エアバンドで『夏祭り』を奏でていたあの夏

「ウチ、ギター」
「ウチはドラム」
「じゃぁウチはボーカル」

一人称に迷いが生じる年頃で、多くの女子が自分のことを「ウチ」と呼んでいた。

吹奏楽部の二人は率先して楽器演奏を選択肢、ウチはボーカルをすることになった。

音楽の授業中、男子パート、ソプラノ、アルトと順に、先生のピアノの周りに集まって練習をする間に自分たちのパートが待機のときに暇で、その間黙って座っているでもなく、寝るでもなく、ウチらは何もない場所でエアバンドを組むということで大盛り上がりできていた。

まだ、全教室にエアコンが導入されておらず、そんなときにみんなが待ち望む授業となるのが、冷房の効いた音楽室を使う授業だった。冷房で生き返り、元気だったのかもしれない。

結成されたエアバンドのメンバーとは、ひたすらにwhiteberryの『夏祭り』を練習していた。

君がいた夏は
遠い夢の中
空に消えていった
打ち上げ花火
ドゥンドゥンドゥンドゥン
ドゥンドゥンドゥンドゥン
ドゥンドゥンドゥンドゥン
ドゥンドゥンドゥンドゥン(間奏)

この歌を知っている人にはこの間奏の部分が伝わるだろう。
エアバンドはこの間奏を口とエアフォームで必死に奏でていた。

手をクロスさせてドラムを叩き、
左手で弦をおさえてギターを弾いて、
マイクを片手に片足で地面を蹴りながらリズムをとっていた。

もちろん、叩く先も引く先も、掴むものはそこになかったけれど、それはバンドを組む上で大した問題ではなかった。

そして、このかわいらしい甘酸っぱい恋の歌詞を歌い、学校で催される小さな夏祭りで、ウチこそは好きなひとに告白されるかもしれない、と夢見たり、期待をしたり。

それから数年後、まさかエアバンドで紅白出場までのぼりつめるグループが現れようとは。先にエアバンドしていたのはウチらなのに、なんて思ったような、思わなかったような。

いや、別にウチらが一番ではないか。
昔から教室にいつだってあるゴミ箱はドラムになるし、ハタキはそのスティックになる。
柄の長いホウキはスタンドマイクになるし、ハケボウキはギターだった。

エアバンドで夏祭りを幾度となく繰り返し歌っていたあの日々はどうやら遠い夢の中に消えていったけれど、その夢を書残しておきたいくらいには、忘れたくない思い出だ。

その夏、浴衣を着ていったそのお祭りに好きだった人はこなかったけれど、そのお祭りの屋台でみんながこぞって引いたハズレ賞の水鉄砲を片手にみんなと走り回った。ありえないくらい濡れたけど、涼しくなって気持ちよかった。走り回っている間に、来てないとわかっていてもついつい探してしまっていたのは、事実か夢か曖昧なところ。

カラオケで「好きだってことが言えなかった」という歌詞を歌うたびに思い出すエアバンドとあの夏。
好きだとも言われないし、好きだなんてとてもじゃないけど言えなかった。

だから私はカラオケで歌う夏祭りが上手なのだと思う。
エアバンドのボーカルとして歌詞を嚙み砕き、自分の歌にしたのだから。

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