2023年の”旅納め”は京都でした。
仕事がらみでもあったのですが、年末の京都へ。
よりによって、仕事の予定は25日、つまりクリスマスなのです。が、だったらクリスマス・イブの京都ってどうなっているんだろう。少し興味があったので、24日の日曜日から2泊。今回は特に観光もせず、街の中で普通に過ごしました。
意外にも、混雑していないクリスマス。
結論から言いましょう。
京都という街は、気持ちいいくらいにクリスマス色が無いんですね。これはとてもいいことです。さすが千年の都です。もちろん、サンタの格好をしたアルバイトさんたちがケーキを売ったりしているけれど、ほとんど目立たない。街の照明が抑えられているからか、あるいはクリスマスソングが聞こえてこないからかな。
実を言うと、東京にいるとどこへ行ってもイルミネーションで、年末のこの時期になるとかなり食傷気味になります。しかも昼間に見ると、街路樹にLEDのコードがグルグル巻きにされていて、なんだかとても見苦しい。美しい街は陰翳礼讃。ほの暗い灯りだけで充分に美しいはずなのです。
そして、もうひとつのうれしい誤算。それは、恐れていた混雑が無いこと。紅葉の時期は過ぎたし、年末はオフシーズンということなのでしょうか? つまり僕にとってのオンシーズン。やはり年末の京都では、東山魁夷の『年暮る』のイメージで静かに過ごしたいではないですか。雪は降っていないけれど。
居酒屋のご主人の言葉によると。
「デパートにでも行けば、少しはクリスマス気分が出るんとちゃいますか?」
いいえ、いいんです。このままで。
クリスマスイブの南蛮寺。
とは言え、ひとつだけ気になっていたことがありました。
それは、友人の仕事場近くにある「南蛮寺」の跡地です。今では地元企業の敷地になっており、駐車場に小さく「跡地」の案内板が立っているだけ。とは言え南蛮寺と言えば、日本で最初のキリスト教会と言ってもいいくらいのものでしょう? それにしては、この案内板ひとつではあまりに切ない。
で、クリスマスのときくらい、何か飾り付けがあるかもしれないと思い行ってみたのですが。
いつもの通りでした。そこはいつもと変わらぬ駐車場。諸行無常ですね。
ちなみに、蛸薬師通りをそのまま西に進み、路地をふたつくらい越えると、そこには本能寺の跡地もあります。
この石碑から北へ、本能寺には広大な敷地があったようですが、今では静かな住宅地。京都市役所の前にある本能寺は、後に豊臣秀吉が移したものだとのこと。
とは言え、本能寺跡の東端にあたる西洞院通を三条方向へ進むと、右手に見えてくる染物屋さんの店先に「千利休が使っていた」という水が湧いています。お店にことわればこの水を飲ませてくれるのだけど、本能寺の変の前夜に行われたという茶会で、もしかするとこの水が使われたのかもしれない。なんて想像したりもするのです。
もっとも、本能寺の変の茶会に千利休は来ていませんが、それはともかく、京都には、今でも街の中に歴史のある清水が湧いている。建物は無くなっているのに井戸は残る。すごいことですよ。
本屋さんに行こう。
翌日は午前中の打ち合わせの後、時間があいたので本屋さんでも覗こうか、と。
叡山電車の一乗寺で降りて『恵文社』へ。ここに来るのは3年ぶりくらいです。
この本屋さんのすごいところは、棚の配置が独特なこと。
普通、本屋さんというと、旅なら旅、歴史なら歴史、というふうに棚できっちり仕切られているけれど、この本屋さんの棚は、一冊の本の隣に関連ありそうな本が置かれ、その隣にも関連ありそうな本が置かれ… という具合に、ジャンルがじわじわと変化して行くところ。この選び方はオミゴトとしか言いようがない。だからこっちもつい隣へ、隣へ、と移動してしまい。とても長居することになる。この店に踏み込んだら、一時間は出てくることができません。
最近の本、とくにビジネス書あたりにありがちな、タイトルだけが大きく(目立つように?)デザインされた本は、この店にはありません。あっても目立ちません。その代わり、知らない出版社の、知らない著者の方が、とても丁寧に作ったと思われる本がたくさん並んでいます。
僕が本屋さんに期待することは、まずそれです。
本をネットで買えば翌日に自宅に届く。しかし、それでは自分に興味があるジャンルの本しか手に入れることができない。ところが本屋さんに来ると、知らない本がたくさん並んでいる。そして、ふと手に取った一冊により、興味の幅が広がることがある。その本が生涯の愛読書になることだってある。だからやはり本屋さんには通わなくてはならない。ネットだけに頼っていると、とても大切な出会いを逃してしまうことが多いのです。
商店街に行こう。
再び叡山電車で街に戻ると、終点は出町柳の駅。となれば、鴨川を渡って、出町枡形商店街を覗き、最後にハムカツを買わなくてはならない。
ここは大好きな商店街です。この昭和っぷりに、すっかり有名になってしまって、錦市場のように混んでいたらイヤだな、と思いながら恐る恐る来てみたら、これまで通りでした。よかった。まだ世界の観光客にはバレていないようです。なつかしの福引きも健在。
店頭の写真は遠慮しましたが、商店街いちばん奥の果物屋さんはすごいですよ。みかんの大売り出し。店先は眩しいばかりにオレンジ一色。行ける人は、ぜひ見に行ってほしい。けど、もう期間は終了してますね。
そんなこんなで午後もだいぶ時計が回りました。いったんホテルに戻って、小さな忘年会に備えます。
地価の高騰とか再開発とか。
京都には何軒か気に入っている居酒屋や小料理屋があり、京都に行くとそのうちのどこかに行く。そのローテーションで行くと、一軒あたり年に一度行けるか行けないか、という感じになる。
で、今回は、その中の一軒が立ち退きになるという噂を聞きつけ、その店に予約を入れた。幸い、立ち退きとは言っても無事に移転先が決まったとのこと。
6人しか座れないカウンターと、テーブル席がひとつのみの小さな小料理屋。これが木屋町通り沿いの、まるで新宿歌舞伎町のようなエリアにあるのだけど、なぜか店内は静かなのです。おでんと串カツが有名。琵琶湖の食材にもリスペクトがあるようで、この日も「もろこ」の南蛮和えがありました。
立ち退きと言うからには、この界隈も再開発なのかな? と思ったところ、そうではなくて、ビルだけが立ち退くとのこと。とは言え話は京都の街の再開発に及ぶ。
京都市内のオフィスビルの稼働率は全国一位の水準で、家賃は高騰し、街の中心部の小さな店は続けられない、という話を聞くことが多い。もともと職住接近が可能な京都だったものの、若い人は街の中心部に住むことができなくなっている、などという話も聞く。
という理由もあり、今年、京都市内の建物の高さ制限が緩和されることになった。
なに? となると、この古い街並みはどうなる? と心配したところ、条例が緩和されるエリアは市街地全域ではなく、主に京都駅の南側と山科エリアに限られているらしい。ただし、東寺の南側や山科エリアは高さ制限が撤廃されるので、そこには高層のオフィスビルやタワーマンションが並ぶのかもしれない。
もしかすると、新幹線のホームから見える東寺の塔の向こうには、高層のオフィスビルが立ち並ぶのだろうか? なんだか切ないな。とは言え、ここで暮らす人にとって、何もかも古いままで良いはずもなく、防災上でも必要な再開発だってあるはず。どこかにいい落としどころがあればいいんだけど。
などなど、再開発計画についてはあくまでも酒の席での噂レベルなので、関心のある人は資料で確認してみてください。
それでは、今年最後のモーニングセットを食して帰ろう。
僕はどこに行くにもホテルでは素泊まりにして、近所の喫茶店でモーニングセットを食べることを旅の流儀にしている。という話は以前もしました。ましてやそこが喫茶店の都でもある京都であればなおさらです。
二日酔い気味ではあるけれど、昼過ぎには京都駅に行かなくてはならない。エイヤッと起きて、近所の喫茶店へ。
この店には、今でもスポーツ新聞をゆっくり読んでいるおっちゃんが多い。この気分、昭和でいいですね。ここ数年の間に、東京ではスポーツ新聞を置いている喫茶店が少なくなった。どころか、お店の人がコーヒーを運んでくれる喫茶店が絶滅しかけている。残念なことです。
その点でも、さすが京都と言うべきなのか。あらゆる時代のあらゆる楽しみ方が共存している。僕が京都にたびたび来る理由は、実はそういうところが好きだからなのです。
さてと、チェックアウトして帰りますか。
今日も快晴。いつもの街が動き始めました。
昨日までクリスマスの飾り付けをしていた店は、今ごろは年末年始の仕様に取り替えているのだろうか。いつか京都で除夜の鐘を聞きながら年越ししてみたいけど、年始はどこもお休みになるのかな。
あ、そうだ。帰りの新幹線から見た富士さんがきれいだったので、最後に貼っておきます。
それでは皆さん、良いお年をお迎えください!
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