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B級グルメと世界情勢

マップルの横手焼きそばの特集で、写真が大きく載っていた神谷焼きそば屋は、駐車場が広くて、建物も新しかった。中に入ると、客はいなかった。感じの良い老夫婦が、いらっしゃい、と言ってくれた。B級グルメで有名なはずなのに、浮かれたところが全然ない、おとなしい店だった。
店の壁には、ずいぶんと古い、白黒のぼやけた写真が飾ってあった。昔の、神谷焼きそば屋と店主の写真だった。写真の店は、今の店とは明らかに違った。おそらく、お二人は、この写真の当時から、何も変わらずに、焼きそばを作っているのだろう。変わったのは、周りの方だ。店が新しくなったのも、最近は、遠くからわざわざ焼きそばを食べにくる人たちが増えて、古い店だと申し訳ないから、と気を使ったんじゃないか、と、勝手に想像した。
わざわざ遠くから客がやってくるようになったのは、神谷焼きそば屋の長い歴史の中で、良いことだったのだろうか。お二人は、ありがたいことです、というだろう。でも、写真の古い店を見ると、都市開発のせいで、何かが失われていく田舎の町のイメージが重なった。わざわざ遠くから来た私は、そんなことを、偉そうに考えた。
焼きそばは、目玉焼きの焼き加減が絶妙で、とてもおいしかった。
店内のテレビで、アメリカ大統領選挙の解説をやっていた。四国にツーリングに行って、うどんを食べた時、店内のテレビに、アメリカ大統領選挙の結果が映っていたのを思い出した。テレビの中では、冗談で立候補したはずの、自分のことしか考えない金持ちのジジイが大統領になっていた。呑気にツーリングしている間に、世界が大変なことになっていた。中学生の娘からLINEが届いて、世界が終わるのか、と聞かれた。否定できなかった。そうはいっても、何もできないので、呑気にツーリングを続けた。世界は激動していたけど、ツーリングは無事に終わった。大統領の任期は、4年なので、あれから、4年が経ったということだ。当時は、世界が終わるかと思った。今のところ、終わったのはアメリカだけみたいだった。今は、コロナのせいで、世界は、もっと大変なことになっていた。
了見の狭い口だけの自分大好きな年寄りが大統領になってアメリカをぐちゃぐちゃにしてしまっても、コロナがパンデミックになって生活様式が変わってしまっても、私の周りの小さな世界では、毎年、同じ時期にツーリングに行って、旅先で昼飯を食べて、4年に一度は、昼飯を食べた店のテレビでアメリカ大統領選挙の結果を見るところまで、何も変わってなかった。変わったのは、うどんが焼きそばになったくらいだ。呑気な話だと思うけど、呑気でいられる間は、呑気にしていたい。
もし、明日世界が終わるとしても、もしかしたら、私は、旅先で昼飯を食べながらテレビを見ていて、神谷焼きそば屋は、おいしい焼きそばを作っている、かもしれない。
4年前に、世界が終わるのか、と私に聞いた娘は、こんな世界でも立派に成長してくれた。大学生になって、今年から、1人暮らしを始めた。私の周りの小さな世界は、彼女がいなくなって、ますます地味になったけど、彼女の世界は、これからだ。

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