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【3. 元伊勢皇大神社(京都府福知山市) レイラインツアー2023〜祈りの御来光道】

第3日目 2023年3月16日(木)
☆ルート:福知山〜元伊勢皇大神社〜舞鶴〜小浜〜高島〜長浜港 174km
☆宿泊地:北ビワコホテルグラツィエ
☆参加者:蕎麦宗・矢部周作・手塚博文


ホテルロイヤルヒル福知山&スパで朝風呂

 3日目の朝。少しだけ早起きをして風呂へと向かう。せっかくホテルロイヤルヒル福知山&スパ〉という温泉宿を選んだのだから、のんびりと旅気分な朝風呂を味わう。出張風情のビジネスマン達が、烏の行水をせかせかと済ませて出て行くのを横目に、ゆったりと僅かなひとときを楽しんだ。
 途中、手塚君も入ってきた。同じことを考えたようだ。

『どう?脚は』

『なんとかなりそうです。思ったよりは回復しました。昨日の肉ですね。それと冷温交代浴。効いてます、明らかに』

『矢部君はどうだろうね?ようやく《関西=庭》に戻ってきた安心感もあるだろうしな。今日はアップダウンも少ないって彼が言ってたよ』

 距離も174kmと短いので、余裕を持って観光したとしてもなんとかなりそうだ。そんな確認をして、出発の準備に取り掛かる。チェックアウトを済ませ、改めて3人でミーティング。地図上で途中立ち寄る舞鶴や小浜のスポットも頭に入れる。 
 先ず目指すのは本日の参拝地《元伊勢皇大神社》。それにしても一桁気温で低いのは気になる。せっかく温泉で温まったのに。なのでゆっくりと踏み出した宿の玄関先に、

『ガチャンガチャガチャン』

と、3台分クリート音が響いた。

朝飯。もちろんおかわり

元伊勢豊受大神社

 昨日来た国道176号線を右に折れて由良川を渡る。矢部君のガイドで走る川向こうの県道55号線は快適だった。この22kmをウォーミングアップ区間にして、時速30km/hほどでゆっくりと進めると、僕は思いのほかノンダメージなのを確認出来たし、手塚君も復活基調。さて

『矢部君はどう?』

『なんとか。問題ないですわ』

と、関西弁に乗せた軽やかさで*ケイデンスをあげている。ペダルをクルクルと高回転にして負荷を減らして走ると脚の筋肉を温められ、また溜まった老廃物を流すことができるからだ。
 川沿いに広がる農村の田園風景を進み、途中を左に折れて由良川を渡る。高知・四万十川にあるような沈下橋が現れた。

『コレ撮れてるかな?メッチャ絵になる』

 ステムボルトの上にGoProのインスタント360°カメラを装着し、旅の映像撮影をしているので、でも何せアナログ三人衆のガジェット技術は心許ない。後ろから

『GoPro、ビデオスタート!』

と声がする。音声でのスイッチ入り切りを手塚君がすっかり使いこなしていた。

 国道175号線に出て、左に曲がると豊受大神社が見えてきた。いわゆる下宮さんである。
 片参りにならぬよう階段下から参拝して、朝早いゆえにまだ開いていない授与所にて書き置きの御朱印を受ける。そこにはレイラインの説明に加え、近畿五芒星が記されている。未だ謎の中にある神代の物語は、今となっては都市伝説めいている。さて史実はいかに。 
 そんな空想を掻き立てられて内宮こと元伊勢皇大神社へ向かう田舎道。見上げた空には、明らかな龍雲が突如現れた。おそらく、僕ら3人は歓迎を受けているようだ。

*ケイデンス…ペダルの回転数のこと

元伊勢豊受大神社 
下宮を下から眺める
レイラインと近畿五芒星
突然現れた龍雲

元伊勢皇大神社

 いよいよ元伊勢皇大神社へ到着。宿から1時間かからずに、身体もリセットできて丁度よい道のり。見上げた空の龍雲はさらに勢いを増している。
 今回のレイラインツアーは祈りの旅。ロードバイクのクリートシューズをカチャカチャと音させての参拝は失礼かと、履き物を用意した。僕と矢部君は《京都SOSO》の地下足袋。しゃがみ込んで*こはぜを締めて歩き出すと神妙な心持ちになる。
 220段ある石段の真ん中を隔てるかのように、杉の巨木が何本も立っている。こずえを見上げながら、神域の明らかな気高さに緊張が走ったのは、この2日間で受けた16体の大国主命のお札を背負っているからだった。なぜなら、ここは天照大御神を祀る場所。俗説は相変わらず、僕の頭から離れていない。
 伝承によれば、第10代崇神天皇(西暦紀元前59年)の世に遷移。その後、垂仁天皇(西暦紀元前4年)に、現在の伊勢の五十鈴川上の聖地にお鎮まりになるまで、神宮としてこの地に祀られていた。

 かつては由良川の水運から徒歩4kmでの参拝ということで、江戸期から戦前まではずいぶんと賑わいがあったよう。一度廃れかけた後に、道路事情の改善によって元伊勢参りがブームとなり復活したようだが、観光地というより崇敬者を集める聖地としての意味合いが強いらしい。だからなのか、まさにパワースポットと呼ぶにふさわしい御神気を感じた。
 ここでも一人づつ丁寧に参拝してお札と御朱印受けた。僕らの旅は歓迎を受けているのは間違いなさそうだ。天照大御神から大国主命へのバトン、そしてまた天照大御神へと繋いだ今朝。まだまだ続くレイラインツアーの道中の無事と、世の、皆の、仲間達の安寧と楽しい日々を祈った。
*こはぜ…足袋を止める小判状の小さな金具

220段の石階段
檜皮が付いたままの鳥居
元伊勢皇大神社

舞鶴レンガ倉庫から小浜へ

 もと来た参道を下って京都丹後鉄道・宮福線の下を潜る。この道は国道175号線へと抜ける気持ち良いショートカットルート。再び由良川沿いに出たら南西の風に乗ってスムースに速度を上げる。175号が曲がって大川橋を渡ると道は東向きに変わる。すると今度は風は西風になった。
 この日、この後も僕らが走るルートの方角が変わる度に、風向きもそれに合わせて見事に変化して、入江の出入りでの時折の巻き込みを除けば、見事に強い追い風に押されて走ることが出来た。
 もちろん春の季節風は西風が基本で、地理・地形の理由もある。それでも、ついて回る風アシストを僕らは《神風》と呼んだ。なぜなら2日目の横風向かい風の厳しさを体感したばかりだから。この旅の数日前、伊勢神宮参拝にて風祭の宮へのお願いをした。それが聞き届けられたと思った。ついぞ神風は南向進路で長浜へと到着する頃には北風となって、3日目のレイラインツアーを応援してくれたのだった。。

 そうして着いた国道27号線沿いの《舞鶴赤煉瓦パーク》でしばし休憩。歴史を垣間見せるレンガ倉庫の向こうに軍艦浮かび、今も軍港としての役目を担うこの街を現している。ひょっとしたら有事の際には日本海へと出て行くかも知れない物騒なグレーの船体をよそに、やはり僕らのお目当てはソフトクリーム。冷たく甘く真っ白なそれにかぶりつけば、平和がなおのことありがたい。けれども、あまりのんびりすると脚が冷えて走れなくなるので、ささっと出発。
 淡々と進む追い風に、手塚君と僕は2番手と3番手のどちらが楽なのかを実験しながら走った。普段の最後尾は、空気が後ろから引っ張る力が働くので辛さもある。それを打ち消すからか、追い風の場合は3番手の方か楽なようだ。無論、それとは無縁に矢部機関車が1番手。すまぬ。
 さらに進むうちに日本海の入江の続く町々には、似つかわしくない豪華な公共施設が散見されてくる。
 そう、ここは関西の電力供給地。原子力発電所が集中する地域である。
 しかしながら、それにしても人っ子見当たらない。でも実に立派な建物。どことなく黒々としたものをそれら建築物に投影してしまうのは、穿ち過ぎなのかも知れないが。

 やがて小浜へと到着。矢部君御用達の海鮮丼屋で舌鼓を打ちながら、グループLINEに芸人ノッチの写真と共にクイズを出すと、ダジャレ大好きな早野君が即答してくれた。
 彼は6日目の寒川神社区間を共に走る仲間だ。自分の出番を待ち遠しく思いつつ、む僕らの旅路を楽しみながら応援してくれているのが伝わってきて、なんともほっこり気分になった。よし、いよいよ峠越え、琵琶湖へ高島へと向かおう。

舞鶴の海上自衛隊基地
赤煉瓦パーク
赤煉瓦倉庫の洒落た扉
真っ白ソフトクリーム
小浜の海鮮丼《五右衛門》

琵琶湖へ

 山陰本線に沿った国道27号線が国道303号線に移る頃、ポツリポツリと雨が降ってきた。これから高島へと向かう峠道での雨天は避けたいのが本音だ。正直言って勘弁してほしい。
 その雨と2〜3%の緩斜面も相まって、矢部機関車のペースは少しだけ上がった。この斜度なら僕も問題ない。が、水坂峠のトンネルが近づく頃には5〜6%勾配に変わるので、体重の重い自分は少々キツかった。心拍数が上がる。息遣いも速くなる。手塚君に

『まるで矢部道場だよな、コレ。オレら終わったら強くなってるんとちゃうの!』

と、楽しげに声を掛けるそぶりで自身を鼓舞した。それでも淡々と踏まないペースで走る余裕な矢部君の背中は、それを嬉しそうにあざ笑っているように見えた。やはり、改めて別格のクライマーなのだ。その後ろを走って居られる喜びに、少しだけペダルは軽くなった。

 やがてトンネルを括る。峠だ。雨にも大して当たらずに済んで、高島へと向かって下り坂を飛ばした。相変わらずの追い風で緩斜面でも50km/hを超えている。
 この地は2022年10月の【チャリ鉄の旅・滋賀県編】で一度走って知っているので、安心感があった。いよいよ、滋賀県まで来たと、琵琶湖が見えた頃にはさらに安堵感が湧いた。ずいぶんと旅が進んだ実感にホッとした。
 すると、船で明日渡る予定の竹生島が見えて来る。その向こうには霊峰伊吹山が見える。琵琶湖畔を走りながら、その二つが重なった場所に着いた時、

『ちょっと止まって!ここはレイラインの上だ』

と僕は叫んだ。3人で遠く東を眺める。あの先には富士山や玉前神社、そして振り返れば今朝の皇大神社や出雲大社が鎮まっているのだ。

 再び走り出して琵琶一のコースをゆく。湖畔の道はクルマ通りも少なく快適。若狭街道は道も細くダンプやトレーラーも多かったのでだいぶ神経を使った。通り過ぎる時のその大型車からの風は腕や肩を緊張させるので、上半身は凝り固まってきている。しばし、今津・塩津そして長浜と進める間は、そこから解放されて風光明媚な奥琵琶湖を楽しめた。
 ただし、工事で致し方なく通行した国道8号線の長いトンネルだけは、生きた心地がしなかった。あおるダンプカーのエンジン音、すり抜けるトレーラーの爆風。一歩間違えば大惨事。日本はトンネルが多いとはいえ、こればかりはなんとかならないものか!と、道路事情を憂いた。

竹生島と伊吹山
レイライン上に立つ3人

長浜と天使の梯子

 強い北からの追い風に、三両編成のトレインはさらにスピードを上げて県道44号線を長浜へと飛ばす。雨こそ止んだものの、空は相変わらずどんよりとした軍艦色のような雲に覆われて、夕方の琵琶湖は黒々とした深い藍色に、油絵の具のような白い風浪ふうろうを重ねている。少しずつ、遥か遠くに浮かんでいた長浜の町が近づいて来る。今日のゴールは近い。
 軽やかにペダルを回す僕らは、スピードに似つかわしくない余裕さを持っていた。もちろん疲労はある。でも、今日は《風神》が憑いているのだ。
 そこへ加えて、合流する石井君からの連絡も入った。新幹線を降りた米原から自走してこちらは向かっている。その彼に、荒れるかもしれない明日の天気を見据えて、雨合羽の購入を頼んである。LINEの向こう側で応援してくれていた仲間なサポートは、なんとも頼もしい。
 やがて、長浜港の大きなホテルの建築群が見えてきた。ようやく到着だ。ホッとして見遣った西の空に驚いた。先程の厚い曇天の一部が晴れている。なんということだ!光っているではないか。

『ちょっと急ごう、琵琶湖湖畔へ行こう!天使の梯子だよ』

到着の挨拶動画をグループLINEに送りつつ、しばらく夕暮れを眺めた。
 神々しく雲間から降り注ぐ陽光を《天使の梯子》と呼ぶらしい。そして、それが照らしているのは比叡山。そう、神道と仏教の二つが習合し、日本独自の宗教が完成した場所だ。僕ら3人の腕に巻かれたミサンガは、その比叡山にある延暦寺で修行を重ねた阿闍梨から頂いた物。
 全て偶然でしかない、こじつけかもしれない。それでも、この一日を振り返ると有難い神のご加護とその褒美と言えなくはないか。きっと先人達は、我らが行動を見守ってくれた意味のある偶然の一致を《神》と呼んだのに違いない。

 素直な気持ちでそう受け取って、宿へと向かうと、しばらくして*サーベロS5の新車を抱えた石井君がやってきた。疲労の色濃い僕らとは対照的に、人生初体験のロードバイクツアーへの挑戦にハイテンションだった。また元々明朗な彼のキャラクターゆえに、疲れを吹き飛ばすような元気をもらった。明日へと向かうやる気をも分けてくれたのは、立ち寄った夕飯の鳥焼き店での、皆んなの食べっぷりに現れていたと思う。

 本日の距離は174kmで獲得標高が818mのアベレージ約29km/h。追い風のおかげで強度の割には高速走行。なかなかの出来。
 明日は距離こそ短いものの、訳あって過酷な行程となる。初体験の石井君にも楽しんで欲しいし、勝負ところの5日目への万全な備えもしたい。さて、いかに。朝のんびり出来ることだけは確定している。ゆっくりと寝て、疲れを癒すことにしよう。
 こうして、レイラインツアーの3日目も無事終えることが出来たのだった。
*サーベロS5の新車…この旅のために購入したカナダブランドのブラックシップモデル。取り扱いはアズマ商会。

比叡山を照らす天使の梯子
北ビワコホテルグラツィエ
今宵は鳥三昧で疲労回復
第③日目のGPSログデータ

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