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コレクション

美ら海水族館の大水槽を飽きもせずに眺めていると、何組もの家族連れが、やってきては、通り過ぎていった。
ジンベイザメやマンタがゆらゆらと泳ぐ水槽は、子供たちには退屈みたいだった。じっと見ているだけだと、30秒もたたないうちに、ジタバタし始めた。親が、子供に、慣れた感じで、スマホのカメラを持たせた。子供は、写真を撮って、おとなしくなった。
私が子供のころは、それなりの入場料を払ったのに30秒で終わりなんてもったいない、という大人と、そんなことは知ったこっちゃない、という子供の、永遠に交わらないバトルが、泣き叫ぶ子供と、怒鳴りつける親、という形式で展開されていた。便利な世の中だ。テクノロジーは、こんなところまで変えてしまう。
しかし、テクノロジーは、いちいち強力すぎる。その結果、2分ほど水槽を見て飽きた大人が、先に進もうとしても、写真を撮りたい子供が残りたがる、という、逆の現象が起きていた。子供は、まだあの魚の写真を撮っていない、と主張して、ジタバタしていた。大人は、どうせ写真を撮っても見ないし、大した写真が撮れるわけでもないから、そんなもんどうでもいいだろう、と適当にあしらおうとしていた。でも、そんなこと知ったこっちゃない。子供は、一度興味が向いたら、一心だ。さっきは、30秒で興味を失ったのに、今は、目当ての魚が目の前に来るまで、何分でも、待ててしまう。もちろん、写真を撮ったら、3秒後には興味を失うし、写真は、絶対に、二度と見ない。
そうやって、どうでもいいはずのいろんな魚の写真を撮って集めたがる姿は、なんとなく、そろえることだけが目的のカードのコレクションに似ている気がした。プロ野球選手カードとか、ビックリマンとか、ああいうの。写真を撮る、という行為は、手に入れた感じが出るらしい。
気持ちは、わかる。どこを観光していても、とりあえず、写真を撮れば、落ち着く。ツーリングしていて、良い景色を見かけたら、写真が撮りたくて仕方がない。写真を撮れば、OKです。少年よ、オジサンも、いろんなところに行って、写真をたくさん撮ったぞ。そして、その写真は、全然見ないぞ。スライドショーでも作れば、少しは見るかと思ったけど、やっぱり見ないぞ。そうか、俺は、バイクに乗って、あっちこっち行って、ビックリマンシールのようなものを集めていたのか。ビックリマンシールは集めたことはないけれど。そういえば、長野にツーリングに行ったときは、娘に、滝の写真ばかり撮っている、と言われた。あの時は、滝カード集めがブームだったのか。
ちなみに、海の生き物は、みんな、カメラが嫌いみたいです。マナティも、ウミガメも、サメも、カメラを持つまでは、目の前を何回も横切ってくれたのに、カメラを構えたら、寄ってこなくなった、気がする。イカは、カメラには、あまり反応しなかったな。

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