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食の風景

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「食の風景」とは、食に纏わる美味しいお話から、料理のあれこれを、時に脱線しながら、思うままに腕を揮っては語っております。レシピは無いけれど、今日も美味しいご飯を一緒に食べませんか。
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#創作

食の風景「あの日のコロッケ」―掌編―

 コロッケと聞いて思い浮かべる光景ってどんな時間だろう。今ではコンビニへ行けば大体レジ横のショーケースに並んでいるけれど、思い出すのは、なぜか懐かしい方。例えば――あの日のコロッケ。簡素な紙の袋へ入ったあつあつを頬張った、夕日の中で過ごした時間。  仕事帰りに近所のスーパーへ立ち寄って、立派なサイズの新じゃが芋を見つけた。男爵だ。ごろごろごつごつ、見るからに美味しそうな男爵を眺めていたら、口の中が旨い想像でいっぱいになった。頭の中ではもう美味しいのが出来上がっている。 「よ

「一枚のポテトチップスが私の口に入る迄」

 私事で恐縮だが、ポテチと云えばカルビーのポテトチップスを贔屓にしている。今では滅多に食べなくなったけれど、あのパリッとした食感と絶妙な塩味、或いはコンソメ味が無性に食べたくなる時がある。因みに子ども時代に誕生したピザポテトは贅沢品だった。大人になってから存在を知った堅あげポテトブラックペッパーの虜になった。私はきょうだいが多く、お菓子は器へ分けて入れるのが当たり前であったから、スナックの袋菓子をばりっと開けて、袋へ直接手を入れ、一人で抱えて食べても良いと知ったのは、かなり大

食の風景「間にあった豆ごはん」

春の嵐吹き荒れて、先日漸く葉の綻び始めたぐみの芽が、早速世の洗礼を受けて居ります。季節の移り変わりを日ごと実感するこの頃です。 今日は買い物へ行きました。野菜売り場は季節商品が次々登場しては私たちを楽しませてくれますから、できるだけじっくり歩きます。そら豆、菜の花、法蓮草、春キャベツ、新じゃが芋、新玉ねぎ、それにブロッコリーもお買い得です。どれも初々しくて美味しそうです。この中から料理できる分だけを選ぶなんてと、すっかり迷ってしまいます。そんな中、和歌山県産うすい豆が、二袋

食の風景「里芋とほうれん草、人参の炊き合わせ」

三月の初めの頃のお話です。自家製里芋が残り少なになって参りました。寂しいけれど、美味しい内に味わいたくもあり、更に今年も植えるのか、だとしたら残しておかなければなりません。保管の箱の中を見詰めては、ううん唸っております。 さて今日の里芋は、優しい味の炊き合わせに致しましょう。法蓮草は湯掻いて、水洗いして、絞って、適当な大きさに切っておきます。人参と里芋を蒸し茹でにします。さっき法蓮草を茹でた湯がありますから、そこへぽいぽい入れてしまいます。食材が水面から少し顔出す位の水量で

食の風景「ホットケーキで朝食を」

朝一番の日差しが降り注ぐお台所の窓前は、わが家の一等地です。そこには古いテーブルが置いてあります。今朝はこのテーブルで朝ごはんを頂く事にします。 春めかしいテーブルクロスを広げたら、お気に入りのお皿たちを次々と並べます。桜色の平皿には果物を、今朝は苺とキウイとりんごを用意。夕べ作ったトマトスープをコンロで温めて、菜の花色のスープカップへ二人分。コーンの黄色、人参の橙色が食欲をそそります。それから飲み物。今日は紅茶にしようと決めていたのです。銘柄は主役に合わせてスモーキーなア

食の風景「春を告げる朝ごはん」

 ふわりと目が覚めた。昨日まではお布団から抜け出すのが億劫に思っていた部屋の中が、なんだかほんのり暖かい。三月も十日を数えて、急に春が近寄ってきたみたい。  気持ち良く目覚めた朝は、家事もいつもより捗る。日々、ついつい家事に追われてしまって、忙しない朝ごはんになりがちだったけれど、今朝は久し振りに、好きな器に、好きな物を盛り付けて頂こうかなと思う。  作り置きのスープには焼き餅を入れよう。それも二つ。このお餅は家族で作ったわが家のお餅。まん丸でふにふにで、焦げ茶の焼き色が食

食の風景「来し方の集い懐かしむ、ひな祭りちらし寿司」

今年のひな祭りにはちらし寿司を作ろう。それを重箱へ詰めよう。そう決めて買い出しをしました。 今年のちらし寿司の具材は、白米三合、前日の内に水へ浸けておいた干し椎茸、人参、蓮根、スナップエンドウは地元産でとてもいい色、それから錦糸卵。 スナップエンドウを湯がいて笊に上げ、同じお湯で蓮根、人参、刻んだ干し椎茸に火を入れます。椎茸の戻し水は米を炊く時に混ぜました。そして野菜を茹でた汁は干し椎茸の御蔭で良い出汁が出ましたから、後ですまし汁にします。 仕上げの彩り用に蓮根と人参の

「桃の節句」

食の風景でまた後日書きますが、取り敢えず今日は本番ですから。 お雛様と御供には手毬寿司風を。そして今年は重箱へちらし寿司を作りました。健やかな成長を願って(自分の?)ちらしたと云うより、盛り付けたようです。 どなた様も、今日は楽しいひな祭り                          いち 下に本編を貼り付けます。

食の風景「ご機嫌なお蕎麦」

「おーい」 「わーい」 麺はどれも好きですが、蕎麦は個人的な見解ですけれども王道中の王道、日常的にも衝動的にも幾らでも食べたくなります。お蕎麦が大層好きなもので、呼ばれればにこりと顔持ち上げて何処へでも付いて行きます。近頃は温かいお蕎麦ばかり食べていますが、ざる蕎麦も好きです。と書いた傍からざる蕎麦も食べましたから下へ写真を添付。 蕎麦の全体何が好きって先ずは蕎麦猪口片手に箸で一掴み、ずずっと一気に啜る小粋な処。締まった麺もさることながら、〆に蕎麦湯を飲む処。ああ、堪ら

食の風景「ほうれん草の白和えはうら若い春のお味」

茹で上がりの法蓮草。もう美味しい予感がしますね。葉は目の覚める様な深い緑色湛えた見事なグラデーション、根元は鮮やかな紅色をしています。全く奇麗なお色です。一回目は外の植え物に上げるのでバケツの中で、土を落とす様に隅々まで丁寧に洗います。二回目はシンクで、葉から根元まで水道水をかけて仕上げすすぎのイメージで洗います。出来ればこの時のお水もボールなどへ取っておいて、後で水遣りに使います。根の底の汚れが酷い場合、そこだけ薄く切り落として、後は全て頂きます。今日の法蓮草は鮮度が良

「正方形の織り成す和菓子模様から国境を越える」

ビニールの包装を外した途端に木の香しさが鼻腔にすうと広がって、途端に林の中へ立たされていた。気分が大変に良い。逸る気持ちを抑えながら、手元の木箱の蓋へ手を掛けた― ああ、何と云う愛らしさか。これは、和菓子屋さんでとんと巡り合った節分の和菓子の升箱である。この正方形の慎ましい箱の中へ紡がれた和菓子の美しさに暫し見惚れる。形、並び、配色。背景を思い浮かべない訳にいかないではないか。凝と眺める内、心模様は水流のように滑らかに運ばれて、そしていつしか、国境を越えていた。 日頃、自

「食の風景・お台所から立つ湯気の匂い」ー番外編ー

 家の中に於ける、あなたの生活の中心地は何処でしょうか。きっと人により、様々な答えが返ってくると思いますが、中でも自分の部屋とお答えになられる方は、多いのではないでしょうか。わたしも屹度「自室」と答えると思います。ですが、そう云う家の中にあって、台所・キッチンと云う場所は、特別な空間の様な気が致します。  近頃の家づくりでは、キッチンとダイニングを一つの場所として設計された家も少なくありませんから、全員が同じ想像をする事は難しいかも知れませんけれど、人が生きる上で欠かすこと

「食の風景・餅入りぜんざい」

※これは昨年末に書いたものです。 先日ご紹介させて頂きました北海道の新物小豆で、ぜんざいを作りました。今年は年末の餅つきが、諸事情でぎりぎりになるのです。 「お餅作ったら善哉作ろう」と待ち設けておりましたが、待ち切れない食いしん坊が先ず市販のお餅を買いまして、そうなるともう、作りますよね。 ぜんざいは「食べよう!」と思い立ってから作り始めてもあっという間に出来上がります。あんこのように目が離せない訳でもありませんし、拘れば目が離せない事もあるでしょうが、自分が食べる物で

「食の風景・焼き餃子食べようっと」

去る秋のお話。 今夜は餃子です。餃子の気分の時は、一度にたくさん作ります。黙々とバットへ焼く前の餃子を並べていると、「本日分、完売しました」と頭の中に浮かんでくるから不思議です。一体どんなシチュエーションなのでしょう。 生のうちから美味しそうですね。何でしょう、見た目でしょうか。自分はワンタンスープも好きです。見誤って皮だけ残った時は、スープへ「えい!」と皮だけ入れて食べたりもします。 自分で餃子を作るのは久々でした。と云いますのも、妹が「餃子を作れる人になる!」と声高