【散文|詩】シガーキスにも至らずに


 ぽっかりとあなたの存在だけ空いた空間を満たすように吐き出した煙はひとときだけ寂しさを埋めては消えていく。繰り返される非生産的な行為はわたしのすこやかだった肺を静かに蝕んでいき、虚無感だけを大きくした。

 煙草を吸えなかったあなたの髪が、わたしと同じ匂いで鼻をくすぐる瞬間が、どうしようもなく好きだった。格好までオソロイにしようとして大きく咽せた時の顰めっ面は今でも覚えている。どうしようもなくいとおしい過去を吸い込んでは呑み込んで、一所にはいられない現実に口寂しくなるばかり。

 最後のキスの味も、もう思い出せないよ。





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