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天気予報の通りに雨が降る

ホテルを出発するときには、もう雨は降っていた。
雨が降るのは、知っていた。ツーリングの二週間前から、天気予報は、一貫して、そう主張していた。天気予報は、当たる。たまに外れると腹が立つくらいに、いつも当たる。だから、ツーリングに来るまで、雨マークが並んだ天気予報を、二週間、毎日見るのは、つらかった。せっかくの、北海道ツーリングなのに。だから、雨マークの方は、なかったことにして、降水確率を見た。10%下がっては喜び、上がっては悲しんだ。
そして、現在に至る。雨は、普通に降っていて、私は、普通にバイクに乗っていた。せっかくの北海道ツーリングで、あいにくの天気だけど、あっさり受け入れて、普通に走っていた。天気が良かったらいいのに、と思う気持ちも、あまりなかった。天気予報には一喜一憂するのに、実際に雨が降ったら、普通にそのまま受け入れていた。だったら、天気予報に祈りを捧げ続けたあの二週間は、なんだったんだ。だんだんと強くなる雨の中を走りながら、ぼんやりと考えた。
海沿いに出た。灰色の海が見えた。テトラポットに、大きな波が、激しく打ち寄せているのが見えた。ツーリングでは、おなじみの風景だった。こんな風景がおなじみになってしまうなんて、私はやっぱり、ツーリングの時に、普通の人より雨が降る傾向が強い、と分類されるタイプの特性を持っている人間なのだろうか。一言でいうと、雨男、とかいうやつだ。それがわかったところで、雨が降る傾向が強いのをどうにかできるわけではないから、わかることに、意味はなかった。
荒れ狂う海は、おなじみの風景になってしまったけれど、これを見ないと、ツーリングに来た気にならない、とは、ならない。決して、ならない。断じて、ならない。こんな景色は、もちろん、見たくない。私だって、
「ツーリングのときには、一応レインウェアを持っていくけど、一回も使ったことがないんだよね」
なんていう人生を歩んでみたかった。天気予報を見て、いちいちキーキーいうのは、そんな人生への憧れのせいだろうか。
…。疲れた。休もう。
運よく、すぐに、道の駅が、見つかった。まだ、早い時間だったので、店は開いていなかった。入口の軒先を借りて、雨宿りした。ヘルメットを脱いで、濡れていないところに置いた。
雨が降っていると、バイクを下りても、やることがなくて、今までは、すぐに出発することが多かった。今回は違う。こういうところには、だいたい、ポケモンのジムがある。スマホを取り出して、雨の現実世界から、あっちの世界に逃避した。残念ながら、ジムはなかった。そのうち、ポケモン達が、やってきた。こんな天気の日には、…、ヌオー、君に決めた。くらえー、モンスターボール。語尾に「!」がつかないのは、疲れているからだ。
写真を撮るために、スマホを構えた。誰もいない、雨の駐車場に、ボルティが、ぽつんと一台、止まっていた。この風景は、何回見ても、ボルティに申し訳ない気持ちになる。ボルティに向かって、モンスターボールを投げた。ヌオーが出てきた。ヌオーは、雨の中でも、平気な顔で、ニコニコ笑って、こっちを見ていた。思いがけず、CGのポケモンに励まされた。
そうだよな、こんな雨、どうってことないよな。

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