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そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第一章 旅立ち編 7】

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第1話はこちら↓



滅ぼせ…


何も残す必要はない


その力は無限の破壊と混沌をもたらす


お前にはそれだけの才があるのだ

全てを焼き尽くし、世界を絶望の淵に叩き落とせ


さぁ…今こそ目覚めの時だ、人類を滅ぼせ…!










ガシャァァァアッ!!
【魔王ゼジルは目覚ましを叩き壊した!】

ー魔王城 ゼジルの部屋ー

またか…大方ビビッドの奴だな。耳障りだからやめて欲しいぞ全く


コンコン ガチャンッ!
【部屋の扉が勢いよく開かれた!】


「ゼジル様!!ああァァァァァ!?また壊したのですか?」


ビビッドよ、我には我のペースがあるのだと何度言わせたら分かる


「ペースがあるって毎日毎日結界を張っては寝るの繰り返しではないですか!いい加減にして下さいよ!!」


「中途採用した同胞も口々に言っていますよ。違う……俺のやりたかった仕事はこういうのじゃないとか、こんなことなら魔界で就職した方がマシだったとか、なまけてばかりで同族の士気を下げてもらっては困ります!」


こっちだって企業感覚で我の城内に入ってこられても困るぞ


「そもそも!ゼジル様は魔王としての自覚がいささか足りないように感じます!我ら魔族の魔族による魔族のための行動理念を忘れたのですか?」


バカにするな。覚えている

「本当ですか~?試しますよ?」

「人間!」

滅ぼす

「魔族!」

生きる

「世界を!」

手中に収めるため、今日も一日自分達が出来ることを探し貢献せよ

ご安全に、ゼロ災でいきましょう。ヨシ

「そうです。良かった~覚えててくれて」

こういう事をするから皆ここを職場みたいに思うのではないか?


「あ、それとゼジル様~、ライセンスの更新さぼっていますよね?」

ライセンス?

あぁ…魔王であり続けるためのあれか…

忘れていた。すまない


「忘れていたでは済みませんよ!それが無かったらあなたは魔王どころか魔族の面汚しにまで位が転がり落ちてしまうのですから!」

そんなにか!?


転がり落ちるなんて生やさしいものではないぞそれ…ほぼ垂直落下ではないか

気を付けよう


……というか


何故魔王をやるのに免許が必要なのだ?


「何をまた寝ぼけた事を……いいですか?魔族を統べるものがなんの資格もなしにあれこれ指示を出しても説得力なんか無いでしょう?」

いや、だからと言ってこんなものでお前は今日から魔王だと言われても自覚なんか生まれんぞ

「魔界で魔王検定1級の試験は受けたのでしょう?」

受けた

「受かったのでしょう?」

ああ、受かった

「だったらいいではないですか。あなたはまぎれもなく魔王です」

そうか?……そうだな…









いや魔王検定1級ってなんだ?


おかしくないか?

受けた我も我だが

そんな試験的な物で魔王が決まってしまっていいのか?

もっとこう…無尽蔵の魔力を持っていたり、圧倒的な特殊能力を生まれながらに保有しているような者が務めるべきだと思うのだが

ビビッドの理屈で言うとライセンスさえ取得すれば誰でも出来るみたいに聞こえるぞ

「そんなわけ無いでしょう。我々の魔王はゼジル様以外ありえません」

そうか、ならいいのだが…

「まぁ…確かに免許さえ取れば猿でもなれる事は否めないですけど」

猿でも魔王に!?

「仮の話ですよ。仮の」

仮の話でも相当やる気なくなったぞ!


「やる気って…ゼジル様分かっていますか?我々が魔界から人間界へと侵攻を開始して早114年程が経ちます」

「最初こそ愚かな人間どもの悲鳴や絶叫が我が城の内部にまで心地よく響いていましたが、それが最近ではすっかり馴染んだのか魔城をバックに記念撮影とかし始める人間が出てきているんです」

「最早やる気のあるなしなんて言ってる場合では無いんですよ」

あぁ、確かにあったな…

「…?何がです?」

いやこの前な、城の周りを散歩していた時に頼まれたのだ

写真を撮って下さい。と人間に

「はぁぁぁ!?魔王に対しなんたる無礼を!それでゼジル様はなんと!?」

ん、特に断る理由もなかったしな

おけまる◯産よいちょまると言って撮ってやった

【ビビッドは120のダメージを受けた!】


「魔族の王が人間風情の言いなりに…!!こいつは深刻ですよ!!あんた何やってんですか!!しかもおけ…なんですって?」

おけまる◯産よいちょまるだ

「威圧感も恐怖心もおまけにユーモアセンスもあったもんじゃない!!何処で覚えてくるんですかそんな砕けまくった言葉遣い!」

ユ…ユーモアセンスがないは心外だ。違うしこれは人間界の挨拶みたいなものと聞いたから…

そもそもウケを取るところではなかったしな、写真を撮るところであって

「写真を撮るところでもないです!」

「信じられないまったく!ゼジル様がそんなだから人間どもが図に乗ってくるんですよ!他にもあなた門前に侵入者対策と称し魔物を配置していたでしょう?何体か人間の子供に餌付けされて持っていかれましたからねあれ」


も、持って行かれた?


捨て犬みたいだな…


「もう否定しませんよ…あいつらときたら人間のガキがエサ持って近付くとここぞとばかりに尻尾振りまくって!!くっそ…!!」


お前も大変だな


「おかげさまで!!」


「はぁ~…こんな調子では世界征服など夢のまた夢、しっかりしてくださいよ。人間界は比較的征服しやすくて有名なんですから」


そんなこと言われてもな


大体にして世界征服とか絶対にしなくては駄目なのか?


「はいはいはいはい大丈夫ですよ~聞かなかった事にしますから、二度と言わないで下さいね。我々が人間界に存在する意義がなくなるので」


いや、正直我は魔族による世界の支配などあまり興味ないのだ


【ビビッドは240のダメージを受けた!】


「ゼジル様!?何イカれ腐ったこと言ってるんですか!?勘弁してくださいよ!!ではこの百余年は一体何だったのです!?興味ないの一言で片付けないでください!!」


しかしビビッドよ、魔王という身分にも関わらず我の性格の致命的さはお前も知るところだろう


「えぇ!!確かに引くほど臆病なのは存じ上げていますがしかしですね…!」


引くほどとかいうな


だが確かにそうだ、我は臆病者だ


いくら人間界が征服しやすいと言えど我はその人間すら怖い


写真を頼まれた時だって表面上は平静を装っていたものの内心チビりそうだったし

全然おけまるなどではなかったし


「気をしっかり持ってください!人間なんて脆弱ぜいじゃくな生き物なんですからワァーって行ってガオーって言ってヒェーで終了です!あなたは難しく考えすぎなんですよ!!」


お前は簡単に考えすぎだろう


「もう我慢なりません!!今日という今日はゼジル様に失礼を覚悟で申しあげ───」

ドタドタ…ガチャン!!
【ゼジルの部屋のドアが勢いよく開いた!】


「ゼジル様!ゼジル様はいらっしゃいますか!?」

「どうした?」


「あ、ビビッド様がいらっしゃいましたか。聞いてください!」


いや我も居るが


「まずは貴様所属と自分の担当している部署を名乗れ」


「あ、すいません…自分は結界部門第4層部隊のガリーと申します」


「そうだ、それと上司の部屋に入る際はノックぐらいしろ。常識だろう」


「も、申し訳ありません…失念しておりました」


もう会社とどう違うのだここは



「それで、話とはなんだ?」

「あ、はい。担当している4層目の結界の効力がほぼ切れつつありますが、どう対応いたしましょう?」

そうか、では我が張り直しを…


「先日3層目の結界に魔力を補充したばかりだ、そこから必要な分だけ魔力を分け与えて貰え。無駄な労力をいたずらに消費する必要は無い。間違っても自分達の力だけでどうにかしようと思うなよ」


「はい、おおせの通りにいたします」


「ああ、分かったら即刻持ち場へ戻れ」


「はい、失礼致しました」

………


「さて、どうしましたゼジル様?」

いや…なんでもない


妙にテキパキしていると思ってな

「何を言っているのです。これぐらいの判断は至極当然ですよ」


そうか……


「では先程の続きです!前々から思っていましたけどねゼジルさ───」

コンコン…ガチャン
「ビビッド様はおられますか?ゼジル様でも構いませんが…」


「どうした?」


構いませんがとはなんだ


一応大丈夫ですみたいに言うな


「私は魔物管理部門牙獣タイプ所属のビサロと申します。魔界より新しい魔物の入荷を確認しました」


「名はグフィモス、全身は緑の厚い体毛で覆われていて二本の湾曲わんきょくした角が特徴的な雷属性の魔物です。いかがいたしますか?」

グフィモス


そうだな…門前の魔物が人間に飼われたせいで少々手薄だし、そちらに…

「牙獣タイプに限った話ではないが、魔物には人間を襲い補食し自らの魔力と戦闘能力を高める習性がある。その場に待機させること程意味の無いことは無い。最近ここから南方面に人間どもの新しい集落ができた話は知っているか?そこを手始めに襲わせろ」


「はい」


「人間は出来れば生け捕りにするのが望ましいが抵抗する場合は始末しても構わん。そのグフィモスという魔物は"セイラン”という魔界にしか咲かない花の香りを好む、第一保管庫にそれをすりつぶし粉末状にしたものがあるからうまく使って調教しろ。いいな?」


御意ぎょいにいたします。失礼します」

パタン…!

「ふぅ…さてと、いいですかゼジル様!?魔王というのはですね!!」


もうお前が魔王をやればいいではないか



「何ですって?」


我自信なくした


もういい、魔王やめる

魔王はビビッドがやればいい

「いきなり何をおっしゃるのです!やめるなんて事がまかり通る訳ないでしょう!?子供じみた事を言わないで下さい!」

いややめる、薄々感じていたしな

我には魔王は荷が重い

魔王役降りるよ。我は木の役でいい

「役って何ですか!?演劇じゃないんですよ!」


「──そうですか…つまり私の指示の的確さと要領の良さに自信を喪失してしまったと、すみません仕事出来て」


八つ裂きにしたいが否定は出来ない

しかもお前さりげなく我の出そうとした案全面否定していたろ。何なのだ


そろそろ泣くぞ

「ゼジル様のお気に障ったのなら謝罪いたします。失礼しました」


「しかし魔王をやめるなどと言わないで下さい。あなたを慕い必要としている者だっているのですから」


おらんそんな奴、写真を頼む人間ぐらいだろう


我の事はもう放っておけ

魔王は辞職してカメラマンにでもなるよ

「何恐ろしい事言ってんですか!しっかりしてください!!」

コンコン…




「ほら誰か来ましたよ。今度はゼジル様に応対させますから自信を取り戻して下さい」

しかし我は…


「大丈夫ですから、ね?」


う、うむ…分かった、やってみる


ガチャン

「ビビッド様は居ますか~?」

おーいお客さんだぞ。ビビッド様

「おいてめぇェェェ!!!ここは魔王の部屋だろうが!!俺探す前にゼジル様探せや!!」

「あぁ…すみません。ゼジル様居たのですか?」

【ゼジルは350のダメージを受けた!】



「違いますって、あいつ最近入った新入りなもんでフランクというかまだ口の利き方が分かっていないんですよ。きっとあれが人間界で言うところの"ぜっとせだい”って奴なんです。仕方ありません」

居たのかと言われた


当然居るだろう我の部屋だもん

「気…気を取り直していきましょうか!恐らく次は大丈夫です!」

コンコン…

「ゼジル様来ましたよ応対してください。挽回のチャンスです」

もういい…


これ以上傷付いたら我はショックで寝込んでしまう


「じゃあいつもと変わらないでしょう!いいから行ってください!」


何でそう厳しいのだ、もっと優しく送り出してくれ


そうじゃなきゃいかない

「めんどくさっ!!ゼジル様めんどくさっ!!」

ガチャン
「あ…えと…ズッズィーラ様はいますでしょうか?」

【ゼジルは420のダメージを受けた!】



「ゼ、ゼジル様、違いますよ…今のは何て言うか、とてつもなくネイティブに呼んでしまっただけで決して間違えたわけでは…というより、その…ほら!きっとあれです。ぜっとせだいです!」


ぜっとせだいばっかりではないか、この会社

「会社じゃありませんよ!」


ズッズィーラて…何だその名前、発音気持ちわるっ


ゼジルと名乗り続けてもう10万と6千年程経つというのに、名前を間違われた

「い、良いではありませんか、一度くらい…」

いや、駄目だ。もう立ち直れん

しばらく寝るとする。おやすみビビッド


「ちょっと!ゼジル様!?ゼジル様!!おい、ゼジル!!」


ZZZ…



「ほ、本当に寝てしまった…どれだけ打たれ弱いメンタルをしているんだ」


ZZZ…ZZZ…


「…はぁ、頭が痛い…」


「本来ならば人間界などすでに全体の7割程は侵略が進んでいるはずなのに…」


ZZZ…いやぁ…無理…無理だろう、それは…

「…?ゼジル様?起きているのですか?」

ZZZ…


「寝言か…全く魔王ともあろうお方が、仕様がない」


ZZZ…そんなぁ…もう一軒行ってみようみたいな感覚で、征服なんて出来んよ…


「一体どんな夢を見ているんだ…」



「このままではいけない」


「こんな体たらくでは、万が一人間が攻めこんで来るような事があっても対処など出来ない」


「まぁ…人間はゼジル様以上に臆病という話だから、杞憂だと思うが」


…ZZZ…


「しかし、唯一懸念すべきは勇者の存在だ。いつの世も我々の野望を阻むのはこいつだと言われている」

「古い文献にも『人間だけどあれはヤバイ』と書かれていたし、最悪ゼジル様と同等の力を所有している可能性も考慮しなくてはならない」

「いよいよ寝ている事態ではありませんよ。ゼジル様」


……おけまる……ZZZ


「はぁ……先は長そうだ…」


~To be continued~

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