【短編のお話】黒くんとまだ名前も知らない色
久しぶりに絵本のようなお話を書きました。
こどもたちへ。
そして、こどもでも大人でもないあなたへ。
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あるところに真っ黒な 黒くん がいました
黒くんはとても複雑な色でした
色々な色が混ざって黒くんは生まれたのでした
黒くんはいつも悩んでいました
まっすぐ夢を追いかける赤くんや
自分に自信を持っている青くんに憧れました
二人はとてもシンプルな色でした
でも黒くんの中にはいつも様々な色が渦巻いて
二人のようにはなれませんでした
黒くんの体には赤も青もあったし
ときどき それがチラリと見えたりしたけれど
怖がりな緑
頭のいい茶色
おしゃべりな黄色
みんなが一斉に顔を出し
すぐにそれを飲み込んでいきました
色たちは仲良く学校に通っていました
ピンクちゃんは花を咲かせることが得意なので、沢山の友達が庭に遊びにきました
紫さんは小鳥たちと相談をして広場でコンサートを開きました
オレンジくんはハサミを空中で操ってみんなの洋服を作りました
みんなそれぞれ得意なことがあったけど
黒くんには得意なことがありませんでした
でも黒くんは明るくいようと心がけました
ばかにされても笑ったり
みんなと意見を合わせたり
からかわれても平気なふりをしました
そのたび体の中の色が音を立てて騒ぎましたが
気付かないふりをしました
そんなある日、真っ白な 白くんが転校してきました
「みた事ない色だ!」
学校に白い子はいなかったし
黒くんの体の中にない色だったので
黒くんはとてもびっくりしました
白くんはいつも自由でした
絵も描けないのに突然カンバスを持って公園に出かけたり
水着も持たず 近くの川に行って飛び込んだりしていました
少し変わり者の白くんは、だんだん人気者になりました
黒くんは遠くからそれを眺めていました
数日後
いつもと同じ帰り道。
学校でやりたくない係を押し付けられてしまった黒くんは、
トボトボと歩いていました
本当は黒くんには他にやりたい係りがあったけど
言い出すことができませんでした
一歩が踏み出せなくていつも出遅れてばかり。
涙が滲んで足元が見えなくなりました
ごおおおお…
体の中から音がしました
様々な色がうごめき混ざり合っていく音でした
道の真ん中で黒くんはすっかり動けなくなってしまいました
「黒くん」
ハッとして顔を上げました
そこには白くんがいました
黒くんはいつものように平気なふりしたけれど
口を開いたら混ざり合った沢山の色がこぼれ落ちそうで、
キュッと結んだ口の端を上げるのが精一杯でした
白くんはそんな黒くんをしばらくじっと見ていました
そして突然、黒くんに向かって手をかざしたのです
白くんの手はあっという間に眩しいライトになり黒くんを照らしました
黒くんの体は透けて光って、中が丸見えになってしまいました
体の中には大きな空洞があり、無数の色がひしめき合っているのが見えます
黒くんはびっくりして、透けた自分の体の中を覗きました
白くんは言いました
「きみは。
きみはどこにいるの?」
黒くんは何のことだかさっぱり分かりませんでした
間違いなく自分はここにいるのです。
白くんは大きな空洞を見回して、黒い塊を指さしました
黒くんは目を凝らしました
よく見るとそこには、小さく丸まった毛玉のようなものがうずくまっていました
黒くんは急にそれが恐ろしくなり、手を伸ばして捨てようとしました
「ダメだよ。
これはきみが、一番大事にしないといけないものなんだから」
白くんは黒くんを見て言いました
黒くんは毛玉のようなものを見つめました
「かわいそうに。こんなに小さくなっちゃって。
きみが大事にしなかったら誰が大事にするの」
黒くんはそれが全く可哀想には思えなかったし、
大事なものだと意識したことがありませんでした
しかし真剣な白くんを見て、頭の中で呟いてみました
「ぼくが大事にしなかったら誰が大事にするの」
その言葉を何回も、何回も繰り返しました
すると自分の中でうごめいていた色たちが少しだけ
薄くなっていくのが分かりました
黒くんは毛玉のようなものを体の真ん中に置きました
毛玉は「見つけてくれてありがとう」とお礼を言いましたが
黒くんには聞こえてないようでした
白くんの手が元に戻ると、黒くんの体も黒く戻りました。
「ごめんね、勝手に覗いて」
白くんは謝りました
黒くんは自由な白くんが何だかとても面白くなって
笑ってしまいました
困った白くんの顔を見るのが初めてでした
白くんは言いました
「ぼくもきみと同じだなって思ったから」
白くんの体が光りました
白い色の中には沢山の様々な色が揺れていました
黒くんが驚いて白くんを見ると、
白くんはニコリと笑いました。
暗くなった帰り道。
黒くんと白くんは手を繋いで帰りました
繋いだ手は透けて光って、様々な色のグラデーションになりました
そこには憧れの赤も青もあったし、
怖がりな緑も、頭のいい茶色も、おしゃべりな黄色も。
そして見たことがない、名前も知らない色がありました。
二人はその色を見つめました。
すると二人の瞳が、名前も知らない色に染まりました。
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