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#100 2024年4月に読んだ本【読書日記】

こんにちは🙂

当記事は、僕が2024年の4月に読んだ本13冊をまとめたものです。
それぞれの本で、感想、印象的なフレーズを書きました。読む本を迷っている方にとって、参考になっていただけたら幸いです。


1.『黄色い家』(川上未映子)

📖感想
2024年の本屋大賞ノミネート作品。
とにかく、やるせない。
読了後に気持ちのやり場がわからなくて出てきた感情です。
金に翻弄された花が変貌していく様子に、読みながら辛くなりました。
金は人を変えてしまう。金そのものは変わらない、年をとらないのに。
シノギによって金を稼ぐこと。それは嫌な予感しかなく、そして本来手を出してはいけないこと。しかし、花の生きていくための切実な思いや黄美子さんとの出会い方を考えると、その言葉で切り捨てられないものがあります。
お金が人にもたらしてくれるものって何だろうと読みながら考えていました。
そして、花の揺れ動く心情がすごく細かく描かれていると思いました。
あまりにも複雑な感情が混ざっている作品です。

📖印象的なフレーズ

「人間は年をとって死ぬけど、金は年をとらないし、死なないからね」

『黄色い家』

なにも誰もあてにはならないのだ。金のあるやつと一緒になったからといってその金が自分のものになるわけではないし、広い家に住んでいるやつと一緒に暮らしたからといってそれが自分の家になるわけではない。家でも金でもなんでもいいけど、仮にその誰かのものを自分のもののように遣えるような状況になったとしても、それはあくまで遣わせてもらっているだけのことなのだ。

『黄色い家』

みんな、どうやって生きているのだろう。道ですれ違う人、喫茶店で新聞を読んでる人、居酒屋で酒を飲んだり、ラーメンを食べたり、仲間でどこかに出かけて思い出をつくったり、どこかから来てどこかへ行く人たち、普通に笑ったり怒ったり泣いたりしている、つまり今日を生きて明日もそのつづきを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろ。そういう人たちがまともな仕事についてまともな金を稼いでいることは知っている。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手に入れたのかということだった。

『黄色い家』


2.『め生える』(高瀬隼子)

📖感想
髪が生えてる人が多い世界、はげてる人が多い世界。
どちらもマイノリティが生きづらいのは同じだけど、それでも両者には微妙な差がある。髪があることの優越感、髪がないことのコンプレックスは変え難いし、自分の本音を打ち明けるのは難しいと思いました。
髪のあるなしによって、人間関係をいとも簡単に変えてしまう。見た目における髪の影響力の高さを強く感じました。
もし、本作のようなはげてる人が多い世界になったらを考えましたが、新型コロナウイルスのように、時間が経つと次第に慣れてきて順応していくのではないかと思います。だた、実際にはなって欲しくないですね。

📖印象的なフレーズ

髪があるとかないとかいうだけで、こんなふうにしんどいのはばかばかしい。ばかばかしいけど、ばかばかしいこと抜きでどうやって人と関係を結んでいくのか、その方法も分からない。

『め生える』


3.『あなたの言葉を』(辻村深月)

📖感想
毎日小学生新聞の連載がまとめられた辻村さんのエッセイ集。
言葉を大切にしたい想いがある僕にとって、本作は響く言葉や想いがたくさん詰まっていて、ずっと大切にしたい本になりました。
胸中に抱いたモヤモヤを言語化して自分の言葉を獲得すること。それは正解がない社会の中で自分を守ることにつながる。何かをやるにあたっては、役に立つかどうかではなく、好きや楽しいという感情を大切に。
小学生に向けて書かれているものですが、大人の自分にとっても元気をもらえるもので背中を押してくれる感じがしました。また、小学生と同じ目線に立って書かれているのが文章から伝わってきて、その点でも感銘を受けました。小学生が羨ましい
今年のベスト本10冊の候補になる本です。

📖印象的なフレーズ

「自分の言葉」は、無理にのみこむ必要もなければ、同じように口に出すことを強制されるものでもありません。ただ、あなたの中でその成長を止めないように「考えること」「思うこと」にブレーキをかけないで。そうすれば、いつか必ずその言葉が胸からあふれて、あなたを助けてくれる時が来ます。

『あなたの言葉を』

誰かを勇気づける言葉が、時と場合によって、誰かにとってのショックな言葉にもなる。私が昔言われた「努力家」という言葉もそうでした。それはどの捉え方が正解ということはなく、受け止めるあなたのその時の感じ方こそが大事です。

『あなたの言葉を』

物語を作る人でなくても、自分が今もやもやしているこの気持ちは何なのか、言葉を実感として知らなければ、自分が怒っていることにも悲しんでいることにも気づけない、ということが実際にあると思います。だから、「自分の言葉」を普段からたくさん持っていることは、とても大切です。

『あなたの言葉を』


4.『落雷はすべてキス』(最果タヒ)

📖感想
webマガジン「yom yom」掲載詩を中心に、「最果タヒ書店」のグッズ、雑誌、SNS発表作品を加えた44編による詩集。
美しさや愛するとは、決して綺麗なものだけでなく複雑なものが混ざっている。それを最果さんの詩を読むと感じます。
また、詩の中で孤独という言葉が出てきますが、孤独というよりは一人一人が孤高の存在であることも感じ取れました。
あとがきに書いてある素敵な文章も好きですね。
本作で特に印象的な詩は、「上弦の月の詩」「運命」「夕焼けの詩」「波音の詩」「金色の詩」「朝日」「本棚の詩」です。

📖印象的なフレーズ

きみを永遠に支える静かな海を贈りたい。

『落雷はすべてキス』


5.『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎)

📖感想
個人的にかなり好みの短編集でした。
何気ない出来事から人と人が出会い、その後の人生が変わっていく。
よくある話ではありますが、どの話も引き込まれて、ラストは心がときめく展開が待っていました。それは、登場人物の微笑ましい掛け合いや出会いに関する金言、そして絶妙なつながりが大きいのだと思います。何気ない日常が愛おしくなりました。
出会いとは、その瞬間ではなく後になってわかるもの。小さく聞こえる夜の音楽のような、風のような自分ものなのかもしれません。
また、登場人物の中でも織田一真の自由奔放な性格はかなり強烈な印象でした。
今年読んだ・これから読む短編集の中でも一番の作品になるかもしれません。

📖印象的なフレーズ

「自分がどの子を好きになるかなんて、分かんねえだろ。だから、『自分が好きになったのが、この女の子で良かった。俺、ナイス判断だったな』って後で思えるような出会いが最高だ、ってことだ」

『アイネクライネナハトムジーク』

「さっきの、出会いの話だけど、結局、出会いってそういうものかなあ、って今、思ったんだ」
「そういうものって、どういうもの」
「その時は何だか分からなくて、ただの風かなあ、と思ってたんだけど、後になって、分かるもの。ああ、思えば、あれがそもそもの出会いだったんだなあ、って。これが出会いだ、ってその瞬間に感じるんじゃなくて、後でね、思い返して、分かるもの」

『アイネクライネナハトムジーク』


6.『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)

📖感想
多種多様な人々と過ごしている中でのブレイディさんと息子さんの言葉や行動に感銘を受けました。
その中でも、エンパシーとは何かについて「自分で誰かの靴を履いてみること」の表現がすごく印象に残りました。
エンパシーとシンパシーは似ているようで違う。自分と同じような考えや境遇にいる人に共感することは自然な感情として出てきますが、自分と違う立場や考え方を持つ人が何を考えているのかを想像することは意識的に行わないとできない。想像しようとする気持ちがなければ無知になり、それが偏見につながる可能性がある。
人種や貧富の差がそれぞれの家庭でまるで違っているイギリスですが、一人一人が違っているのは日本でも同じこと。多様性というテーマを考える上でも日常生活の中でも、このエンパシーという言葉は大事にしたいと思いました。

📖印象的なフレーズ

シンパシーのほうはかわいそうな立場の人や問題を抱えた人、自分と似たような意見を持っている人々に対して人間が抱く感情のことだから、自分で努力をしなくとも自然に出て来る。だが、エンパシーは違う。自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のことだ。シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』


7.『雷神』(道尾秀介)

📖感想
新潟県羽田上村で30年前に起きた事件、その後主人公の幸人が移り住んだ埼玉で起きた15年前の事故。2つの出来事のつながりとは?
終章で次々に明かされる真相。登場人物の必然や偶然が混ざった巧妙なトリックは、道尾さんの真骨頂そのものでした。中でも手紙の件は鳥肌ものでしたね。帯にも書いてあったラストは衝撃というよりは哀しい。
本作の舞台は新潟県。実際に雷が多い地域であるため、物語のイメージがしやすかったです。村社会の閉塞感が細かく描かれているのも印象的でした。
道尾さんのミステリは、人間心理や人間の弱さについて考えさせられますが、その点が好きだなって改めて思いました。
個人的な意見ですが、今後映像化されて欲しいなあと思っています。

📖印象的なフレーズ

——でも、儚いってのは、大事ってことだ。

——飯食ったり、酒飲んだりするあいだも、短え時間だけど、なるべく大事にしてもらいてえと思ってな。
(中略)
歳を重ねるにつれ、比較する時間だけが延びていき、途切れてしまった時間は遠ざかるばかりで、それだけに、すべてがどれほど大事だったかが身に染みる。

『雷神』


8.『コンビニ兄弟2―テンダネス門司港こがね村店―』(町田そのこ)

📖感想
『コンビニ兄弟』の続編。
前作より少ない3話構成であることやテンダネスの中身があまり触れていなかったこともあり物足りなさは感じますが、本作も心温まる読了感がありました。
ライトな表現なので読みやすく、それでいて生きる上で大事なことが書かれている。人に優しく、自分自身にも優しく、という思いがわいてきます。
また、どのお話もその後の展開が気になるような締めくくり方が良いなって思いました。続編が気になる終わり方で、3も読みたいですね。
登場人物の中ではツギさん推しです。ツギさんかっこいいなあ、と思いながら読んでました。あとは、門司港にいつか行ってみたいなあ。

📖印象的なフレーズ

いくつになっても、ひとを好きになっていい。そのときには相手だけやなくて、そのひとを好きな自分までも好きになれたらいいと思う。相手を大事にして、同じくらい自分を大事にする。大事な相手に見合う自分でいよう、そういう「好き」に巡り合えたら、きっとしあわせ。

『コンビニ兄弟2―テンダネス門司港こがね村店―』

「遠回りのもどかしさや足踏みしてたときの焦燥感。そういうもんを知らねえと、手に入れたもののありがたみが分からなくなるってこともある。当たり前だと思うと、ちゃんと大事にできなかったりもする。望んで望んで手に入れたものは、すげえキラキラ輝くもんだ」
「たいていの宝物は自分の手の中で初めて輝くもんなんだよ」

『コンビニ兄弟2―テンダネス門司港こがね村店―』


9.『ある男』(平野啓一郎)

📖感想
愛にとって過去とは何かを問う本作。
里枝が愛していた人は一体誰なのかが気になりましたし、その依頼を引き受けた城戸が自分自身の存在について考える様子にも引き込まれました。
本作を読んで感じたのは、人にとって「過去」というのは重くのしかかっていること。人生は良いことも悪いことも、自分では選べないこと、変えられないことがある。過去を捨てて、誰かの人生を生きたいと思っている人がいる。
彼らの心境の変化を通じて、自分自身はどうかと考えていました。
僕は、選べないこと、変えられないことで相手の人間性を決め付けることはしないようにしようとの気持ちが改めて強くなり、そしてこれからの生と幸せを大切にしたいと思っていました。
読了後には、なにか不思議な心地よさがあります。

📖印象的なフレーズ

『現在が、過去の結果だというのは事実だろう。つまり、現在、誰かを愛し得るのは、その人をそのようにした過去のお蔭だ。遺伝的な要素もあるが、それでも違った境遇を生きていたなら、その人は違った人間になっていただろう。——けれども、人に語られるのは、その過去のすべてではないし、意図的かどうかはともかく、言葉で説明された過去は、過去そのものじゃない。それが、真実の過去と異なっていたなら、その愛は何か間違ったものなのだろうか?意図的な嘘だったなら、すべては台なしになるのか?それとも、そこから新しい愛が始まるのか?——』

『ある男』


10.『私、死体と結婚します』(桜井美奈)

📖感想
婚姻届を提出する予定だった矢先、夫が亡くなっていた。それでも七海は婚姻届を提出して、死んだ夫と結婚生活を送る。その驚きの決断に、序盤から不穏な空気が漂いまくっていました。
人には表の部分もあれば、裏の部分もある。好きになった人のことは色んな部分を知りたい。その点で七海には共感できたのですが、それだけではないただならぬものを感じました。その後、夫の真悟の過去や亡くなった真相がわかるのですが、終盤の七海の本心が何よりも響きました。だからこそ、彼女の身に起こる不遇に胸が締め付けられましたが、読了後はそんな中でも幸せだったのかなと感じてジーンときました。

📖印象的なフレーズ

「結婚したら、長い時間一緒に——死ぬまで一緒にいれば、たくさん知ることができるから。好きなドレッシングの種類とか、ワインの銘柄とか、靴下をどっちの足から履くのかとか、記念日はいつまで続けるのかとか、二日酔いするほど飲むのかとか……」

『私、死体と結婚します』


11.『仙台ぐらし』(伊坂幸太郎)

📖感想
仙台での日常を綴った伊坂さんのエッセイ集。
仙台の空気が吸いたくなる1冊でした。
あとがきと解説でエッセイは苦手だと書かれていましたが、笑えたり、考えさせられたり、ジーンときたりと面白かったです。伊坂さんの文体や比喩表現、人物の会話って引き込まれるものがあるんですよね。それは本エッセイでも同様でした。
また、エッセイでは伊坂さんの心配性な面が度々出てきますが、それが殺し屋シリーズに登場する七尾を思わせるようでした(不運な所は除く)。
後半にある震災の話には胸が締め付けられます。

📖印象的なフレーズ

「人が、住みついた場所を離れるのは、何か大事なものをぴりぴり引き裂くようなものじゃないのか」

「丁寧にうまくやらないと、シールは綺麗に剥がれないんだ。慎重に。どれだけの覚悟がいると思ってるんだ」

『仙台ぐらし』
「ブックモビール」


12.『Story for you』(講談社)

📖感想
コロナ禍の夏をテーマにした62名の作者による62編の掌編小説。
学校、家、戦乱、異世界など作品ごとに舞台は違いますが、新型コロナウイルスによって大きく変わってしまった日常の様子が感じられます。掌編小説ということで分量は約3ページと短いですが、しっかり物語を感じられるもので、心が温まったり、驚きの展開が待っていたりとワクワクしながら読んでいました。
また、作家さんごとの特徴が出ているのも面白いですね。名だたる作家さんが勢ぞろいでその点でも興奮します。
印象的なお話は、「壁の向こうで(浅生鴨)」「マスク農家の憂鬱(木下昌輝)」「黒魔女修行だってオンライン(石崎洋司)」です。
1つのお話は3分かからずに読めるので、何か手軽に読みたいなと思った時におすすめです。

📖印象的なフレーズ

「パパっと世の中が見えてしまうのは、見えた気になってしまうのは、子どもの賢さやな。なにかにぶつかって立ち止まるのは、しんどいことやで。もがくのもかっこわるい。でも、かっこわるいことができる花は、いずれどこかにたどりつく。たぶん道に迷わずまっすぐ歩いた人間にはたどりつかれへんような、遠い場所にな」

『Story for you』
「ヤドコと花ちゃん」(寺地はるな)


13.『闇祓』(辻村深月)

📖感想
とんでもない作品に出会ったかもしれません。
どうしてこんなに言語化できるのかと思うくらいの心の奥底をえぐられる理描写。それにホラー要素が合わさると、とんでもなく面白くなる。ゾクゾクが止まらず、気づいたら一気読みしていました。
瞬間的にくる怖さというよりは、後からジワジワとくる怖さがあります。何が怖いかって、これは作品内に限らず現実でも起こっているかもしれないこと。
マウンティング、パワハラ、正義を振りかざすことなど。しかしその言葉で片付けられないような名前の付けられないハラスメント。
人との距離感について考えさせられましたし、良くも悪くも人っていとも簡単に変わってしまうことを突きつけられたようでした。また、誰が言ったのか、誰がしてくれたかで感じ方ってこんなにも変わるんだなと思いました。
読了後は、白石要の印象が180度変わり、タイトルが響きます。
まさに辻村先生だからこそなせる作品。
今年のベスト本10冊の候補になる本です。

個人的には続編、映像化も希望しています。

📖印象的なフレーズ

沢渡夫婦は、わかりやすい悪意という悪意をまったく見せない。むしろ親切で、人の悪口を嫌っているようにさえ見える。けれど、あの家は、親切なようでいて、凄まじいマウンディングの家なのではないのだろうか。

『闇祓』

「……仕事でも実績があるみたいだし、知性はある人なんだと思う。だけど、なんていうか、知性と品性は必ずしも一致しないんだよ。今回のことは、あまりにも人として品がないと思う」

『闇祓』

「みんな、言われたい言葉なんか、決まってるんですよ」

「相手にかけてほしい言葉。みんな、悪くないって言ってほしい。あなたの正義が正しいって認めてほしい。そうしてくれる相手には、みんなどこまでも自分の話をしてしまえる。委ねてしまえる。」

『闇祓』


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