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ゲーム制作につきまとう「素材=リソース上限の罠」とは?(ノベルゲーム制作講座29・プロット編1)
作中の登場人物の人数は、立ち絵と服装差分の総数に縛られる。
物語の舞台となる場所と時季は、背景素材の総数に縛られる。
プロットを立てる際は、シナリオの総容量を超えないように。
前章(上記マガジン参照)までは企画を立てる際の考え方、
設定の詰め方について学んできました。
この章からは、いよいよゲームシナリオ、ストーリー
テキストの書き方について学んでいきたいと思います。
なお、プロットの組み立て方(いわゆるシナリオ作成法)については
具体的には解説しません(ごめんね!)
ノベルゲームを作る際に注意すべきプロットの立て方、
心構えについて説明します。
掻いつまんで言うと、
素材の数やディスク容量、プレイ時間などを考慮しよう
という内容になります。ご注意ください。
■プロットを立てる前に、リソース上限を確認
ノベルゲームのプロットを作る前に、最初に意識すべきなのが
『リソース=ゲームを構成する各種素材』の数に限りがある
ということです。
例えば、イベントCG。
これは小説でいう挿絵にあたるもので、
印象的なシーンやHなシーンなどで一枚絵を表示させて、
場面を盛り上げる効果があります。
300KB(小説一冊分くらい)で
15~20枚のCGが表示されます。
(企画の規模によって上限は上下します)
CGの枚数を意識せずにプロットを作ると
「他でCGを使ってしまい、見せ場のシーンなのにCGが足りない!」
という事態になります。
また、立ち絵=画面に表示するキャラクターグラフィックの
上限数を確認するのも大事です。
立ち絵の枚数=ゲーム内で表示する登場人物の人数です。
立ち絵がないと、グラフィックなしで喋ることになります。
ゲームは物理的なメディア容量や作業スケジュールの関係もあって、
立ち絵を無限に増やすことはできません。
基本的にはメインヒロインなどの主要メンバーだけに
立ち絵が割り振られます。
また、立ち絵の服装差分にも上限があります。
立ち絵の服装差分=ゲーム内でキャラに着させられる服装の枚数です。
服装差分に水着が含まれていない場合、キャラは水着を着られません。
もちろん、企画内容によって立ち絵の数や服装差分枚数は変わります。
3人分しか立ち絵がないゲームもあれば、
100人分の立ち絵が出るゲームもあります。
大事なのは企画内容とリソースの数がマッチしているかどうかです。
上記の例だと、メインヒロインが3人しか登場しない恋愛物語なら、
ベストマッチです。立ち絵の数が少ない代わりに
服装差分を豊富に用意すれば、キャラクターへの愛着も湧きます。
100人分の立ち絵があるゲームは、
某艦コレや戦国武将との恋愛ものなどを想像してもらえれば。
キャラがたくさん出るかわりに、服装差分は少なめです。
以上のように、
ノベルゲームでは限られたリソース内で物語を表現できるよう
上手くプロットを組み立てなくてはなりません。
小説畑からノベルゲームに来た人は、
リソースに対する意識が甘く、プロットが破綻することがあります。
プロットを建てる前に、企画の規模、仕様書を確認しましょう。
■立ち絵の総数=登場人物の総数
(©ALcot)
立ち絵についてより詳しくみていきましょう。
立ち絵とは、ゲーム内で表示するキャラクターグラフィックのことです。
全身、バストアップ、フェイスアップの「立ち絵」があり、
シーンや演出によって使い分けます。
一人称視点のノベルゲームは、
ユーザーが見ている画面=主人公の視点です。
主人公の目の前に立っているヒロイン=立ち絵と会話を繰り広げつつ、
物語を進めていきます。
(©ALcot)
ノベルゲームをプレイしている時間の大半は、
立ち絵との会話シーンで占められます。
メイン級のキャラには必ず立ち絵を用意しましょう。
当然、企画の規模によってメイン級の登場人物の人数に制限がかかり、
無限にキャラを増やすことはできません。
プロットを作る際は、
『物語に関われるメイン級の登場人物の数』に注意しましょう。
■ゲームでは、立ち絵がなくてもキャラは存在できる
ノベルゲームが特殊なのは、
「立ち絵がないキャラクターも物語に登場させられる」部分でしょう。
実写映画では、端役(モブキャラ)だとしても登場する以上は
画面に必ずその人物の姿が映ります。
ですが、ノベルゲームでは立ち絵を表示せず
台詞だけ喋らせれば、登場したことになります。
主人公も「立ち絵が表示されていないのに物語に登場している」状態です。
ノベルゲームは会話劇なので、
立ち絵が表示されないキャラは印象に残りません。
登場させる場合、立ち絵がなくても問題ない端役
(通行人などのモブ)にとどめてください。
注意すべきなのが「サブキャラ」の扱いです。
ストーリーにちょくちょく絡んでくる先生、主人公の親などは
立ち絵がないと演出面で困ることもあります。
重要なポジションを担う脇役は立ち絵が作られますが、
スケジュールや予算の都合で、端役に降格する場合もありますのでご注意。
■服装と背景の総数=舞台となる場所と時季の制限
ノベルゲームで表示する立ち絵には服装差分があり、
学園では学生服を、家では普段着を、眠る前は寝間着を……
といった具合にシーンごとに衣装チェンジが可能です。
この時点でお気づきになられたと思いますが、
服装差分の枚数によって、舞台となる場所と時間帯にも制限がかかります。
水着差分が存在しないのに、
ヒロインが水着を着るシーン(海水浴イベント)は作れないわけです。
服装差分は場所を制限するだけではありません。
使える衣装によって、舞台となる時季も限定されます。
衣装が夏服しかないなら、真冬のシーンはオミットするしかありません。
場所と時季の制限は背景素材にも言えることで、
使える背景の枚数=物語の舞台となる場所の限数です。
背景素材の総数が10枚なら、
世界を旅する冒険家のお話は書きにくいでしょう。
『三種類しか背景差分を作ってはいけない』という制限があった場合
昼、夕方、夜 の背景差分しか作れません。
「夜:明かりあり」「夜:明かりなし」の差分すら作れないのです!
美少女ゲームが学園ものになりがちなのは、
必要最低限の背景リソースで話を回せるという内部的な事情もあります。
主人公の家と学校の背景があれば、日常シーンは描けますからね。
立ち絵、服装、背景の総枚数は、プロットに強く影響します。
プロットを作る際は、使える素材リソースの上限を常に意識しましょう。
どうしても素材の数を増やしたいときはディレクターに相談してください。
■もうひとつの制限、シナリオ容量も確認しよう
素材リソースの他にも注意すべきなのが、シナリオ容量です。
ノベルゲームのシナリオ容量は、テキストのキロバイトで計算されており、
1KB=およそ512文字。原稿用紙で換算すると1枚強となります。
規模の章でお話しましたが、
フルプライス作品だと1.8MB前後のシナリオ容量となります。
一般的な文庫本が300Pだとして、データにすると約300KBです。
1.8MBのシナリオは、文庫分換算だと6冊分になります。
多く感じましたか? 少なく感じましたか?
感じ方は人それぞれですが、最低でも文庫本6冊程度で
ひとつのストーリーを完結させなくてはならないのです。
美少女ゲームは、共通ルートからヒロイン毎にルート分岐します。
1人のヒロインに焦点を当てた場合、
物語のスタートからエンディングまでの容量は、
共通:200KB + 個別ルート:400KB=600KB
となります。(あくまで一例です。企画内容により長さは異なります)
文庫本で換算するとおよそ2冊分です。
前後編の小説を書くと考えれば、
プロットも立てやすいのではないでしょうか?
シナリオ容量は、商品としての「価値」のひとつです。
少なくてもユーザーは不満を抱きますし、
多すぎてもクリアできずに不満が出ます。
また、シナリオ容量=収録するボイス量でもあるので、予算にも響きます。
決められた容量内で(しかも中身が面白く、締め切りを守り)
シナリオ(脚本)をあげるのがゲームライターの腕の見せ所です。
■シナリオ容量と添削と校正
決められた容量内にシナリオを納めるには、どうしたらいいでしょうか?
答えは単純で、書いたシナリオを削ればいいのです。
ライターのお仕事の三分の一は
書いた文章を削る作業=添削に当てられます。
全体の流れを見つつ不要な部分は削り、表現が不足してる部分を足します。
同時進行で誤字脱字もチェックしつつ、表記のブレ、用語の統一もします。
世の中には見直しをせず、
初稿で完璧なシナリオを上げるライターさんもいますが、
あなたがそういうタイプでない場合は、
添削時間も考慮にいれたうえで締め切りを設定しましょう。
個人的に測定したところでは
10KBのシナリオを添削するのに1時間かかります。
(文章チェックや全体を見ながらの修正する時間も含めた平均値)
シナリオ容量が1.8MBだとしたら、180時間かかります。
一日8時間作業だとしても、22日前後かかることになるのです。
執筆&添削スピードは、個人差があります。
ご自身の平均値を計測しておくとスケジュール管理がしやすくなります。
■まとめ
作中の登場人物の人数は、立ち絵と服装差分の総数に縛られる。
物語の舞台となる場所と時季は、背景素材の総数に縛られる。
プロットを立てる際は、シナリオの総容量を超えないようにしましょう。
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内勤ライターとして、美少女ゲーム業界で15年以上働いてきた経験と、そこで得たノウハウを文章にまとめています。ゲーム業界特有の謎規則や技術解説、仕事に取り組む際の心構えなどもご紹介。応援してくださると定期的に記事が更新されます(人間だもの)