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こんな気持ちになるなんて。

こんにちは😃北海道十勝で、児童養護施設出身、少年院出身の青年達の自立をサポートするNPO法人スマイルリングの青年達との日常をnoteしています。

何年も、毎日毎日、
ずーっと、
ただただ、辛かったこの心が、

“こんな事に負けてたまるか!”
“負けない!”って気持ちになって…。

電話の向こうで
涙を流しながら、

しかし、
今までとは明らかに違う
力のある声でこう言った
○○君のお母さん。

ああ、これでやっと一歩、
何かが変わっていくのだろう…。
そう思った。

とても可愛い子だったようだ。

幼い頃は身体が弱く
入退院しては
ヤキモキしながら育てた。

発達障害の多動で落ち着きが無く、
学校に行くようになると
先生に怒られてばかり。

可哀想だと思いながらも
どうしたらよいのか、分からない。

野球を始めると
メキメキと頭角を現した。
そんな息子の姿はとても嬉しかった。

背もグングン伸びて
可愛かった息子が
見る見る逞しい体格になっていく。

夫婦で一生懸命に応援し、
野球だけは絶対に辞めさせ無かった。

だから推薦で
野球で有名な高校に入ってくれた時は
本当に嬉しく、安心した。

なのに直ぐ、
退学になってしまった。

息子はそのまま
非行の道へ真っしぐら。

全く、
息子の事が
分からなくなってしまった。

夫と一緒に右往左往し
息子が次々とやらかす
あれこれの後片付けに
身も心も苦しみ、悩む毎日。

特別な事を望んでいる訳では無いのに、
ごく普通の、
ささやかな日常が消えてしまった。

私のどこが間違っていたのか。
いつまでこんな苦しみが続くのか。

そんな親の心痛など
まるで目に入らないように
息子はどんどん堕ちていった。

それは“薬物”という
地獄の底なし沼。

金属バットを振り回す
見た事も無い我が子の形相に、
心臓に釘が打ち込まれる程の
衝撃を受けた。

獣を捕まえるように
大勢で羽交締めにし、
精神病院へ連れて行く。

息子の入院中、
ほんの少しだけ得られる
切ない静かな生活。

しかし二度の入院中
病院に相当な迷惑を掛けたという事で

その後どんなに様子がおかしくなっても
入院を断られてしまった。

私達は、
世の中に、
見捨てられてしまったのだ。


絶望感に叩きのめされる。

もう、限界。
耐えられない。

この子さえ、居なければ…。

そして息子は少年院に行った。


○○君と私が出会ったのは
彼が少年院から出て来て直ぐの事。

理事長の堀田が
少年院で講話をした時に

どうしたら薬物をやめられますか⁈

そう質問して来たのが○○君だった。

それから間もなくして、
出院する彼の母親から

“息子を預かって欲しい”
とのLINEが届いた。

私は○○君の受け入れを悩んだ。

一人の青年を受け入れる事自体、
そんなに簡単な事では無い。

いろんなモノを抱えている青年達は
もれなくいろんな事をやらかすが、
それを毎回、覚悟して受け入れるのだ。

スマイルリングは
保護者の居ない、
保護者に頼る事の出来ない青年の
自立をサポートする団体だ。

ほとんどの場合、
ある日突然“着の身着のまま”の姿で
彼等はスマイルリングに辿り着く。

それに対し、○○君の母親からの
そのLINEの文面には“違和感”を感じたのだ。

『預かってくれなきゃ、私が困る』
そんな風に感じた。

そして彼は“薬物依存者”であるという。

“薬物”を使う者に伴走するのが、
どれほど命をすり減らす伴走になるか。

実際、
私が一番、辛くて苦しいのが、
薬物やアルコールが無いと生きていられない
そんな青年の、めちゃくちゃな心や行動を
目の当たりにする事なのだ。

嘘をつく、物を壊す、暴れる、
イライラする、ヘラヘラする、
人を傷付ける、自殺紛いの事をする…。

自分や他人の
命や生活を大切にしない。
とにかく、自分勝手なのである。

その、
理性が切れた時の衝動。

泥酔している人を
誰でも一度は見た事があるだろう。
決して気持ちの良いものでは無い。

ただそのほとんどは
たまに深酒をして
大失敗してしまうだけの事である。

だが、
『何をしたか覚えてません』と
日常的にそんな事をやらかす者と
一緒に居て振り回される事が、
しんどく無い訳が無いでは無いか。

その青年がどんな子かは分からないが、
“本当に対処する事が出来るのだろうか”と
私は本当に不安だったのだ。

その不安を少しでも軽減させたくて、

とかちダルクさんに伺ったり、
東京の薬物依存者の支援を行っている
友愛会の田中さんにも沢山お話を伺い、
真剣に悩んだ。

ただの“思い”だけで受け入れて、
途中で“放り出す”ような事だけは
絶対にしたくないのだ。

○○君の情報も足りな過ぎ、
両親から聞く話しは、
“隠されてるな”と思うばかりだった。

ただ、理事長の堀田は、
少年院で目を輝かせながら、
一生懸命、質問してきたこの青年を
受け入れると決めてしまった。

私のとても強い
不安や心配は、全部堀田にぶつけたが、
それでも彼は“受け入れる”と決めたのだ。

そして私も
思い悩んだ末に思い至った。

この堀田をはじめとする
私が最も信頼し、
心から大好きな人達の多くが、
“元、薬物依存者”であるという現実を。

薬物やアルコールを一日一日と辞め続け、
その最悪の過去を、
日々、価値に変える人生を送っている。

この、心の優しく、
私をいつも助けてくれる
壮絶な過去を持ったこの人達の存在が、

絶対に、
人間の可能性を諦めてはならないと
私に教えてくれているではないか…。

それから手探りの
○○君との日々が始まった。

受け入れてみると
彼はとても人懐こく、
まだまだ遊びたい盛りの甘ったれだった。

『オカン!目ぇ、ギュッてしてぇ!
 マッサージしてぇ〜!』

“だーれだ?”とするように、
両手で目をギュッと覆うと落ち着くのだ。

毎晩そんな彼の頭を後から抱えながら
一緒に過ごす時間が増えていくにつれ、
やっぱり、彼がどんどん可愛くなっていく。

少しずつ、
彼の話に耳を傾けていった。


薬物をしていた時の彼の話は
まるで別人のようだ。

身の毛もよだつような
恐ろしい話が飛び出してくる。

○○君は少年院に入る前、
恐ろしい環境の中に居た。

その恐ろしい集団の中に居ると、
例えどんな酷い事をしても
その中では“普通の事”になってしまう。

“凶暴さ”を“強さ”と間違え、
仲間と“薬物”をする事を“根性”と間違え、

その中に居る為に、
命じられるままに酷い事をし、
他人や自分の命を傷付けていたのだ。

同じ人間の中に、
いろんな自分がいる。
それは皆んな、同じだ。

どんな人であれ、
自分でも分からない自分がいる。

とんでもなく酷い自分、
醜い自分もいる。
だがしかし、
誰かを思いやる事も出来る、
そんな自分だっている。

私はその、
誰もが持っているはずの
人間の“善性”を信じている。

案の定○○君は時々
いろんな事をやらかした。

今までは何をやっても
“親”が解決してくれ、

お金が無いと言えば“お小遣い”をくれたし、
問題を起こせばその都度、
お金で尻拭いをしてくれた。

しかし何故か、
その親はもう助けてはくれない。
○○君はそれが不思議で
とても不満だったようだ。

時々、そんな○○君の様子を
母親に知らせたが、

“もう北海道から
一生帰って来ないで欲しい”

“大変でしょうが、
ののむらさんに全部、お任せします”

そんな返信が来る度に、
複雑な思いに囚われた。

母親とのやり取りは
○○君の問題そのものだとも感じ、
正直、時に怒りを感じる事もあった。

だが、責める事は出来なかった。
母親も心に深い傷を負っているのを
感じたからだ。

何度も何度も
電話やLINEのやり取りを繰り返し、

彼の写真を送ったり、
こちらでの様子を伝えていった。

すると少しずつ、
母親自身の、子供の頃からの辛い記憶や

○○君の小さな頃からの
様々な思い出が語られるようになり、
それに耳を傾けていった。

○○君が何か問題を起こす度、
彼とも母親とも関係が密になっていった。

どの青年もそうなのだが、
何か事件や失敗が起きた時こそ、
何かが変われる、
絶好のチャンスなのだ。

それはその青年の成長だけでは無く、
私達大人の成長、経験も含めての
転換期となる。

今も彼や私達は、
その転換期の中にいる。


ここに至るまでの何ヶ月の間、
私は本当に彼を
“迎え入れて良かった”と思いこそすれ、
“辞めとけば良かった”とは
一瞬も思った事が無い。

彼は、本当に可愛い青年だ。

そして母親の心にも変化が起きている。

いつも悩ませる
あの子が憎くて、辛くて。

でもね、
“私、何やってるの、
 こんな事に負けてられないのよ”って
思ったんです。

こんな気持ちになるなんて、
思ってもいませんでした。

あの子が本当に幸せになれるように
これから私は、真剣に祈ります。

この母親の暖かさを、
○○君は待っていたんだろうなぁ…
そう思った。

○○君だけでは無い。

私の愛する青年達の中には
危うい毎日を送っている子が多い。

彼らは弱いのでは決して無い。
むしろ、のたうち回って生きてきた。
そして、とてつも無い程の
可能性を秘めているのが本当の姿だ。

その彼らの中からチラチラ見える
素晴らしい素顔は、
どんな時も私に希望をくれる。

彼らが一日一日、生きている事。
毎日、成長し続けている事。

それを私は
ずっと見守っていきたい。

彼らに沢山の事を教わり、
育てて貰っている。

NPO法人スマイルリング
理事 ののむら ちあき💫✨


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