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怒りと闘う。

こんにちは!北海道十勝で、児童養護施設出身、少年院出身の青年の、自立をサポートする団体 NPO法人スマイルリングでの、青年達との日常をnoteします☺️🙏✨

彼と初めて出会ったのは、
彼が18歳になってすぐの事。

生意気な態度、表情、言葉遣いだった。

ニヤニヤと笑ってはいるが、
腹の底では
“怒っている”のが伝わってきた。

何か問い掛けても、
こちらが面倒臭くなるような
幼稚な返答をしてくる。

例えば、

“ジュース、何飲む?”と聞いたら、
冷蔵庫からマヨネーズを出してきて

“これです”

一度や二度ならいいのだが、

何度も何度も
同じ言葉を繰り返す。

“これ、これです”

試されている…?
いや、そうではない。

大人の事が嫌いなのだろう。

怒りのようなものが
彼から伝わってきた。

彼と一緒にドライブに出掛けた。

並んで座り
足湯に両足を突っ込みながら
ソフトクリームを食べ、
彼の話に耳を傾けた。

初めは小さな、
途切れ途切れの
呟きだった彼の声は、

徐々に、周囲の人がビックリして、
こちらをチラチラと見るぐらいの
大きな叫び声に変わっていった。

『何で俺が、
 こんなところに
 来なくちゃ行けないんですか!』

“アイツら殺してやりたい”
弾丸のように飛び出し続ける
彼の怒りの声に耳を傾け続け、

2人共、足がふやけて
頭がのぼせてグラグラするまで
並んで話した。

“この子が怒るのは当たり前だな”

詳しい事情が分かった訳では
無かったが、そう思った。

“この子と一緒に居よう”

そう決めた。

その日から彼は、
少なくとも、私の前では
生意気な態度を取らなくなった。

でもまだ、
大人の私の事を信じるのは怖く、
どう接していいかを
計りかねているようだった。

ただ、彼なりの、
私への近づき方だったのだろう。

私に“恐怖の大魔王” という
あだ名を付けた。

なんかおっかないもん。
逆らっちゃヤバそう。
だから、ちあきさんと堀田さんには
絶対に逆らわない。』

次第に言葉使いも丁寧になった。

彼とは時間がある限り一緒に過ごしたが、
会ってもほとんど無言の事が多かった。

ソワソワとしていたり、固まったり、
どうしていたらいいのかが
分からない様子だった。

それでも毎回、
『会いたい』と言ってくれた。

ちょっとだけマックに行って
黙って一緒にハンバーガーを食べて帰る。

そんな時間を重ねてきた。

しかし、
私や堀ちゃんと一緒の時は
大人しく静かな彼も、

職場である“就労支援事業所”では、
傍若無人に振る舞い、
職員に咬みつき、暴言を吐いていたようだ。

いつもイライラしている彼は、
ちょっとした事でも
内から湧いてくる怒りを
上手くコントロール出来なかったのだ。

途中、何度も
“危機的状況”を迎えた。

事業所の社長さんや職員さんは、
本当に、“よくぞ持ち堪えたものだ…”と
溜息が出るほどだ。

オマエ!、死ねや!、ウザい!
黙れ!…。

そんなふうに、
怒りを周囲にぶつけまくった。

ただ私は、
事業所の皆さんには本当に、
心の底から気の毒だと思っているが、

帯広に来てからは、
まだ誰にも手を上げていないね”

そういつも、彼を褒めていた。
本当に、心の底から
そう思っていたからだ。

小学校低学年の時に
親元から施設へと入園させられた彼は、
寂しさとパニックで、
学校でも施設でも暴れ回る問題児だった。

小学四年生の時、
学校に金属バットを持ち込み、
振り回して、学校を転校する事になった。

施設から児童相談所へと移送されたら、
そこには『体罰という躾』があった。

19時になったら、オヤツの時間なんですよ。
でも、俺のオヤツだけは極端に少なくて。
ご飯も俺のだけ少ないし、
何かあると直ぐにバンバン叩かれるし…。

その後、
別の児童養護施設へと移ることになった。

やっと少しは楽になれるかもしれない…。
そう思っていたその日から、

今度は、上級生達から
壮絶な“虐め”にあう事になった。

殴られ、蹴られ、髪を引っ張られ…
ライターで炙られ、
囲まれて、毎日脅される。

でも一番悔しかったのは、
誰も助けてくれない事”だった。

そんな風に、
小さな頃から受け続けた
彼の恐怖や、怒り、苦しみ。

理不尽で嫌で、
とっても重たい物を
持ち続けてきた彼は

度々パニックを起こし、
怒りを爆発させる度に、

“お前に原因があるからだ”

と、大人達に言われ続けて
どんどん大人が嫌いになった。

挙句、縁もゆかりもない
この帯広の地へ。

スマイルリングがあるから
『行け』と言われて
ここへ来るしか無かったのだ。

彼の命の底に溜まり続けたものが、
怒りの塊になり、
それが吹き出していた。

そんな彼も、
ここに来てもうすぐ3年になる。

二十歳を迎えて、
どこかあどけなかった顔も
最近は大人びてきた。

この年月の間に、
彼とは一緒にいろんな経験をした。

様々な人との出会い。
面白くて、優しくて、
変わった大人達とも沢山出会った。

その大人たちは、
彼がどんな時にもごく自然に
ありのままの彼を受け止めてくれた。

その中に居て、
彼はビックリするぐらい
コミュニケーション能力が上がった。

元々はのんびりした話し方をする彼が、
かつては暴力で周りを困らせていたなど、
そこでは誰も思うまい。

だが、彼は今も
“内面の怒り”と闘い続けている。

私自身も、
彼や、スマイルリングで出会う
青年達の話に耳を傾けていると、

彼等を痛めつけてきた
様々なものへの“怒り”の炎が燃える。

彼は優しい心を持っている。
『僕はちあきさんを支えますよ』
そう言ってくれる。

“怒り”だって、大切な感情だ。
過去は変えられないから
今更いくら怒ろうが…かもしれないが、

彼が語る本当に貴重な体験を、
怒りを、
これから私達が進む道の中で
語って行きたい。

彼の悔しい過去を
価値に変換しゆく為のエネルギーに
一緒に変えて行きたいと思う。

NPO法人スマイルリング
理事 ののむら ちあき💫

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