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長い間、読まずに積ん読だった本

今から30年近く前になる(自分で、そんなに時間が経ったことに驚きを隠せない)。NAVIというクルマ雑誌があった。まだ免許を取る前ではあったが、「免許を取ったらどんなクルマに乗ろうか」「クルマのある生活ってどんなにすばらしいのだろうか」ということを想像しながら、この雑誌をむさぼるように読んでいた。今、考えると思いっきり背伸びも良いところである。でも、この雑誌に関しては、「クルマ」ということを「文化」と捉え、歯に衣着せぬ物言いも他の自動車雑誌と違っていたことから、毎月毎月購入していた。
多分、自分の好みというものを形成していった上で、ものすごく影響を受けているのは間違いない。

この雑誌の中には、自動車に関係ないエッセイがいくつかあった。執筆陣の中にはえのきどいちろう氏やナベゾ画伯、みやすのんき氏、そして神足裕司氏がいた。
えのきどいちろう氏は、まだ東京ドームを本拠地にしていた頃の日ハムの事を書いている印象がとても強い。ナベゾ画伯の独特のイラストに「なんでこれが自動車雑誌に?」という感じもあった。でもそれが、また合っていた。
一番NAVIが売れていた頃だろう。

そして、神足裕司氏。
こう言っては何だが、NAVIの中での神足氏は「理想の大人像」みたいな事を勝手に思っていた。
たしか、イギリス特集の時だったか。
ローバー75やミニ、レンジローバーといったローバーがまだまだ頑張っていた時代。
そして、クルマの記事とはまた別にBarbourのオイルコートの特集があった。イギリスでは長年実直に使い続けられている王室御用達のコート。そして、この記事に神足氏も出てきていた(はず)。
何より印象的だったのは、この特集の中で神足氏がジョンロブにオーダーメイドの靴を注文する一部始終があった。
もともと、ミニが大好きな所からイギリス好きになってきていたところに、この特集記事は、まだ若かりし心をズドンと撃ち抜いた。衝撃的にカッコ良いと思った。
自分の中では、「憧れの人」になっていた。

毎号のエッセイの中で、広島のことが多く話題に上っていたと思う。原爆の話も出てきた。平和の話も出てきた。水球の話題や体育会系の話題もまた、とても印象に残っている。絶対に欠かさず読むコーナーだった。

その後、NAVIの編集長がかわり、雑誌の特徴がだんだんと変わっていき、エッセイを書いていた執筆陣がいなくなり、正直どんどん面白くなくなっていった。しかし、週刊アスキーなどの連載で神足氏をどこかで追い続けていた。
「この人が書いているのだから、その雑誌は読まなければ。」
そんな感じがあったと思う。

そんな神足氏が、飛行機の中で倒れ、意識不明の重体になったというニュースが流れたのが2011年の秋。
ただの一読者としては、心配するだけしかない。奥手な人間としては、ファンレターなど出したこともないし、メディア上だけの姿しか知らない、ファンといっても浅い者かもしれないけれど、それでも病状については不安で仕方がなかった。
ところが、以前ほどではないけれど、エッセイが色々な雑誌などで載るようになって、少しほっとした。ほっとしたと同時に、追いかけるのが怖くなった。
「前の神足氏とは変わってしまっていないだろうか?」
「闘病で辛い思いをしているのに、勝手な一ファンが応援して迷惑にならないだろうか?」
(基本的に自己肯定感が低いので、まったく神足氏に影響はないところで生きてはいるけれど、変な思考になってしまう癖がある)

そうこうしていると、この本が出版された。

https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%80%E5%BA%A6%E3%80%81%E6%AD%BB%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%BF%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%8C-%E7%A5%9E%E8%B6%B3-%E8%A3%95%E5%8F%B8/dp/4087860299

もう、うれしくて出版されてすぐに購入した。
でも、やっぱり中を読むのに勇気がいった。そして、その勇気はしばらく湧いてこなかった。そうこうしているうちに、大量の積ん読本の中に埋もれてしまっていた。
その本が、ここ数週間続けている机周りの整理で出てきた。
もう、読むしかない。

読んでいて、涙がたくさん出てきた。
色々な意味で、優しさのあふれている本だった。
読むことが出来て、本当に良かった。

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