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相棒

自分のバイクのことを、相棒と呼ぶのは、なんだかしっくりこない。そう言っている人を見ると、恥ずかしくなる。バイクは、しょせん道具でしょ、と割り切っているわけではない。ボルティとは、六年間、一緒にツーリングして、その間、大きな故障もしないで、無事に走ってくれて、感謝している。
相棒、というと、お互い支えあって、というもののはずなのに、バイクのことを、そう呼ぶ人を見ると、バイクに対して、上から目線みたいに見える。俺に乗ってもらって、バイクも喜んでいる、という、持ち主の勝手な思い込み。ホントにそうかな。相棒、と呼びながら、あくまで、持ち主が主で、バイクは従。それが、嫌だ。私は、バイクと、対等な関係でいたい。
今回の、沖縄ツーリングは、レンタルバイクなので、ボルティで行けなかった。それは、少し残念だった。
 
ロングツーリングの前は、毎回、大歳神社でバイク用のお守りを買い替える。それは、ここ数年の恒例行事だ。今回もいつもと同じように、ボルティに乗って、大歳神社に向かった。
走り出して間もなく、ウインカーが壊れた。点灯したままで、点滅しなくなった。たぶんリレーが壊れた。二十年以上前のバイクなので、小さな故障があるのは当たり前だ。でも、ロングツーリングの最中でなくてよかった。今年のツーリングはボルティじゃないので、ツーリングに間に合わせるために急いで修理する必要もなかった。壊れるなら、このタイミングが、一番、都合がよかった。こういうときは、ボルティがこっちの事情を察してくれているような気がする。
でも、ボルティが機嫌を悪くした、ような気もした。実は、沖縄でレンタルするレブルには、以前から興味があって、一度乗ってみたい、と思っていた。それが、ボルティに対して、少し後ろめたかった。
家に帰って、とりあえず、ウインカーリレーを見てみることにした。壊れたリレーなんて、見ても修理できるわけじゃないけど、故障したのに何もしないのはすっきりしなかった。何もできなくても、壊れた部品を手に取って、壊れたのが間違いなくリレーだ、というのを確認したかった。リアシートを外すために、六角レンチを手にした。シートレールの下にある、ボルトを緩めた。2cmくらいの長さの、短い六角穴付きボルトが出てきた。
ああ、そういうことか。
沖縄でレンタルするレブルは、見た目が良い代わりに、荷物を積むところがほとんどない。たまたま、リアシートに固定できるバッグを持っているので、それを使うつもりだった。そのバッグを取り付けるには、レブルのリアシートを外さないといけない。沖縄では連泊する予定なので、その時は、シートバッグを外して、ホテルに置いて行きたかった。すると、何回もリアシートを脱着することになる。もしかしたら、ボルトを落として、失くしてしまうかもしれない。その昔、家の前でバイクを整備していて、ボルトを落としたら、それが側溝のコンクリートのフタの穴に吸い込まれるように消えていった時の、あの腰砕け感は忘れていない。だから、元々のレンタルバイクのリアシートのボルトは大事に取っておいて、予備のボルトを二本ほど持っていくつもりだった。レブルのリアシートを止めているボルトは、短い六角穴付きボルトで、予備のボルトは、これから買いに行くつもりだった。
今、ちょうど、手のひらの上に、転がっているようなボルトを。
これを、持っていけ、ということか。このボルトを渡すために、わざわざ、そろそろ交換が必要なウインカーリレーを、今日、故障させたのか。偶然が重なっただけ、というのは、わかっていても、やっぱり、そんなに簡単な話じゃなかった。ボルティが機嫌を悪くした、と思ったのは、器の小さい私の勘違いだった。相棒なんて、おこがましい。ボルティには、いつも、世話になりっぱなしだ。
ありがとう。ボルトは、使わせてもらうよ。ウインカーリレーも、すぐに修理するよ。

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