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#27『爆弾』(著:呉勝浩)を読んだ感想

呉勝浩さんの『爆弾』

2023年(第20回)本屋大賞ノミネート作品です。
また、『このミステリーがすごい! 2023年版』(宝島社)国内編と、『ミステリが読みたい! 2023年版』(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)国内篇1位を獲得しており、第167回直木賞候補作にもなっています。


あらすじ

東京、炎上。正義は、守れるのか。

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。

講談社BOOK倶楽部より

感想

  • 緊張感漂う頭脳戦にハラハラ

  • 衝撃よりはジワジワくる感じ

  • 誰しもが「欲望」という無敵のカードを持っている?


『爆弾』は、立場や境遇が違う警察官たちによって物語が進む群像劇。

迫りくる爆発までのタイムリミット、事件の全貌、そしてスズキタゴサクとは一体何者なのか?

その中での緊張感漂う頭脳戦にハラハラしました。
それは同時に消耗戦でもあり、スズキの長い会話には神経がすり減らされます。
読了後は疲労感に似たようなものがありました。

社会的に失うものが何も無い、いわゆる「無敵の人」スズキタゴサク。
しかし、彼の予言は次々と当たり、どこか余裕を感じさせます。
ただ気持ち悪いだけでなく、知性を兼ね備えているような感じで怖くなりました。
スズキの得体の知れなさは、ここ最近の読んだ本の登場人物の中で1番かもしれません。


本作の1つのキーワードは「仲間」「欲望」ではないかと思います。

「仲間」が傷つけられたことやそれぞれが持つ「欲望」によって、心情に変化が生まれる。それが、警察官たちの行動にも表れます。
行動の中には、命令無視や周りからは理解されないことも。
こういった「欲望」によって、実は警察官たちも「無敵の人」になっている。それは、決して彼らに限られるものではなく、誰しもが「無敵の人」になる可能性があるのではと思いました。

警察官たちの感情が揺さぶられる姿に、僕の感情も揺さぶられました。


衝撃よりは考えさせられることが多い作品だと思いました。

最も考えさせられたのは「命の重さ」についてです。
命は絶対的なもので本来優劣はありません。
でも、それぞれがランク付けして相対的に見ている。
中盤のある出来事は「命の重さ」が問われていますが、ラスト以上に強く印象に残りゾッとしました。

印象的なフレーズ

「どこかで何かが爆発して、誰かが死んで、誰かが哀しむんでしょうけど、でもべつにその人は、わたしに十万円を貸してくれるわけじゃない。わたしが死んでも哀しまないし、わたしが死ぬことだって止めようとしませんよ、きっと」

『爆弾』

時限爆弾とは、なんと厄介な代物だろう。いったん「ある」と思わせられたが最後、「ない」と証明できるまで恐怖につきまとわれる。どこかでひっそりとその瞬間を待ち、時を刻んでいるのかもしれないという想像がぬぐえない。

『爆弾』

「他人の本音なんて、知らないほうがいいんです。隠しておくべきだ。見て見ないふりが正しい。そのほうが幸せなことってたくさんあるでしょ?だって人は、ひとり残らず汚い部分をもっています。身勝手な支配欲、嫉妬、破壊衝動。ぜんぶ、当たり前にもっています。そんなの、いちいち見抜いてたらコミュニケーションなんて無理だ。大昔なら、ちょっとした諍いが命の取り合いにもなってたでしょうし、つまりそういう力って、じつは生存に、これっぽっちも向いてない」

『爆弾』

「わたしたちが身勝手だからです。平気で他人に優劣をつけるからです。それを野放しにしていたら平穏な生活が守れそうにないから、だからルールをつくったんです。長い時間をかけて、知恵を持ちよって、完璧でなくとも、妥当なルールを。人の命の平等を、実現するために」

『爆弾』

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