あの世で待ち合わせ
ピンクと水色と紫の巨大なモクモク雲がうずまく、マーブル模様の空の下。
地面は舗装されておらず、どこまでも黄土色の土が広がっている。
そこにある、少し傾いた「あの世 一番地」という看板。
その看板に、学生服の男の子が腰掛けている。
そこに砂埃を舞い上げながら、自転車に乗ったガイコツ男が通りかかる。
ガイコツ男は彼に気付き、声をかける。
「見ない顔だな。新入りか?」
「あ、はい」
ジロジロと見る。
「はあ…お前何歳だよ? 可哀想にね…」
ため息をつき、再び自転車に乗ろうとする。
「どこに行くんですか?」
「仕事だけど」
「あの世でも仕事してるの?」
「当然だろ?」
「えー嫌だ」
「あのな、労働っていうのはすごく大事なものなんだ。お前は単なる金稼ぎだと思っているだろうが違う。働いてる間は無駄なことを考えなくていいだろう? そういうことだ」
「はあ」
「いいか。人間社会は大昔に比べて便利になり過ぎて、何もしてない時間が格段に増えちまった。そうなったら、どうなると思う? 俺みたいに繊細な人間は考え過ぎちゃって良くない。退屈な時間は悪だ。いつでも退屈が人を殺すんだよ」
「ふうん」
彼は興味無さげに返事をした。
「お前こそここで何してるんだ」
「待ち合わせしてる」
「待ち合わせ?」
「そう。約束したから、もうじき来る筈なんだ」
「誰と約束したんだ?」
「特別な人」
ひゅう…と風が吹いて砂埃が舞った。
ガイコツ男はほう、と声を出した。
「でも、それはそれで悲しいね」
「何で?」
「だって、ここに来るんでしょ?」
「うん、あの世で待ち合わせ」
「へえー。どんなヤツ? 仲いい友達? 好きな人?」
「ないしょ。僕のたった一人の特別な…」
突然、ジリリリリとアラームが鳴る。
ガイコツ男は飛び上がる。
「やばい、遅刻する! ほらお前と話してたから!」
「そっちが話しかけて来たんでしょ」
「早く特別な人に会えるといいな。いや、すぐ来ても複雑か…」
ガイコツ男はブツブツ言いながら自転車に飛び乗って、あっという間に見えなくなった。
学生服の男の子は手を振って見送る。
「すぐ来るさ」
しばしのあと、彼はそう呟いた。
しゃがんで地面に手を当てる。
すると地面は透き通り、彼がいた学校の屋上が見えた。
柵を、一人の学生が乗り越えようとしている。
地面から手を離すとそれは見えなくなった。
手で首をさする。
首筋には真っ赤な縄の跡がついていた。
「僕を死に追いやった、たった一人の特別な…」
彼はとても嬉しそうに笑った
あの世でふたり、待ち合わせ。
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