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ひきこもりは自己責任? - 若者支援NPOの広報担当が質問に答えます

■はじめに

2004年に理事長の工藤啓が育て上げネットを立ち上げてから18年。
現在まで子ども・若者の社会的孤立の課題に取り組んできました。
当時は行政が若者支援に本腰を入れ始めた時代で「ニート」が流行語になり浸透したころ。トレンドも味方に規模が大きくなり、現在は年間2,000名を超える若者と出会う団体となりました。

社会的に苦しい立場におかれた若者がたくさんいることは知られてきましたが、今も「ひきこもりって自己責任じゃないの?」「なんでわざわざ外に出そうとするの?」という疑問がよく投げかけられます。

このシリーズは「若者支援がすぐわかる!」と題して、広報担当の山﨑が背景的な理解や社会課題の視点を不定期でお送りします。よろしくお願いします!

◾️この記事を書いてる人

こんな人におすすめ

  • ひきこもりやニートについて関心がある方

  • 孤立・孤独の問題に興味がある方

  • 若者の就労支援について調べている方

  • 社会課題の解決に関心がある方

  • 育て上げネットが何をしているかよくわからない方

  • 育て上げネットについてよく知ってみたい方

この記事では、さまざまな方に読んでいただけるように「ひきこもり」「ニート」など、普段は意図的に使わないようにしている表現・言葉遣いを使用しています。

① 育て上げネットは何をしているの? 

◾️若者と社会をつなぐ活動

孤独・孤立担当大臣が設置されたように、日本では「社会や人との関わり」に注目が集まっています。私たちはそのなかでも、子ども・若者にフォーカスして社会的孤立状態にある方を支える活動をしています。

あまり耳慣れない言葉かもしれませんが「ひきこもり」「ニート」と言い換えるといかがでしょう?
行政資料では「若年無業者」、学問では「SNEP(孤立無業)」という言葉もあります。その他「不登校」「8050」「就職氷河期世代」も近い表現として使われています。

いずれも、社会とのつながりを喪失している状態が含まれます。若者が孤立するきっかけは千差万別で、いくつかの物事が重なっていることもあります。そんな「望まない孤立」を経験している「若者と社会をつなぐ」のが私たちのミッションです。

「社会とのつながり」を作る方法はいろいろありますが、私たちは「働く」ことをゴールに定めています。自然とコミュニケーションが生まれますし、経済的な自立にも稼ぎは必要だからです。

そうした点を踏まえ、若者の「働く」と、その状態を維持する「働き続ける」を実現することで、改めて社会と接点を持てるようになれるようにサポートすることを「就労支援」としています。

②何歳までが「若者」なの?

◾️日本では15〜39歳が一般的、だけど…

これには明確な定義がありません。ただ、公的な若者支援のほとんどが対象年齢は15-39歳を区切りにされています。
OECD(経済能力開発機構)は15-29歳で各国の比較を行っていることから、他国では20代までが主流になっていることがうかがえます。

「若者」という言葉が使われるようになったのはわりと最近のことなのです。以前は「青少年(青年)」や「壮年」という言葉があって、青少年は30歳未満、青少年を30-44歳未満を指すとした記載も残っています。

2003年に政府から出された青少年育成大綱以降、さまざまな制度で「若者」という言葉が頻出するようになりました。2008年の青少年白書には「若年無業者」が初めて登場しており、この頃に「若者」は15歳から34歳を指す言葉となっていったようです。

複雑になったのは2011年に施行された「子ども・若者育成支援推進法」のあたりから。この法律では内閣府から「30歳代まで」という考え方が示されました。34歳から30歳代へと解釈が広がっています。

最新の子供・若者白書(内閣府・旧青少年白書)では「15歳から39歳まで」という表現が使われています。一方、厚生労働省が展開する地域若者サポートステーションの仕様書では「15歳から34歳で」と書かれています。いまだにあいまいなのです。

諸外国は20代あるいは10代までを若者支援の政策対象としているなか、なぜ30歳代を含めたのか、その理由は私の知る限りはっきりしていません。

育て上げネット理事長の工藤は、年金受給資格を得るための被保険者期間が25年であるため、定年退職までにその期間を満たせる年齢を若者としているのではと推測しています。もし今後、定年退職の年齢が上がっていけば、それに合わせて上昇するかもしれません。

就職氷河期世代の就労支援が積極的に行われるようになって、30代後半はそちらに含まれている表現もチラホラあります。15歳から49歳までを対象にした「若年無業者等」という表現もあったりします。

育て上げネットでも各種プログラムの対象年齢は一律ではなくばらばらです。全体でみれば最近は20代半ばの方が多くなりますが、40歳代の方の支援もあって幅は広がり続けています。

③ ひきこもりってどういう人なの?

◾️半年以上交流がなく、通学や家事をしていない方

厚生労働省が取りまとめた「ひきこもり」の定義は2004年ごろに行われた調査では以下のように定義されています。

「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」

地域疫学調査による「ひきこもり」の実態調査,三宅由子

現在もこの定義は基本とされています、現在は「広義のひきこもり」というコンビニや私用で外出できる人を指す表現も出てきています。

近しい言葉で「ニート」もありますが、こちらも曖昧な部分が多く「15歳以上 34歳以下で、どの学校にも通学しておらず、ふだん収入を伴う仕事をしていない独身」とされているものが一般的です。年齢の制限があることが大きな差異ではないでしょうか。

実際の支援現場では、この定義にあてはまらない方も多いです。無業期間が6か月以内の方や、専門学校、大学に通っている方もいらっしゃいます。

「ひきこもり」も「ニート」も、非常にあいまいな表現なのに、私たちが支援を行う「若者」と比べるとかなり視野の狭いものです。

加えて、「ひきこもり」はネガティブな印象を持っている方も多くて、私たちとしては使いたくないキーワードです。不必要に線を引いて区別する言葉は使わないようにしています。

④ ひきこもりってどのくらいいるの?

◾️およそ54万人で斎藤さんと同じくらいの人数

内閣府調査では15-39歳の層では54.1万人がひきこもり状態にあると推計しています。

ただ、これは前述のとおり定義が限定的です。失業している方や家事手伝いの方など・・・孤立状態に陥りやすい方を含めると約190万人、およそ17人に1人の若者がリスクの高い状態にあります。「佐藤さん」が全国に180万人ほど。「斎藤さん」が全国に54万人ほどいるそうです。そう思うと少し身近に感じませんか?

でも、佐藤さんや斎藤さんが知人にいるかもしれませんが、知人に「ひきこもり」の方がいるという方は少ないようです。

最近はご近所づきあいも少なくなっていますし、家族ぐるみで隠そうとする「恥の文化」もいまだ根強く残っています。そういう意味では実感が持ちにくく、縁遠い存在かもしれません。

⑤ひきこもりは自己責任じゃないの? 

◾️避けようのない「つまずき」が要因

「若者」は可能性の象徴であって、バイタリティがあって、ひたむきに努力して、頑張る力にあふれている……そんなふうに思われがちです。
その印象からみると「ひきこもり」というのは、「なにもしていない」「怠けている」ように見えてしまうのだと思います。

実際に若者たちから話を聞くと、そうしたパーソナルな要素とはまったく無関係の避けようのない「つまずき」を経験しています。

たとえば、学校でいじめにあったり、病気になって社会との接点を失った方もいます。新卒一括採用のシステムのある日本では、バブル崩壊やリーマンショック、コロナ禍のような経済不況に就職活動の時期が被ってしまって、働きたくても働けずに孤立した方もいます。

そうした苦境を同じように経験しながら、それでも社会のなかでご尽力されている方からみれば「甘えている」ように見えるかもしれません。
もちろん、自力でどうにかできるなら、それはそれで良いのです。問題は、そうでない方もいるということです。

「まあ、自力じゃきついのはわかったけど、じゃあなんで周りを頼らないの?」という声も非常によく目にします。

実際、全国177か所に展開する地域若者サポートステーションの利用者数は対象者数に対してわずか2.2%です。育て上げネットも2,000名程度で、”斎藤さん”の54万人と比べれば微々たる数字です。

リソースはあるのに頼っていないのは当人たちじゃないかという指摘は、数字でみればそうなのかもしれません。ただ「利用しない」背景を掘り下げていくとまた少し違って見えてきます。

長期のひきこもりを経験した若者は当時を振り返り「リーマンショックで何十という企業から断られた。自分は社会のお荷物なんだと思った。そんな自分が誰かを頼るなんて迷惑だろうと思った」と話してくれました。

私たちの支援機関に来所した方の半数の方が「なにから始めたら良いかわからない」と答えています。
どうにもならないほど自信喪失していると、誰かを頼ることも、どうしたらいいかもわからなくなる・・・

「困ってるならだれかを頼れば」というのは正論で、相談しないことは不合理に見えるのだと思います。

ただ、そうした不合理さのなかには理由があって、自己責任と責め立てても、解決の糸口が見つからないのではないか。私たちはそう考えています。むしろ、個人の問題にして放置してしまえば、孤立状態が深刻化していくと考えています。

⑥ ひきこもりが増えるとどうなるの?

ここからは本人ではなく、社会全体への影響として「ひきこもり」を俯瞰してみましょう。

◾️社会保障費の増大につながる

大きなところでいえば、生活保護をはじめとする社会保障費が挙げられるでしょう。25歳の若者が生活保護を受給して65歳まで生活すると、およそ1億円かかると試算されています。

もちろん、ひきこもり状態にある若者全員が生活保護を受給するということはありません。ただ、生活保護受給者のうち、高齢者、母子家庭、障がい者などに当てはまらない「その他の世帯」が増加していることが調査でわかっています。

少子化にも関わらず「働きたいけど働けない」若者は減ってはいません。社会保障費と若者との関係は注目していく必要があります。

⑦ なぜ、ひきこもりを支援するの?

■本人の望む未来を実現するため

ここまで触れてきたように、本人が望んでいるわけではない社会的孤立は社会情勢や経済動態のような、どうにもならない問題であって、個人や家族だけではどうにもならないことがあります。

一方、その状況は変えることができます。本人が望んでくれるなら、私たちはできることがあることを確信しています。

◾️巡りめぐって生活に還元される

たとえば、育て上げネットが独自に行う事業「ジョブトレ」はひとりあたり30万円程度の費用がかかっています。「そんなにかかるのか、高いな」と思われるかもしれませんが、最大1億円の社会保障費を抑えることができる考えればどうでしょうか。

それだけでなく若者がフルタイムで働くようになれば、長くても数年で税金や生活消費で社会に還元される範囲です。

私たちは支援にかけたコストが社会に還付されることから、自分たちの活動を「社会投資」と捉えています。私たちの活動の多くは消えていくお金ではなく社会に還元されていくものです。

◾️若者が孤立しない社会にする

若者を応援したいと考える企業と連携して、インターンシップの機会を作っています。最初のうち、受け入れを心配する声もあるのですが、次第に「普通の若者だね」となり、そのまま採用に至ることもあります。

「ひきこもり」「ニート」という言葉と若者自身の素性は何の関係もありません。ドラマやアニメで描かれたレッテルが社会のなかでの彼らの居場所を狭めているように思います。

大切なのは、本来の若者たちの姿を知ってもらい、偏見や不理解を失くしていくことです。いつか私たちが支援者と名乗る必要がなくなって、「みんな」で若者を支えるようになってほしい、若者支援が当たり前の世の中になることを願っています。


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参考情報
・若者の包括的な自立支援方策に関する検討会(H16年)
https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/jiritu/04/gijiroku04.html
・名字ランキング(佐藤さんと斎藤さん)
https://myoji-yurai.net/prefectureRanking.htm
・ニートの定義に関する考え方(厚労省報道発表資料)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/06/dl/h0628-1b_0021.pdf
・39歳まで定義があがった経緯(理事長工藤の推測)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kudokei/20140605-00036039
・子ども・若者育成支援施策の総合的推進(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/law_s2.pdf
・平成20年青少年白書(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h23honpenpdf/pdf/b1_sho2_4.pdf
・H26年版子ども・若者白書(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/pdf/b1_04_02.pdf
・令和3年版子供・若者白書(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r03honpen/pdf/s3_2-1.pdf
・生活保護被保護者調査(厚労省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html


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