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古式ゆかしき販売形態

東照宮の中を、順路に従って、先に進んだ。最後に、鳴龍、というアトラクションがあった。凝ったジェットコースターみたいな名前だけど、乗り物ではなくて、室内体験型のアトラクションだ。一度に室内に入られる人数は20人だった。もちろん、行列ができていた。
室内に入ると、説明役のお兄さんがいた。まずは、施設の説明から始まった。
この鳴龍の館には、十二支それぞれに対応した仏像がすべて揃っておりまして、それだけの仏像がコンプリートされているのは、大変珍しいのでございます。皆様、アトラクションが終了しましたら、ぜひ、ご自分の干支の仏さまにお祈りしてください。あちらの売店で、干支にちなんだ梵字が書かれたプレートを販売しております。すべてのプレート、皆様のご健康を祈願済みでございます。この機会に、ぜひ、お買い求めください。金のプレートは、ご利益永久保証付きで、大変お買い得になっております。
次に、アトラクションがあった。
天井に、竜の絵が描いていないところで拍子木を打つと、普通です。カン。
龍の絵の下で拍子木を打つと、あら不思議、響きます。カーーーン。
おわり。
そして、締めの挨拶。
鳴龍にちなんで、皆様にご案内したいことがございます。わたくしが手にしておりますこちらの鈴、普通の鈴のように、穴が開いていないのですが、振ると音がいたします。チリンチリーン。この不思議な鈴、鳴龍の鈴と申しまして、振ると願い事がかなうといわれております。大変貴重なものでして、あちらの売店でしか、取り扱っておりません。皆様、この機会に、ぜひお買い求めください。本日は、鳴龍の館にご来館いただき、誠にありがとうございました。またのご来館を心よりお待ちいたしております。
 
言葉のチョイスに多少のズレがあるかもしれないけれど、意味は間違ってない、と思う。説明員のお兄さんは、精一杯声を張り上げて、がんばっていた。1回20分の演目を、一日に何回転するのか知らないけれど、体が持つのか心配になるくらいの、大変な熱演だった。歩合制なのだろうか。
部屋に閉じ込めて、何も買わずに部屋から出にくい雰囲気にしておいて、商品の広告をねじ込む、という商法は、今でもよく見るけれど、日光東照宮ができたくらいの昔から使われている方法なのだろうか。とにかく、その効果は高かった。アトラクションが終わると、売店には、商品を買い求める人だかりができていた。
売店の人だかりの後ろを通り過ぎるとき、買い物中のオバサンが、どっちがどっちだっけ?と言ったのが聞こえた。売店のおじさんが答えた。
「健康になるのが梵字、願い事がかなうのが鈴。長生きが梵字、欲望が鈴!」
これは、言葉のチョイスに一切のズレは生じていない。売店のオジサンは、実際に、この言葉のまま、説明していた。わかりやすくて笑ってしまった。こんな説明じゃ、ご利益もありがたみも何もないな、と思うのは私だけのようで、さっきのオバサンは、どっちにしようか、まだ迷っていた。
持っているだけで長生きができる梵字と、振るだけで願いが叶う鈴、というのは、簡単に痩せて健康になれるというダイエットの本と、この通りにすれば人生を豊かで成功に満ちたものにするという自己啓発の本に、似ている。

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