パンケーキ
「あたし、好きな人がいるの」
そう言って、彼女は僕の渡したプレゼントを拒絶した。きれいに包んだ包みの中には、ネックレスが入っていた。どこにも行く当てのなくなった包みを茫然と受け取る。別に、特別な意味なんてない、と心の中で強がりながら、カラカラの喉から「ごめんね」を絞り出す。
「あたしこそごめんね。誤解させちゃったみたいで。」
本当にそうだ、いや、いいんだ、僕のせいなんだから。「そんなことないよ。ごめん。」謝るしかできない。
それはもらえないけど、これからも”友達”として仲良くしてね。
しばらく会わない間に、”友達”は、化粧と清楚に見えるワンピースに包まれ、垢抜けていた。12月13日にLineが来て、久しぶりに会おうよ、となった。実に3年ぶりにLineをして、3年と3カ月ぶりに、12月27日に、会うことになった。
「最近どう?」
僕は、勉強をしていて、ニートと変わらない生活をしていた。何も言えるような私生活なんて無かった。ぼちぼち、と答えるしかない。
適当な雑談をしていたら、カフェの名物だというパンケーキが来た。ニートには高級な食べ物である。高級な食べ物は、やたらと甘くて、生クリームがずしりと重く、気持ち悪くなった。
食べ終わったら、彼女が唐突にバッグからパンフレットを出す。
「いい商品があるの」
ああ、このために呼ばれたのか、と思った。石鹸やらシャンプーやら。パンケーキのぐちゃぐちゃとパンフレットによって、目の前がぐるぐると回るようで、彼女の説明はよく分からなかった。「アメリカで開発された画期的なビジネスモデル」は、どう考えてもねずみ講だよな、ということだけは分かった。
お金がないから。ニートだから。でも、紹介したら儲かるよ?という押し問答を幾度か繰り返して平行線。僕は買う気もないし、マルチ商法に誘われているんだ、と思うと本当に悲しかった。彼女にとって、僕は単なるカモでしかなく、金づるとしか見られていないのだ。今更会うのも憂鬱だと思いつつ、久しぶりに会えることを少し楽しみにしていた。その、気分が、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、心臓がおかしくなりそうだった。
「バンッとお金をテーブルに叩きつけて、黙って、僕は立ち去った。」
そうできたら、どれだけ良かったろうか。ひたすらに断って、買わずに、でも、恨み言も言えずに、にこやかに、またね、と言って別れた。またの機会なんてある訳ないじゃないか。お前は友達ですらないんだから。単なる、簡単に騙せるカモなのだから。
パンケーキが逆流してきて、それを無理やり飲み込んだ。喉がすっぱいような苦いような。あの頃ずっと通っていた、この懐かしい街がにじんで見えた。
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