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俺は、こいつと旅に出る

苫小牧のホテルで、朝の5時に目が覚めた。前の日は、フェリーの中で、やることがなくてダラダラしていたわりに、しっかり眠れた。
北海道の第一歩は、マルトマ食堂で、ホッキカレーの朝食の予定だった。カーテンを開けて外を見た。天気予報は良くなかったけど、雨は降っていなかった。
マルトマ食堂には、早朝の5時半に着いた。駐車場は、ほぼ満車で、交通整理のおじさんがいた。店に行くと、入口に行列ができていた。薄暗い店の前で、全員、退屈そうに、スマホの画面をひっかいていた。行列には並ばずに、駐車場に戻った。雨が、ポツポツと降りだした。
北海道ツーリング、スタートです。
 
7時過ぎに、地獄谷に着いた。駐車場には、車が一台も止まっていなかった。とりあえず、雨は止んでいた。空の様子は、さっきまで雨が降っていた時と何も変わっていなかった。レインウェアを着たまま、展望台に向かって歩いた。
ここは地獄谷なので、全国各地のいろんな地獄谷と同じように、むき出しの岩から、白い煙が噴き出していた。山の景色を眺めて、デジカメで写真を何枚か撮った。それから、スマホを取り出した。
ツーリング中は、安否連絡の代わりに、LINEのタイムラインに、ツーリング中の写真を上げている。写真は、ほとんどが、観光地の景色になる。安否連絡なので、それで十分と言えば十分だ。タイムラインは家族と友だちにしか公開していないので、見ている相手は、とても限定されている。とはいえ、いくら規模が小さくても、人が見る前提の写真だ。ツーリングでいろんなところに行って、ただの風景写真をアップロードしながら、なんか物足りない、といつも思っていた。
そんなある日のこと。娘から写真が届いた。どこかの店の中の写真。床に、フシギダネが座っていた。最近、ポケモンGOを始めたけど面白いよ、という連絡だった。その写真を見たときに、これだ、と思った。これがあれば、どこで撮っても同じような、山頂からの景色や、岬から見下ろす海の風景や、豪快に流れ落ちる滝や、白い煙の吹き出す岩肌の写真が、もう少し退屈じゃなくなるはずだ。あ、どこで撮っても同じような、って言っちゃった。
ということで、20歳の娘の真似をして、50歳のお父さんが、ポケモンGOを始めました。今更とか言うな。私は、流行っているから、とかいう理由で、何となく初めてしまうような、チャラい奴とは違うんだ。ARでポケモンの写真が撮りたいから、という理由が、チャラくないのかどうかは、…、うるさいな、知らないよ。
変なところで、妙に真面目な私なので、もちろん、北海道に来る前に、ARで写真を撮る練習をしました。実際に日帰りツーリングに行って、休憩のたびにポケモンを捕まえて、写真を撮った。何回も見たことのある景色に、ちょっとした変化が加わった。予想通り、悪くなかった。どこにポケモンを置いて写真を撮るか、と考えるのは、普通に景色の写真を撮るのとは、別の面白さもあった。
それと、ポケモンGOには、もう一つ、ツーリングにマッチする楽しみ方があった。ポケモンGOの世界では、いろんなところに、ジムというのがあって、そこに行くと、ジムバッチ、というのがもらえる。これは、コレクションできるので、ツーリングに行けば、日本各地のジムバッチを集められる。ジムバッチは、そこに行かないともらえない。だから、ちょっとした旅の記念になる。ちなみに、ジムバッチは、どれだけたくさん集めても、ゲームを進めるうえでは、何のメリットもありません。ただ、集めるだけ。
ポケモンGO、やってます。ARでポケモンの写真を撮ったり、いろんなところのジムバッチを集めてます。バトルのことは、よくわかりません。こんな私を見て、ポケモンGOを作っている人は、どんな顔をするだろう。
とにかく、ポケモンGOは気に入った。私は、相当なおじさんなので、ポケモンは、娘が幼少のころに見ているのを、横から見ていた、という世代だ。童心にかえって、無邪気に遊ぶ、というわけにはいかないけれど、北海道は、ポケモン達と冒険だ。
登別地獄谷の展望台でアプリを立ち上げると、スマホに、ポケモンGOの世界が表示された。展望台には、地獄谷のジムがあった。ディスクをクルクルと回した。ジムバッチ、ゲットだぜ!確か、サトシ君っていう子が、ゲットだぜ!って、言ってた。まわりに、ポケモンがたくさん現れた。地獄谷に似合いそうなポケモンは…、ポニータ、君に決めた!サトシ君は、君に決めた!とも言ってた気がする。よーし、くらえ!モンスターボール!あれ、これはなんか違うな。くらえ、は、なんか違う気がする。まあ、とにかく、ポニータは、ゲットだぜ、です。
ARのカメラに切り替えて、ポニータを配置するところを探した。ポケモン達のすごいところは、柵の向こう側に、平気で入れるところだ。地獄谷の柵の向こうに流れる川の上に、ポニータを置いてみた。火の山の中に立つ、炎の馬のポケモン。いいじゃないですか。パチリ。
ソロツーリングをして、観光地に着いたら、ポケモンの記念写真を撮って喜ぶ50代男性。一人でロングツーリングに行く理由は、一人になりたいから。本人は、
「僕が信じられるのはポケモンだけだ、とは、まだ言っていないので、大丈夫」
と、言っています。楽しそうなので、そっとしておいてあげてください。

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