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焼鯖そうめん

大学時代は京都に住んでいた私だが、長浜名物焼鯖そうめんは、当時、全く聞いたことがなかった。
聞いたことがなくても、仕方ないと思う。だって、焼鯖と、そうめんだもの。焼いた鯖、といえば、定食屋のメニューの定番でありながら、その存在は、決して前に出るタイプ、とは言えないだろう。そこに加えて、そうめんだ。ラーメンも、そばも、うどんも、うまいまずいといちいち騒ぐ麺好きの日本人の国にあって、なぜか外食産業に扱われることのない麺。焼鯖は、地味だけど、そうめんは、人前にも出ない。そんな二人を組み合わせて、名物、と、押し出されても、どこにも引っかかりがない。マップルで見たときも、強く引き付けられることはなかった。
しかし、気になった。歴史は古いらしい。ということは、この組み合わせで、遠い昔から今まで生き残って、歴史ある名物の地位までのぼりつめた、ということだ。そこには、何かがありそうだった。マイナスかけるマイナスはプラス、みたいな、意外な味のビッグバンが起きているのかもしれない。地味すぎるがゆえに気になる、というのは、マーケティング戦略的には、裏の裏、みたいな狙いなのだろうか。
とにかく、私は、まんまと、長浜に、焼鯖そうめんを食べに来た。
そうめんの上に、焼鯖が乗ったお椀が出てきた。まずは、焼鯖をいただいた。焼き、というよりは、煮付けに近かった。醤油とショウガの、濃い味付けだった。次に、その焼鯖を、暖かいそうめんと一緒に食べた。
何と!
驚いたことに、普通。見た目通りの、鯖と、そうめんの味がした。裏の裏を突いたマーケティング戦略の勝利。なんか、だまされたみたいな感じになってしまったけど、おいしいよ。普通なだけで。
ただ、鯖の味付けが濃いので、受け手がそうめんだと、ちょっと頼りなかった。配分に注意しないと、焼鯖だけが残りそうだった。これだけしっかり味がついていれば、この鯖、ご飯を相手にしても、いい仕事するんだろうな。そう思ったときに、さっきメニューで見た、焼鯖そうめん定食の意味がわかった。メニューで見たときは、関西圏でよくみられる、うどん定食、とか、お好み焼き定食、と同じような、ライザップがビビって逃げ出す麺と米のハイパーカーボローディングコンボの亜種だと思っていた。違った。焼鯖のポテンシャルを最大限に引き出すためのコンボだったのか。でも、焼鯖と米を組み合わせてしまうと、それは、普通の焼鯖定食だ。
そうなったときの、そうめんの立場が気になった。

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