高齢者とアニメーションつくろう『SocialCompass活動レポート』
好きな漫画は何かと聞かれたら、ヘルプマンという漫画を答える。
日本の老人介護を題材に、高齢社会の問題点を描く漫画だ。
現実を真正面で受け止めなければならない介護の現場に入所した百太郎は、様々な体験を重ねて行く。そして老人との交流の中で百太郎はひとつの答えに辿り着く。ジジババ介護に風穴を開けろ! 今まで誰も描かなかったリアルな「老人介護」漫画!!
介護業界が理解できたとは言わないが、介護業界に興味を持つきっかけをくれる。
人類は始皇帝の時代から、不老長寿に憧れてきた。さすがに不死は難しいが、現代の日本はかなり長寿国になっている。理想の未来だ。
ところが、せっかく憧れていた長寿社会になっているのに、日本の未来はなんとなく暗雲立ち込めている雰囲気があるのは気のせいではないだろう。
『長生きなんてしなくてもいいやぁ』
と、思っている若い人も多いのではないだろうか。
しかし、誰でも老人になる可能性は持っている。
老人になることにネガティブなイメージを持つのではなく、もっとポジティブなイメージを持ちたい。
それは"今の老人"のためだけではない。絶対に老人になる可能性がある"未来の老人"、つまり自分たちのためにも。
今ままでカンボジアやラオス、ミャンマー、ルワンダなど、色々な国でアニメーションワークショップを行った。
しかし、日本にはあまり興味が出ない。理由は、日本の子どもはアニメーションのみならず、プログラミングやデザインなどを学ぶ場は、途上国に比べて圧倒的に多いからだ。
今さら日本の子どもたちに、我々がアニメーションをわざわざ教えなくてもいいだろう。
とはいえ、日本の高齢者はどうだろうか?
介護施設の中では、折り紙や体操などの単純なレクリエーションをやって1日を過ごすことが多いようだ。
今の高齢者は幼い頃には『鉄腕アトム』や『鉄人28号』など、アニメ第一世代。にもかかわらず、なかなかアニメーションを作る機会に恵まれなかった世代だと思う。
そんな高齢者の方々いっしょに、アニメーションを作ったらおもしろそうだ。そんなことを思いついた。
そこで2018年4月、日本帰国の際に高齢者介護施設にて、アニメーションワークショップをやらせて頂いた。
高齢者の方々でも絵が得意な方、不得意な方がいらっしゃるだろう。そこで、塗り絵式のテンプレートを用意した。
このテンプレートに色を塗る。
もちろん、顔のデザインは考えて描いてもらう。
とあるおばあちゃんは、「これは死んだじいさんだぁ」と泣きながら、『へのへのもへじ』を描いていた。
描いたキャラクターをハサミで切り取る。
手を切らない安全ハサミを準備していったのだが、痴呆症の方々でも皆さん、危なげなく切っていく。こういうことは忘れないのだ。
次は、切り取ったパーツをホッチキスで連結させる。
この辺はコツもあるので、我々でサポート。可動式のキャラクター紙人形の完成だ。
そして、作ったキャラクターをスマートフォンのStopMotionStudioというアプリで撮影していく。一コマずつ、ちょっとづつ動かして撮影していくのだ。
最後はプロジェクターでスクリーンに投射して、みんなで作ったアニメーションの鑑賞会。
参加者の高齢者も、自分の描いた絵が大画面で動き出すと歓声が上がった。アニメーションを作るのは簡単だが、なかなか作る機会は少ない。大作とはいわないが、自分の描いた絵が動くことに喜んでもらえたのではないか。
描いて、切って、撮影する。そして、作ったものをみんなで見る。
メリハリがあって高齢者にとっても、良い頭の運動だろう。
介護保険制度は、(例外を除いて)お金を稼ぐことができない。お金を稼ぐことができないので、生活に支障がある、という立て付けで介護保険が適応されるのだ。
それまでの人生をお金を稼ぐことに『生きがい』を注いできた方々にとっては、『生きがい』を失うことになる。その辺の仕組みを変えるために頑張っている方もいらっしゃるとは思うが、『生きがい』はお金を稼ぐことだけではない。
我々クリエーターは、お金を稼ぐことよりもクリエイティブに『生きがい』を感じている。お金が稼げないのに、役者を目指したり、ミュージシャンを目指したり、アーティストを目指す若者はいつの時代でもいる。
それでは高齢者になったら『生きがい』をクリエイティブに変えていったらどうだろうか?
老後から目指すクリエイティブ!
お金なんて関係ない!
歳をとるごとに、より大きな夢を持てたら最高だ。
それが、ヘルプマンを読んで感じたことだ。
「俺は絶対に書かない!!」と言っていたおじいさんも、最終的にはたくさんのキャラクターを描いてくれた。
カンボジアやミャンマー、ルワンダなどの途上国の子どもたちも、高度経済成長を支えてきた先進国の老人たちも無邪気にアニメーションを作ってくれる。
国も年齢も関係ない。
クリエイティブは、何歳になっても『生きがい』になり得るのではないだろうか。
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