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ClubHouse大流行と"オンラインネイティブ"世代の誕生について

[なんの記事]
with covid-19 によりオンラインコミュニケーションが急速に普及、そのイメージも大きく変化している。オンラインコミュニケーションへの価値観の変化をClubHouseを例に挙げながら考えつつ、広報としてコミュニケーションにこれからどう向き合うかを考えた記事。

ここ一週間ほどで急激に広まりを見せている音声版SNS "ClubHouse”。
話したいことがある人が幹事(モデレーター)となり、「Room」と呼ばれるオンライン上の部屋を立てると、その部屋に集まった人同士で会話する/その会話を傍聴することができるサービスだ。

現在でも、公開インタビューやトークイベントなど発信用の部屋、共通の趣味を持つ人が集まり語り合う部屋、雑談部屋・全員ミュートの作業部屋などがたてられており、それぞれで様々な形のコミュニケーションが生まれている。

私たちのコミュニケーションは、with covid-19 による急速なオンライン化が進んでおり、ClubHouseは新しいオンラインコミュニケーションの形の一つだと、考えている。

そういったこともあり、私が普段担当している広報の業務は「コミュニケーション」の領域にあたるため、ClubHouseはどういうコミュニケーションを生み出していて、「今後のコミュニケーション」の姿はどうなるかについて考えてみたいと思う。

1.  ClubHouseはオンライン社交クラブ

ClubHouseは当初、スタートアップ界隈の人から広がっていることから生じた「華やかなイメージ」から、爆音のなかダンスをする「クラブ」のイメージとともに広まっていった印象があった。

ただ、使われ方の実態としては同じ社会階層(何らかの共通点)を持っている人が集まる場である「社交クラブ」の方が合っているように感じている。

利用者は招待制という仕組みによって「知り合い同士」とつながり、その会話を自身のフォロワーに発信する。または、興味のある話者をフォローしその会話を聞くことができる。

「自分が普段考えていることをフォロワーに対して発信する」、「興味がある人の考えていることを知ることができる」という点は、既存のSNSプラットフォームと共通のものだ。

「会話」を発信するツールであるClubHouse

SNSごとの違いは、そのコンテンツの形式からも説明できる。Twitterは120字以内の短文からなる「つぶやき」、instagramは「写真・動画」といった具合だ。そのコンテンツごとの差異は、それぞれのSNSの特徴を生み出している。

では、ClubHouseのコンテンツは何かというと、「会話」と言ってしまって差し支えないだろう。

そのため、発信するためのコンテンツを一人で作ることは難しい。
モデレーターは聴衆から話し相手をピックアップしたり、複数人が集まって1つのRoomを立てたりする。

ここでのポイントは、あくまでもコンテンツは「仲間/同志との会話」であり、発信者にとってオーディエンスは「部外者」にすぎないことだ。

発信者にとってオーディエンスは、カフェでたまたま隣の席に座っているため、自分たちの会話が聞こえてしまっている「他人」である。だから、オーディエンスを発信中の会話の中に招き入れるかは発信者の意思に任されている。
それは、隣の席の見知らぬ人に突然話しかけられたとき、その呼びかけに答えるかが自由なのと同じだ。

オーディエンスは、話者と同じRoomで生の声を聴くことで距離が近くなったように感じることはできても、両者が他人である限り「話者と聴衆」の関係性を変化させることは難しい、

と思っていた。

2. 「オンラインきっかけの人間関係」は増加する

ある日、オーディエンスとしてRoomに入っているとき、興味深い場面に出会った。

知り合い同士のモデレーターが会話をする中で、そのうちの一人が自身のフォロワーを話者として登壇させた。
新しく話者になった「元・聴衆」は他の話者とは初対面であったが、会話は弾み「今度一緒に〇〇しましょう。Twitterから連絡します」というところまで関係性が深まった。

実際に彼らが連絡を取ったどうかはわからずじまいだ。だが、もしこの関係がその場限りで終わらなければ、私はその時、オンライン上で人と人とが出会い、関係が生まれる瞬間を目にしていたことになる。

他者の仲介は、オンラインの人間関係の信頼度を高める。

これまで「オンライン初対面」からオフラインでのつながりが生まれる形は①掲示板やtwitterなどのオフ会 と ②マッチングアプリ の大きく二つがあった。
この2つと上述した ClubHouse での出会いの大きな違いは、「出会いを仲介する人間がいたかどうか」だ。(ClubHouseの共通趣味Roomで初対面の人とのつながりが生まれることもあるが、それは①のパターンと同類だといえる)

従来の出会い方と比較すると、上述した ClubHouseでの出会いは、「友人の紹介」であるため、相手についての情報が信頼度が比較的高いものとなる。すると「はじめまして」の瞬間から一緒に仕事をしたり、プライベートでの関係性を深めたりするのに必要なコミュニケーション量を格段に少なくすることができる。
こうしたオンラインでの出会い方が普及していけば、オンラインのみで関係性を深めていくことの難易度は、オフラインのそれと同等まで低くなりうるだろう。

3. 「はじめましてはオンライン」が、多数派になる可能性

ClubHouseは18歳未満は使用不可となっているが、twitterにも同様の機能が試験的にリリースされていることもあり、若年層にもこういったコミュニケーションが広がっていくことは想像に難くない。

特に、2001年度に生まれた世代は(何らかの事情で留年などをしていない場合)高校卒業のタイミングは2020年3月だった。
つまり彼らは、Withコロナ真っ最中の時代に、大学や専門学校への入学や就職といった、人間関係を大きく広がるタイミングを迎えていた。

外出が自粛される中、大学ではオンラインでの新歓イベントやオリエンテーションが、企業ではリモート入社式や社員交流会が行われ、たくさんの「はじめまして」がオンラインで生まれていた。

そして今後、人との接触に制限がなくなったとしても、一度はじまった「オンライン授業」や「リモート面接」はなくならない。プライベートでもオンライン主体のコミュニケーションは続いていく。
それは対面でのコミュニケーションと比較したときに「手軽に・誰とでも」つながることができるからだ。

21世紀以降に生まれた彼らにとって、「オンラインのはじめまして」もそこから生まれる友人関係も珍しいものではなくなるだろう。すると、彼らの「オンラインの場で人間関係を築く力」は、それ以前の世代の人たちと比べて圧倒的に高いものになる。

彼らにとってオンラインでのコミュニケーションはオフラインでの代替ではなく、「当たり前」のものだからだ。
生まれつきデジタル製品が身近にある世代を "デジタルネイティブ" と呼んだのに習うと、オンラインでのコミュニケーションが当たり前になった世代のことを "オンラインネイティブ" と表現することができるのではないか。

今後、VRデバイスの普及をはじめ、オンライン上のコミュニケーションをより滑らかにするツールも多く生まれていくだろう。
そういった中で、「メールやチャットで済むのに、なぜわざわざ電話や訪問が必要なのか?」という問いと同様に、「なぜオンライン上で話せば済むのに、オフラインでつながる必要があるのか?」という問いを持つ ”オンラインネイティブ” が現れることは不自然ではないように思える。

4.  コミュニケーションの「普通」を常にアップデートしていくこと

冒頭でもふれたが、私が担当する業務である「広報」はコミュニケーションを司るものである。
今現在でも多くの広報の方が、オンラインコミュニケーションの普及 / 対面での接触機会が減少している中、どのようにメッセージを発信していくのがよいかを真摯に考えていると思う。

また、業務として広報に関わっていなくても、with covid-19 におけるリモートワークの普及に伴い、コミュニケーションにおける「オンラインとオフラインの使い分け」を考える機会を持った社会人は多かったと思う。

しかし、それは「オンラインとオフラインに対する価値観」をある程度共有できているなかでの使い分けに過ぎなかった。
今後 "オンラインネイティブ" が増えていくとしたら、個々人が持っているコミュニケーションの価値観、いうなればそれぞれの人にとっての「普通」のコミュニケーションという言葉が示すイメージはより多様になっていくだろう。

広報に携わる身としては、このコミュニケーションの「常識」の幅が広がったことを、改めて強く認識する必要があると考えている。
効果的な発信のためには、届けたい相手の前提を踏まえて、メッセージを作りこむ必要がある。この「常識」の拡張はコミュニケーション設計を一層難しくするだろう。

私たち広報は、コミュニケーションの普通が人によって違うことに一層自覚的になるとともに、届けたい人それぞれが持つコミュニケーションに対する価値観を一層注意深く観察し、彼らに伝わりやすいメッセージはどんなものになるかを常に考え続けなければならない。

「これが普通のコミュニケーションだ」と決めつけ、アップデートを止めた瞬間、そのメッセージはきっと誰にも届かなくなるから。


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