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雑多なもの

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#小説

無題

外に出ると、刺すような冷たい風が鼻の奥をツンとさす。ほっぺたがひりつく。マフラーをずり上げて、口元を隠す。息がマフラーにこもって、布団のようなぬくもりとなる。久しぶりの外出だった。5日ぶりだろうか。食べ物も買い置きをいろいろ回して食べて、完全に引き籠った生活をしていた。鍵のある場所が分からなくてずいぶん探してしまった。急ぎ足で電車へと滑り込む。こんなに音があふれているのも久しぶりだ。ちょっとだけ混

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「またね」

きらびやかなラブホテル街を抜けて、暗くて汚い裏路地に入る。窓からの明かりも無い道は人の気配がなく、閑散としている。少し先に大きなコンクリートの建物があって、鈍い銀色の大きな扉が大きく口を開いていた。そこへ入り、金属質にネオンの光る廊下を抜けて、ポツンと座ったお姉さんに入場料を払う。
スタンドフラワーが置いてある。ピンクと白と黄色の風船や花で彩られた中に「たくさんの幸せをありがとう」というメッセージ

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知らない誰か

K氏が部屋に戻ると、知らない誰かがいた。K氏の席で熱心にパソコンを操作している。K氏は画面をのぞき込む。一心不乱に仕事をしている。ちょうどいい。だれだか知らないが、サボれるのでちょうどいい。K氏はスマホでSNSを見始めた。

夕暮れのオレンジの日差しに、K氏は目を覚ました。あいつはどうしたか、と思って見ると、まだ熱心に仕事をしている。その働いている姿を見て、何となくムカムカする感じがしたが、まあ、

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パンケーキ

「あたし、好きな人がいるの」

そう言って、彼女は僕の渡したプレゼントを拒絶した。きれいに包んだ包みの中には、ネックレスが入っていた。どこにも行く当てのなくなった包みを茫然と受け取る。別に、特別な意味なんてない、と心の中で強がりながら、カラカラの喉から「ごめんね」を絞り出す。

「あたしこそごめんね。誤解させちゃったみたいで。」

本当にそうだ、いや、いいんだ、僕のせいなんだから。「そんなことない

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本の立ち読み

昼休みに、本を少し立ち読みした。

時間術の本の中には、スキマ時間をどう使うか、という話があった。そういえば、受験の時はそうやっていた。出来ることを先に決めておく。5分、10分、30分など。暗記、計算、総合問題、という感じで割り振っていた。今更、そんなことを思い出す。

受験のテクニックというのはいかに効率的に勉強するか、という話であって、「勉強」を別の何かに置き換えたら、案外使い回しが効くのだと

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