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スターと、その他

阿修羅像が、仏像界きってのアイドルである点は、誰も否定しないだろう。ぽっちゃり体形のオジサンが、眠そうな顔で、胡坐をかいたり、突っ立ったり、寝っ転がったりするのが主流の仏像界で、細身のスマートないでたちと、イケメンでありながら愁いを帯びたその表情で、圧倒的な存在感を放ち、不動のスターとなっている。
今回、興福寺で、初めて実物を見た。かっこよかった。
ところで、皆さんご存じでしたか。スター阿修羅様が、アイドルグループに所属していることを。グループ名は、八部衆、といいます。興福寺の国宝館には、フルメンバーがそろっていた。でも、八部衆の他のメンバーのことは、誰も知らなくても仕方がない、と思った。だって、阿修羅様だけ、露骨に別格扱いになっている。いや、展示の方法とかではなくて、ビジュアルの話。八部衆は、守護神、という設定なので、他の七人は、おそろいの鎧風のコスチュームを着ている。全員、いかにも強そうながっしりとした体形で、腕は二本で、顔が一つで、普通。顔は、ちょっと角が生えたり、クチバシがあったりする人もいますが、まあ、アピールできるビジュアルは、その程度。
それに対して、阿修羅様はというと、まず、上半身は、ほぼ裸。昨今の女子に受けそうな、中性的な薄い胸板。薄い布を肩に掛け、ほっそりとした腕には、シンプルでスリムなアクセサリー。ボトムは、ゆったりとした涼しげなパンツで、足元はビーサン。他のメンバーが鎧でがっちり固めているのに、上半身ほぼ裸で、足元ビーサンって、なんだ。ちゃんとしろ。ところが、他のメンバーが、鎧でがっちり固めているのに、阿修羅様だけ軽装だと、かえって、余裕で強い、みたいになっている。僕には鎧なんて必要ないのさ、みたいな。
細かいことはわかりませんが、八部衆とは、何でしょう。サブタイトルは、阿修羅とゆかいな仲間たち、でしょうか。余裕で強い阿修羅様がいれば、残りの七人、いらなくない?と、周りの人に、聞こえる声で言われそうな感じ。パッとしない人生を歩んできたワタクシとしましては、残りの七人の方が気になってしまう。腕も二本で、顔も一つで、普通だし。
しかし、落ち着いて考えてみると、腕が二本で顔が一つで普通、って、いちいち言うことかって話ですよ。それは、普通、じゃなくて、当たり前っていうんだ。腕が六本で、顔が三つ、なんて、普通じゃないにもほどがある。何をどうやったら、そんな発想が出てくるんだ。そういえば、日光東照宮大猷院の、四夜叉の一人にして、ワタクシに龍神破魔矢を授けられた、わが守護神たる烏摩勒伽様も、膝に象の顔があった。全身真っ青だし。守護神の世界は、自由だ。
その、守護神の世界の自由の象徴である六本の腕を、じっくりと観察してみた。筋肉のない、すらりとした腕が、違和感なく、肩から三本生えていた。腕の付け根は同じ場所で、三つの違うポーズの腕を、あとから合成したみたいになっていた。きれいに収まっているけど、動くようには見えなかった。もう一つの自由の象徴、三つの顔は、残念ながら、見えなかった。展示されている阿修羅様は、正面からしか見えないので、やや後ろを向いた、他の二つの顔は、見ることができなかった。
せっかく顔が三つあるのに、一つしか見えないのは、ダメでしょう。アイドルの見せ方として、正しくない。興福寺の人に、提案です。阿修羅様は、ターンテーブルの上にのせて、常時、クルクル回るようにしてください。アイドルってのは、クルクル回るもんだ。八部衆の、不動のセンターとして、それくらいのことはしてくれないと、他の七人が納得しない。

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