94.西口さんの隣にいたら迷惑ですか?
失恋したら髪を切るって言うけど、その相手が髪を切るなんてことはありますか?
はい、203号室の南雲あかりです…
この日、美容院『SUNRISE』で片付けをしていたら、西口さんが言ったんです。
「久し振りに、カットしてあげるよ」
そうだ。わたしはもともと、この店のお客さんだったんだ…
西口さんは「いつも、ありがとね」とわたしに言ってくれたけど、
ホントは、こっちがありがとうなんだよ。
カットをしながら、翔君のこと、そして別れた奥さんのことを話してくれました。
お店を持つ話から、夫婦間に亀裂が入ったと。
わたしの脳裏には鮮明に、翔君とお母さんが会った、あの雨の日の出来事が。
奥さん…翔君のこと…
いや、なんでも…
西口さんは、ずっと一人で生きていくつもりなんですか?
え、一人じゃない?
『たまひらハイツ』のみんなが家族…
いや、そうじゃなくて…
あの…
わたしが、わたしが西口さんの隣にいたら…
迷惑ですか?
えっ…!隣にいてくれていい!?
「だって僕が『たまひらハイツ』を紹介したんだから」
あっ…
隣の部屋ってことね…
いや、そういうことじゃねぇー!
何かを悟るかのように、マネキンの頭が棚から落ちました。
西口さんの眼中にわたしは入ってないんだ…
あかり大失恋。
占いなんて信じない。
そのくせ未来が知りたくて、占いを漁ってしまう。
結局誰よりも運命を信じている。
自分にとって都合の悪い運命なら、決まっていたって逆らいたい。
そうやって、のたうち回って今がある。
ちゃんとやり直そう。こんなんじゃダメ!
ちゃんと仕事に就いて、『たまひらハイツ』を出よう……
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