒼の今、嬉しいことはなんですか?」
クウは夜空をさした。

蒼はクウを見つめた。
子守AIは相手が気分が落ち込みすぎない様、子供が迷いすぎない様適切なアドバイスを入れる。
しかし蒼にはクウはそれ以上にわかっているように感じられた。

『クウは分かっている。
青空を見つけてから私が感動と悲しみに気がとられていることを。
そしてその悲しみばかりに目を向けていてはいけないと言っている』


理解していてもやっぱり蒼にとって何も人と変わらない、クウはクウなんだよなあと思い、蒼は夜空を眺めながら眠りについた。



次の日の朝早く、蒼は目が覚めた。
誰かが泊まっている部屋のドアを叩いていた。
蒼が眠い目をこすりながらドアを開けるとそこにはユンがいた。

「朝早くにごめんな、昼間になると移動が辛くなるから」
「うん、どうしたの?」
「音さんちが戻ってきたんだ」
「おー爺ちゃんが?」
「・・・とりあえず、出かけられる?そんなには遠くないから簡単な準備でいいんだけど」
「着替えるね」
「表で待ってるよ。馬車を連れてきてるから」
そう言ってユンは部屋のドアをしめた。

蒼は慌てて着替えた。
起きたばかりで頭が働かない上に、治に急遽会えると聞き、急ぎたつ気持ちを抑えきれない。

「えっと、何を持っていけばいい?」
「鞄があればいいと思います」
「代わりに持ってきた機械は・・いらないのか」
「はい」
「あとはおばさんにお土産」

バタバタ準備をする蒼にクウがいった。
「アオイ、落ち着いてください。とりあえず、鞄があればいいと思います、ユンさんは簡単な準備と言ってました」

「そうだね、ちょっと落ち着くわ」
と言って蒼は深呼吸をして鞄の準備をした。
そして、部屋を出てユンの待っている表へと急いだ。
ドアを開けると外はまだ太陽が昇ったばかりでほんのりと暖かい空気が漂っているだけだった。

蒼が馬車に乗るとユンはすぐに出発した。
「急になってごめんな。音さんのところに昨日の話をしに行ったんだ。そしたら、移動を早めてこっちに戻ってくることになって」
「そうなの」
「ああ」
そう言ってそのまま彼は黙って馬を走らせた。

二人の間に沈黙が流れた。馬が15分くらい走った頃だったろうか。
馬車が古めの建物の前で止まった。
そこは村の外れにある大きめの建物だった。
空には太陽が昇りきろうとしていた。

「着いたよ」
蒼たちは馬を降りた。
ユンは鍵を取り出し建物のドアを黙って開けた。
中では護衛なのだろう、男性が何人かいた。
ユンが彼らに挨拶をし、蒼も会釈をして通る。

そしてユンは長い廊下を歩き、建物の奥にある部屋へと蒼を案内した。
「ここだ」
蒼は深く深呼吸をした。

ユンに促され彼女はドアを開けた。
ドアを開けると、部屋には何回か話したことのある蒼の叔母と以前、蒼が治との通信中に少し見たことある遠い親戚の男性がいた。
蒼は会釈をし、部屋の中へと入った。

部屋の中央にはベッドがあり、機械に繋がれた治がいた。
それはフェニックスの機械だった。
「おー爺ちゃん・・」
蒼も画像でしか見たことのない機械だった。

想像したことはあったものの、蒼は治がフェニックスを選択するとは思えずにいたため、目の前の状況が飲み込めずにいた。
しかし、そこに横たわっているのは自分の高祖父、治だった。
そして機械から聞こえる音声は間違えなく治の声だった。

「蒼、よくきてくれたね」
「うん・・」
治の声は優しかったが、蒼はどうすればいいのかわからずその場で立ち竦んだ。

「すまなかったね、あれから連絡できなくなってしまって。」
「ううん」
蒼は話したいことがいっぱいあったものの何から話せばいいのかわからずそう答えるのが精一杯だった。

「ナルでの地球回復の研究は軌道に乗ったんだが、反対勢力が強くなり始めてな」
「うん、ユン君に聞いた」
「わしもな、最初は周りから身を守ることが目的だったから、すぐ連絡するつもりだったんじゃが」
「うん・・心配してたの」
「すまんなあ。移動する生活が応えてか、途中から体調が悪くなってしまってなあ」
「ううん・・ごめんね、私・・もっと早く・・」
「いいんじゃよ。わしが連絡をやめたんだから」
「どうして?家族なのに・・」
蒼の目には涙が溜まっていた。


「わしが体調を崩したと言ったら、みんな心配するじゃろう、蒼もきっともっと早くに会いにきてくれただろう」
「・・」
「お前がワシのためにこのことに巻き込まれるのを避けたかったんじゃ」
「巻き込まれる?」
「研究はあと少しのところまで来ているだろう」
「うん、ユンくんが言ってた」
「あとは、ナブンのデーターが手に入り、誰かがナルのデーターをナブンに持っていけば・・」
「きっと地球がもっと回復する」
「そうだ」
「・・言ってくれれば」


声だけにもかからず治がふふっと笑ったのが蒼にもわかった。
「お前は優しいからな。そうなるだろう。それはしたくなかったんだよ」

窓からは優しい太陽の光が差し込んでいた。


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